オーソドックスな曲ですが、新歓のために実際に吹いているという設定で、それと被せながら北宇治高校吹奏楽部の日常に入っていくというのもポイントが高いです。
「人間関係の描き方(それがこじれたりほぐれたりする時の絶頂)」「吹奏楽の演奏」というこのアニメの魅力成分を前面に押し出しながらも滑らかに入る、凝ってますね。
そして、序盤~中盤を彩るのは第1期のメインテーマであった部活における「先輩後輩」と「実力」。
本シリーズの最も魅力的な主題に原点回帰しつつ、異なった視点を持ってくるのが良いですね。
愛想とキャラで集団に溶け込むさつきと、実力はあるが「頑張り(頑張ってる感じ)を評価」「先輩優先、先輩に気に入られた子優先」な文化に嫌悪感を示す美玲の対立は第1期の吉川優子対高坂麗奈のおさらいという感じ。
そこにスパイスを加えるのが奏で、彼女は「下手な上級生」である中川夏紀にコンクールメンバー入りを譲るべくオーディションで手を抜くという暴挙に出ます。
それを阻止し、「そんなことされても嬉しくない」と迫る夏紀。
逃げ出す奏を追う久美子が投げかける言葉には本作が伝達しようとしていることが詰まっています。
努力しても報われないことがある、何にだってならないこともある。
それでも「上手くなる」を目標にやるんだ (卒業した田中あすか先輩の影響)。
他人に評価されるとか、コンクールメンバーに選ばれるためにではなく、自分の意志として、自分を高めるために、あるいは自分の人生を充足させるためにやる。
久美子の台詞には「自分の人生に責任を持つこと」の端緒が感じられ、これが本シリーズに多くのアニメとは異なる良さを与えているのだと思います。
自分の人生、自分の目標、自分の幸福を自分自身で考え、自分自身が自分自身にそれを与える、それを理解している人間の言葉ですよね。
また、奏がこのような歪んだ考えを持つようになった過程も物語をしっかりと盛り上げています。
中学校のときに先輩を差し置いて実力でコンクールメンバーに選ばれた奏。
先輩の代わりに金賞を獲ってくる、その重圧の中で必死に練習したのにまさかの銀賞。
これなら先輩が出たほうが良かった、という恨み節がどうしても聞こえてくる。
北宇治が上手くいったのはたまたま全国大会出場という結果が出たから。
そうでなかったら麗奈への風当たりは強くなっていたはず。
奏は「有り得たかもしれない北宇治」を背負って登場した人物なのです。
それに対して、直接間接に久美子や夏紀が言う台詞も良いですよね。
他の環境では先輩を優先しなきゃこじれるのかもしれない。
でも、いま、この北宇治は違う。
奏にとって、初めて「良い集団」に入れた瞬間なのでしょう。
そんな集団の中で物事に没頭することは充実の条件ですが、その前にはそんな集団などあり得るのかという戸惑いがあるものです。
上手く表現されていると思います。
それにしても、「いつも明るい人が盛り立ててくれる雰囲気の貴重さ」「人間社会で生きていく以上、愛想なども能力だということ」を認められず、受け入れられないのは高校生独特の青臭い未熟さだなぁと視聴時には思ったのですが、ふと周囲を見ると大人でも中々できてない人が多いんじゃないかと思ってしまいました。
実力もないのに明るく楽しくやっている者への怨嗟、それこそ人生を楽しめていない自分自身のエゴなのだと心をコントロールし、様々な個性を集団が良くなる方向にもっていく。
そんな技術が現実のマネジメントや対人関係には求められますよね。
部活における人間関係の微妙さ、先輩後輩システムと実力、そのなかでの「努力」や「スポ根」がどうあるべきか。
公立高校の部活についての率直だがえげつない問題の抉りだしとそれえゆえの劇的な展開という本シリーズが持つ根源的な魅力がよく活かされています。
1年生での経験を通して、「一生懸命打ち込むこと」に目覚め、それを盲目的にでなく自分の意志や考えで行えるようになった久美子が、それを色んなアプローチで後輩に伝えていくのはシリーズものである良さも出ています。
【後半部】
あらすじ
1年生がもたらした波乱も見事解決し、先輩としての主導力を見せた黄前久美子。
京都府大会も無事突破し、合宿など部活の練習に打ち込むのはもちろんのこと、あがた祭りでの塚本修一や高坂麗奈との交流、父親に問いかけられて将来のことに思い悩むなど、部活以外でも様々な経験や葛藤を積み重ねていく。
そして迎えた関西大会、OBOG達が見守る中、北宇治高校吹奏楽部は2年連続の全国大会出場へ挑むのだが......。
感想
充実していた序盤~中盤に比べ、あまりにも駆け足感が強かった終盤の展開。
やや残念だったことは否めません。
原作小説2冊分を1本の映画に纏めている弊害なのかもしれませんが、(リズと青い鳥を別立てで製作しているとはいえ)こちらも前後編でやってほしかったなぁと感じてしまいます。
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