1. パプリカ
2006年公開のアニメ映画で、監督は「PERFECT BLUE」や「千年女優」、「東京ゴッドファーザーズ」を手がけた今敏さん。
筒井康隆さんの同名小説が原作で平沢進さんが主題歌を手がけるなど、この手の作品が好きな人には好まれる面子が揃っているといえるでしょう。
「千年女優」は当ブログでもレビュー済みです。
そんな濃密な面子によって製作された本作ですが、過度にマニア向けだったというのが妥当な評価でだと思います。
映像表現の技術的な面には見るべきものがあるのかもしれませんが、普通の人が普通に見てエンタメとして楽しめるような映像表現にはなっておりません。
さらに、物語という点に目を向けると全体的に稚拙な部分が多く、まるで自意識過剰な学生が急ピッチで撮影しましたとでもいうようなちぐはぐ感が目立っておりました。
2. あらすじ
主人公、千葉敦子(ちば あつこ)はサイコセラピストとして働いている。
「DCミニ」という装置を使って患者の夢の中に入り、精神治療を行うことが彼女の仕事だ。
そんなある日、「DCミニ」の開発元であり敦子の勤め先でもある精神医療総合研究所から「DCミニ」が盗まれてしまう。当初、犯人は研究所の助手である氷室啓(ひむろ けい)だと思われていたが、氷室の痕跡を追い、最後には氷室の夢の中にまで侵入することで敦子たちは真相に近づいていく。氷室もまた「DCミニ」を通じて夢の中から操られており、真犯人は別に存在しているのだ。
真犯人は誰なのか、彼らは「DCミニ」を使って何をしようとしているのか。夢が現実が渾然一体となった狂気の時間がいま始まる......。
3. 感想
普通に鑑賞していたらストーリーがどうなっているのかさっぱり分からないと思います。
一応、「不思議な力を使って夢の世界を現実に持ち込むことで現実世界を破壊しようとする黒幕の野望を、サイコセラピストである敦子が夢に浸食されつつある現実世界を縦横無尽に駆け回りながら阻止する」というのが大きな流れだと考えて観るのが間違っていないのだと個人的には解釈しました。
ただ、なんの説明もないままに奇怪なパレード映像や狂気的な台詞がまき散らされ、そうかと思えば「なぜ」そんなことができるのか、「なぜ」そのキャラクターはそのような行動をとるのか、といった背景の説明が一切ないまま謎の世界征服計画が進んでいって視聴者を混乱の底に突き落とします。
しかも、ただ説明がないというだけに留まらず、敵・味方ともに抽象的で小難しい台詞ばかりが多いことでうすら寒さと混乱に拍車がかかっており、脚本・演出ともに学生が初めて撮った映画ですと言われても納得できてしまうくらいです。
それだけでも混乱が深いのに、本筋からはやや外れた要素も詰め込まれ過ぎていて、全く脈絡のない話が突然出てきては新しい設定として加わっていきます。
例えば、敦子の患者である粉川(こなかわ)警部が学生時代に頂いていた将来の夢の話や、最終盤で明らかになる敦子の時田浩作(ときた こうさく)への恋心などがそれにあたります。唐突に出現し、全く掘り下げられないまま物語の中では勝手に重要なことになっている要素が多すぎるのです。
視聴者に物語を理解させ、感情移入させ、展開の起伏によって感動させるといった、映画では当たり前に備えているべき側面を一切備えておらず、狂気的な映像と音楽のニッチな質だけを追求したカルト映画のような仕上がりになっています。制作途中で制作陣すら何がなにか分からなくなってそのまま投げ出したものを公開してしまったのではないかと思うくらいです。
4. 結論
いまも当時もメジャーにはならず、マニアックな界隈で評価を受けているだけの理由がよく分かりました。
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