小説 「銀の匙」 中勘助 星2つ

銀の匙
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1. 銀の匙

大正から昭和にかけて活躍した小説家、中勘助の代表作です。夏目漱石が本書を絶賛して東京朝日新聞への連載が決まったことから中勘助は小説家として見出されていきました。また、灘中学校において橋本武先生が三年間の国語の授業を本作精読に使っていたという、伝説の授業に関連する書籍としても名前を知られています。

2. あらすじ

主人公である「私」は時々、書斎の棚から小さな銀の匙を取り出して眺める。それは虚弱体質だった「私」に薬を飲ませるために伯母が探してくれた特別な匙だった。

痩せぎすでぼんやりとした子供だった「私」。療養のため引っ越した小石川でもその引っ込み思案は続いていたが、伯母の紹介でお国さんという女の子と遊ぶようになる。お国さんと遊ぶうちに積極性が出てきた「私」だったが、学校へ入学する年齢になると「どうしても学校には行かない」と駄々をこねるようになり......。

3. 感想

夏目漱石の絶賛や橋本先生の言葉に違わず、美しい日本語によって書かれているというのは納得できましたし、その濃やかさがひたひたと心に染みわたるような感覚になったのは確かです。 美しい日本語例文集としては素晴らしいとしか言いようがありません。特に、お恵ちゃんと月明かりに肌を透かし合う場面などはただひたすらに美しいと思いました。

しかし、小説としての総合評価はそれなりという程度に留めざるをえません。まず物語に起伏がなく、ただ主人公が漫然と青少年期を過ごしている様子が淡々と語られていくだけです。小さな事件は色々と起こるのですが、特に印象を残すような出来事にもならず、その中で主人公が何か役割を果たしたり、そのような事件を通じて主人公が明示的に成長するということもありません。「日本語の美しさが追究されている。それで十分」という立場の人からすれば本作に対してこのような問いかけを行うのは無粋なのかもしれませんが、あまりに「物語」がなさ過ぎて、いったい何を表現したかったのか、いったい何がしたかったのか分からない小説になってしまっています。

特に、自伝的小説であるという点からは仕方がないのかもしれませんが、やはり主人公の性格や気質、あるいは行動が小説の主人公とするのにはなかなか難しいものがあると思います。自分から行動することは滅多になく、他人にいろいろ言われてようやく何かを始めるような人間。ガキ大将的な地位に収まることもあるのですが、それも進級に合わせて周囲の仲間よりも年長になっていったという「繰り上がり当選」的な流れでそうなるだけ。そして何より、例えば虚弱だったり、勉強ができなかったり、友達ができないということに主人公が迷ったり悩んだりすることもないというのも万民の普遍的な共感は得づらいでしょう。他人や世の中のことはとやかく言うのですが、自分の人生について悩み行動するという場面に乏し過ぎるのが決定的に魅力の欠如を生んでいます。

4. 結論

物語だけならば星1つですが、描写の圧倒的な美しさを加味して平均レベルの星2つです。

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