アニメ映画 「天気の子」 監督: 新海誠 星3つ

天気の子
スポンサーリンク

1. 天気の子

「君の名は。」で記録的な大ヒットを獲得し、アニメーション映画監督としての名声を一気に高めた新海誠監督3年ぶりの新作。今月(2019年7月)に封切られたばかりの作品ですが、既に「君の名は。」を超える速度で興行収入を伸ばしているという情報まであるほどで、映画ファンの新海誠監督に対する期待の高さが伺えるところです。凡庸な少年と天気を自在に操ることのできる少女のボーイ・ミーツ・ガール物語という触れ込みでしたが、公開初日に大雨からの晴れという天気が実際に起こったりと、まさに日本の現在の(異常)気象とマッチした点でも天命に恵まれた作品になっております。

当ブログでも「君の名は。」については2回ほど記事にしており、もちろん、本作「天気の子」についても公開を楽しみにしておりました。

また、同監督の作品では2013年公開の「言の葉の庭」も記事にしています。

そんな「天気の子」ですが、感想としてはストーリーが中の上、キャラクターは中の中から中の下といったところでしょうか。ただ、演出やテンポといった面では優れていたほか、要素要素を見れば魅力的な点もあり、それゆえ平均を超える作品、星3つが本ブログでの評価となります。

2. あらすじ

季節は夏休みの少し前、高校1年生の森嶋帆高(もりしま ほだか)は家出をして東京の中心街へとやってくる。ネットカフェで寝泊まりしながらアルバイトを探すも、身分証明書のない高校生にできるアルバイトがあるはずもなく、すぐに資金が底をついてしまう。

そんな帆高が最後に頼った人物こそ須賀圭介(すが けいすけ)という男。上京する際にフェリーで知り合い、そこで帆高は須賀の名刺を入手していたのだ。

名刺に書かれた住所を頼りに須賀の居所へとたどり着いた帆高。そこは須賀の自宅兼仕事場で、須賀はアシスタントの夏美と一緒に小さな編集プロダクションを営んでいた。

とはいえ、それはうさんくさい記事をうさんくさい雑誌に寄稿するプロダクションであり、帆高は嫌悪感を覚えるものの、須賀に説得されそこでアルバイトを始めることになる。慌ただしい毎日の中、あるとき、帆高は「100%の晴れ女」というネタに取り組むことになった。ネタを追っていた帆高は偶然、強引に風俗嬢にさせられそうになっている少女を見かけ、身体を張って彼女を救出する。その少女こそ、本物の「100%の晴れ女」、天野陽菜(あまの ひな)だったのだ。

陽菜と打ち解け合った帆高は、陽菜の力を使って「局所的に天気を晴れにする」商売を始める。異常気象により雨ばかりの東京で依頼は殺到し、帆高たちは順調にお金を稼ぎながら人々を笑顔にしていく。

しかし、あまりに長いあいだ降り続く雨と陽菜の能力には関係があった。陽菜を襲う避けられない運命を知ったとき、帆高のとった行動とは......。

3. 感想

家出した少年が不思議な力を持った美少女と出会い、ひと夏の冒険をする、というのはジュブナイルの世界では王道といえるでしょう。小説や漫画、ゲームを通じてそうした類の物語に馴染んてきた人々にとっては受け入れられやすい設定だと感じました。万民に訴求するか、という観点では簡単でないでしょうが、夏のアニメ映画というフィルターを通せば世間的にも普通の範囲かもしれません。

冷たい都会、自分を匿ってくれるはみ出し者の男と美人のお姉さん、美少女との恋愛、世界を取り巻く秘密、という諸要素もアニメ的世界の古典を揃えてきたなという印象を序盤は受けました。

後はこの王道古典をやり切るだけ、そうすれば必ず平均以上になる。相変わらず情景描写と音楽は良いのだから、少なくとも大きな隙はなくなるはずと思いながら中盤以降を鑑賞したのですが、やや脚本の雑さというか、矛盾ではないまでも無理のある展開が多かったのは残念でした。

帆高はなぜか偶然に拳銃を入手して、それなのに拳銃の独自性が活かされた使い方が物語中であるわけでもなく、拳銃についての事件が伏線になるわけでもなく物語は終わって意味のないものになってしまいますし、陽菜との出会いも1回はともかく2回目を偶然で済ませてしまっては何でもありになってしまいます。大都会でこんなに簡単に会えるなら運命の出会いのロマンチックも薄れてしまうのです。何をするにも身分証明を求められ、子供であることの無力さを強調する場面が多いのに、なぜか陽菜だけは未成年にも関わらず書類偽造程度でアルバイトの面接に一度は受かっています。それで済むなら序盤の帆高の苦労が全く同情できるものになりません。物語の都合上、帆高にはアルバイトをして欲しくなく、陽菜にはアルバイトをして欲しいという製作側の我儘がそのまま出ているだけです。また、陽菜が弟の凪(なぎ)と一緒に子供だけで部屋を借りて生活しているのも不自然で、大家も行政も全く現実のように機能していません。帆高が警察から逃亡するシーンでも、夏美が偶然バイクで近くを通りかかるのがご都合主義すぎますし、凪が帆高の向かう場所を知っていて、帆高を助けに来るのも「どうやって知ったの?追いついたの?」という疑問が残ります。なにより、全体的に警察が弱すぎてどうしようもありません。序盤から終盤まで一般人の体当たりで簡単にやられすぎです。普通の人間がぶつかりあったってあんなに吹っ飛んだりしないのです。最後は余談かもしれませんが、帆高たちはいつも対面式受付のラブホテルに入ろうとして身分証明を求められますが、そうでないラブホテルもあります。

