目次
第Ⅰ部 イントロダクション
第Ⅱ部 市場はどのように機能するか
第Ⅲ部 市場と厚生
第Ⅳ部 公共部門の経済学
第Ⅴ部 企業行動と産業組織
第Ⅵ部 労働市場の経済学
第Ⅶ部 より進んだ話題
感想
世界で最も有名な経済学の教科書であり、特にアメリカでは長年に渡り有名大学で採用されてきた入門書です。
近年ではその古典派的な傾向が批判され、より(アメリカ的な意味での)リベラルな教科書への置き換えが進む傾向にあるという記事もありますが、本書こそ伝統的な経済学の考え方を学ぶにはうってつけだという証左でもあるのだと思います。
(よりリベラルな教科書となるとクルーグマンあたりでしょうか)
オーソドックスな経済学の思考枠組みが丁寧に語られるという内容のため、経済学についての新しい知見という意味での驚きは少なかったのですが、大変優れた「教科書」であることはひしひしと実感できたため、本記事では本書の「教科書」としての美点を3つ語っていきます。
①一から十まで論理的かつ丁寧に説明する
社会的な事象に関心があり、進学校卒業程度の知識や思考力は持つが、経済学のことは全く知らない。
そんな人に向けて、経済学についての考え方をゼロから頭の中に構築してくれる点こそ本書第一の美点です。
説明の際に使われる思考法もいたって普遍的なもので「経済学が分かっていないと分からない」という箇所が全く存在しません。
教科書であるにも関わらず理解するには行間を読むことが必要だったり、入門教科書にも関わらず経済学の思考枠組みを既に知っている人でないとわからない論理展開をしたり、経済学的な観点を所与の前提として語ってきたりする。
そんな教科書もどきが多い中、経済学なき場所に経済学の基礎を強固に築いてくれる本書は特に独学での入門に最適だと評価できます。
②平易でわかりやすく、簡素な数式を用いる
進学校に通っていた程度(文系でも大学受験に数学を使ったのであればOK)の数学的思考レベルを前提としますが、本書は実に簡潔な数式のみを使用して経済学の枠組みを解説してくれます。
トリッキーな数式が突如出現したりすることはありませんし、まるで数学の試験問題のように長々とした前提や仮定が置かれることもありません。
こんなこと当たり前に理解できるだろ、という態度で論理跳躍ばかりの数式解説が為されたりもしません。
グラフや図表も豊富でヴィジュアル的にも分かりやすく、精緻な論理展開がすらすらと頭に入ってきます。
③本格的に経済学を学べる
書店に平積みされているような「経済学入門」本との違いを強調するためにこの③番を設けました。
大学等で採用される「教科書」ではないので当たり前かもしれませんが、書店に並んでいる経済学入門本は本格的に経済学を学んで頭を使っていきたい人にとって物足りない内容の本ばかりだと思います。
そういった、まるで赤ちゃん言葉のようなレベルの、平易と言うより幼稚と呼ぶのが最適な説明・論理展開・比喩ばかりに満たされた通俗入門本とは一線を画していることも本書の良いところです。
ぼんやりと分かった気になるような内容ではなく、しっかりと読み込むことで首尾貫徹な論理に裏打ちされた経済学の力が血肉となって身につくような構成。
楽して経済学に触れたい、という程度ではない、学ぶ意欲と能力がある人に最適な入門書です。
以上の3点から、本書はいまなお最も優れた経済学の入門書だと言えます。
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