「ナンパ」を題材とした全2巻の短編漫画。
「闇金ウシジマくん」の作者として有名な真鍋昌平さんが原作を務めております。
とはいえ、チャラいナンパ師がコリドー街や江ノ島で女性を「ピックアップ」してはセックスする様子を描いた漫画、というわけではありません。
主人公はいかにも「陰キャ」な新卒社会人であり、そのバディとなるのがデキる先輩という構図。
この先輩が主催する「魁ナンパ塾」に主人公が入塾し、様々なナンパ術を学びながら社会を生きる「漢」としての技量を高め、仕事でも成功していくというサクセスストーリーです。
へたれ主人公が「師」の導きで成長し、強さを身に着けながら自立して一人前になっていく。
そんな少年漫画を彷彿とさせる大枠ながら、自由恋愛と「男女平等」が隅々にまで行き渡った現代社会の闇を何でもないことのように描くことで却って生々しく表現しているという面白い作品。
都市部で生きる若手社会人なら共感できること請け合いでしょう。
あらすじ
主人公の南波春海は都内の出版社に勤める新卒社会人。
配属希望はマンガアプリの開発部門だったが、実際に配属されたのは女性誌の編集部。
当然ながら、おしゃれ感が振りまかれ、女性の力が強い職場の雰囲気。
そんな空気の中で、陰キャ童貞な彼はコンプレックスを拗らせまくりながら鬱屈とした日々を過ごしていた。
そんなある日、南波は編集部の先輩である藤原武志から声をかけられる。
南波とは対照的に、いかにも「陽キャ」で仕事においても結果を残し続けている藤原。
自分は不甲斐なくて卑怯者の童貞である。
そう吐露する南波に対し、藤原は呼びかけるのだった。
「魁ナンパ塾に入れ。童貞を捨てて漢にしてやる」
感想
近年流行している「恋愛工学」を強く意識した作品であることは間違いないでしょう。
「モテ」を理論化・体系化してあたかも一つの学問のように扱う概念。
それが「恋愛工学」です。
「女性の心理」を研究し、それに対してメタを張るような振る舞いをすることで自然にモテることができるというのが「恋愛工学者」たちの主張であり、関連するブログやnote、動画がネット上に溢れかえっております。
本書は「恋愛工学」の指南本というわけではありませんが、「『魁ナンパ塾』での経験を通じて成長していく主人公」という物語の中で、ナンパするのに適した場所や、ナンパにおける重要な準備と振る舞いが自然に紹介されていきます。
その中で、現代ナンパ師たちの習性や日常が描写されるのはもちろんのこと、各エピソードの間には現役ナンパ師である「モテぞう」さんのコラムが掲載されるなど、「ナンパ師たちの世界」を一般人に紹介する漫画としても機能しています。
さて、そんな「ピックアップ」ですが、普通に読んでいけば、前述の通り「男の子の成長ストーリー」として気軽に楽しめるでしょう。
非モテ童貞だった南波がイケてる先輩に連れ回される先は、クラブにDJイベント、麻布十番祭り、渋谷ハロウィンと、いわゆる「陽キャ」の世界。
しかも、そこに行く目的は「ナンパ」なのですから、南波にとって全てが新鮮な経験です。
おそらく、多くの読者もこのような場所には滅多に行かないか、行ったとしてもナンパが目的ということはないでしょうから、南波に感情移入して新鮮なハラハラとドキドキを共有することができます。
加えて、なんといっても本書の隠されたテーマは男同士の「友情」。
「魁ナンパ塾」の仲間たちに激励されながら南波がナンパ師として徐々に成長していき、次第にこの「イケてる漢サークル」の一員として自他共に認められていく過程にはカタルシスを感じてしまいます。
男性にとって本当に嬉しいことは、同じ男性の仲間たちから認められること。
それは「女を犯しまくる」よりも快感を覚えることなのだ。
これこそ、本書の隠された主張であると言えるでしょう。
「女を犯したい」という青年漫画でよく題材になるありきたりな欲望要素で上手くカモフラージュしながら、要所要所でこの「男同士の切磋琢磨と相互承認」という真テーマをちらつかせるのが実に上手い漫画です。
ネタバレになってしまいますが、本書は「南波が女性と結ばれること」ではなく、南波が「自信と認め合う仲間」を得たことを自認することでクライマックスを迎えます。
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