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アニメ映画 「劇場版 SHIROBAKO」 監督:水島努 星2つ

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劇場版SHIROBAKO
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3. 感想

2時間という劇場版の尺にあれもこれも詰め込もうとしたためか、全体的に浅さを感じてしまいました。「空中強襲揚陸艦SIVA」の制作受諾を決めたあと、あおいは人員確保のため過去に「武蔵野アニメーション」の仕事を受けてくれていたフリーランスの人々や他社に散ってしまったかつての社員に声をかけていくのですが、映画の中で最も尺が長くメインとなるこの過程において「ファンサービスのため、テレビシリーズで出てきた懐かしの面々をなるべくたくさん出して喋らせよう」という魂胆ばかりが優先され、一つの物語としてのドラマを作ることに失敗していたと思います。

もちろん、テレビシリーズのファンとして様々な登場人物の「四年後」を目にすることができて嫌な気分にはなりません。

しかし、ここでの各登場人物とあおいとの交わりが物語の中盤~後半にかけての伏線には全くなっておらず、物語を盛り上げる要素として働いていないことは大問題でしょう。それぞれの登場人物との邂逅も心動かされるようなエピソードとして構築されておらず、「よく知っているキャラクターの再登場が懐かしい」という、物語の魅力とは全く別のところから湧き上がってくる感情でしか肯定しえないものです。

また、そのような過去の登場人物との邂逅エピソードの中で最も尺が長かった、アニメーター遠藤亮介(えんどう りょうすけ)の話が目を覆いたくなるほど低質だったことが事態の悪化に拍車をかけています。

「タイムヒポポタマス」の制作中止以降腐ってしまい、碌に働かずゲームセンターに通う日々となっている遠藤。家計は妻の麻佑美(まゆみ)がスーパーで働くことにより支えられている。そんな不甲斐ない夫の姿に麻佑美は文句ひとつ言わず、それどころか全身全霊で夫を励まし続けるという内容。

麻佑美の行動はその全てが男性向けラブコメ作品に出てくるような男性視点ご都合主義的振る舞いであり、これが本当にSHIROBAKOなのか、こういうことをしないのがSHIROBAKOではないかと愕然としてしまいました。

どこまでも絶妙なリアリティ路線を行くという作品への信頼性が削がれて興醒めであり、これがコメディリリーフではなく真剣な感動エピソードとして演出されているのですからたまったものではありません。

そして、これだけ細切れに「懐かしの登場人物たち再登場」場面を繰り返すわりには、あるいは、終盤の展開もかなり駆け足なわりには、最序盤に出てくるミュージカルシーンが異様に長いんですよね。たった120分しか上映時間がないのに体感で10分、下手したら15分くらいやってるんじゃないかと思うくらいのミュージカルシーンが序盤に挟まります。

しかも、(本物のミュージカルと違って)ミュージカルによって物語が進行するわけでもなく、後々の重要な伏線にもなっていないという「捨てシーン」同然の扱い。ここでもテレビシリーズの懐かしシーンが再現されたり懐かしキャラクターが出てきたりするのですが、それだけのために物語全体を停滞させてその質を下げているようではミュージカルシーンは入れない方がマシだったと言わざるを得ません。

一応、あおいがアニメに対して前向きに取り組んでいく心理変化描写という役割はあるのですが、それは逆に、粗っぽいミュージカルの中ではなく本筋のドラマとして濃やかに描かれるべきだったはずです。SHIROBAKOという作品はそういった心理描写が魅力の一つなのですから。

他にも、特段に重要な役割を果たすわけでもない新登場人物や、子供にアニメーション制作のやり方を教えているうちにアニメーションづくりの楽しさや純粋さを思い出すという手垢まみれの手法を使ったエピソード(何かいいことを言っているようで何も言っていないような発言を登場人物たちがして終わる)は空虚さを感じさせますし、悪徳制作会社への討ち入りシーンはアニメーションが豪華なだけで物語上の演出としては何の意味もなく、最終盤における映画のラストシーン描き直しエピソードも要約すれば「もっと頑張れるなら頑張ろうよ」というだけの話であって視聴者を感動させる仕掛けが全くありません。

現実感がある心理的葛藤だったり、社会問題や視聴者の日常を上手く反映したトラブルから生まれる苦しみ、どんでん返しによる逆転劇。

そういった、テレビシリーズで見られたエンタメ要素が全くなかった点については完全に期待を裏切られました。

加えて、映画全体を振り返って特に違和感を覚えたのは主人公格である5人組の友情にスポットライトがほとんど当たらなかったところですね。「上山高校アニメーション同好会に所属していた5人がぞれぞれの方法で一緒の夢を追う」という本作の原点が全く意識されておらず、最後に映画が完成しても「それで?」のような感想を抱いてしまいます(「SHIROBAKO」という作品の究極目標は単に映画が完成することではないはず)。

5人それぞれのエピソードも「何かやってる」「何か(表層的な)いいことを言ってる」に終始しており、そこには物語足り得るドラマが存在しません。

加えて、これはテレビシリーズから引き続きの欠点でありますが、恋愛や結婚関係の描き方が希薄なのは決定的な欠点ですね。これを描かずして「人生」や「働くこと」を描いているとは言えないでしょう。

現代社会を生きている以上、これらの問題は恋愛や結婚をしない人の肩にも降りてくるものなのですから。

4. 結論

期待が高かっただけに非常に残念でした。

まぁ、典型的なアニメ表現(遠藤さんの妻)や「とにかく頑張ろう・夢を追えばいいじゃん」で全部解決(丸川前社長があおいに語ることや最終盤の展開)という要素はまさに普通のアニメそのものなので星2(普通)にはしておきますが、ううん、という言葉しか出ません。

木村珠莉 (出演), 佳村はるか (出演), 水島 努 (監督) 形式: Blu-ray
☆☆(映画/アニメ)SHIROBAKO
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明日も物語に魅せられて

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