この手の物語でリアリティが大切なのは、例えばこの物語では「100%の晴れ女」というあからさまなフィクション設定を使っているからです。それ以外がリアルだからこそ、「もし、現実にこんな能力を持った女の子がいたら」という想像が掻き立てられてその設定の特別さ/異常さが映えるのに、他の部分でも嘘をつかれてしまっては「なんでもありじゃん」と興醒めしてしまいます。せっかく情景描写はリアルなのですから、どこまでも現実的な東京に現われた幻想の一幕という魅力をもっと際立たせることに神経を使えばより良い物語になったのにと思ってしまいます。

ただ、演出面や物語のテンポについては優れていると感じました。次から次へと事件が起こり、中だるみしそうなところはRADWIMPSの曲とともにダイジェスト風に流して臨場感をつくって乗り切る。「君の名は。」から変わらず、それよりもさらに「常に事件」という盛り上げ方がありまして、凡庸な言葉を使えばスクリーンから目を離せなかったのも確かです。

次にキャラクターを見ていくと、どこまでも凡庸かつ典型的で、特に感嘆するような人物造形や設定は出てこなかったなという印象です。「平凡な」男の子、不思議な力を持っていてやたら主人公に対して積極的な美少女、アウトローの大人(男)、美人の世話焼きお姉さん、生意気で小学生なのに複数の女の子と付き合う弟、など、(深夜)アニメの世界で使い古されたキャラクター達という印象です。

ただそれだけならば「まぁ普通」くらいの評価でもよかったのですが、さすがに陽菜の「空想上の美少女」感はやり過ぎかなと思いました。「うふふ」なんて思わせぶりな笑いを初対面の男の子に見せるのはあざとすぎますし、「どこ見てんの」連発はコロコロコミック並みの「女の子」造形になっています。弟と二人暮らしなのにほぼ初対面の男の子を家に上げ、可愛いエプロンを着用して料理をつくるなんていうのもちょっと「あり得ない」と言わざるを得ません。全体的に「君の名は。」よりもそういったシーンが多く感じられ、川村元気プロデューサーさえそこが成功のもとだと思っていたのではないかと勘繰ってしまいます。「君の名は。」よりキャラクターデザインが幼くなっているのも気になります。深夜アニメや美少女ゲームに寄せてきた感じが拭えず、より普遍的な物語を追求していって欲しいという立場からは不満があります。

期待の大きさからか不満点が多いような感想になってしまいましたが、演出面の出来でも言及したように、映画館で見て面白いかと問われれば間違いなく面白いので、そこを加味すれば星3つという感じです。また、以下の3点は上で紹介しきれなかった本作についての個人的にお気に入りの箇所で、これらも評価の考慮に入れました。

1点目は、「身分証明書」がないと何もできないという現実が何度も強調される点です。公的なものに身分を証明されなければいかんともしがたい世の中を切り出したうえで、自分が自分として、世界のためでなく自分のために生き、そのことで自分を自分で「証明」していく物語になっているのは面白いですね。

2点目は、帆高たちが最後に泊まるラブホテルが決まるシーン。未成年だから、身分証明書がないから断られ続けるのですが、このラブホテルが逆に足下を見た値段提示をするというのが面白いです。世の中の冷たさ、現実の厳しさを様々な側面から描く妙手だと思いました。人間心理の複雑なところを上手く描写していますよね。

3点目は、もちろんクライマックスへのたどり着き方。世界の平和とヒロインの命を選択することになり、主人公はヒロインを選ぶ。この展開で「世界が崩壊しきらない」のは初めてではないでしょうか。新しい世界に適応した新しいインフラが設計され、大都会としての東京はまずまず機能している。元来、天気を所与のものとし、それに合わせて生きてきた人類。天気は予測したり、コントロールしたりできるものだと思い始めているから「異常気象」なんて口走ってしまうという視点も良かったと思います。天気が異常でも、君が正常な世界が好きだ、その方がなんだか健全な気もしますよね。

欠点は多いのに、やはり愛おしく、手放せない感慨を抱かせる本作。オススメです。

コメント