「夏への扉」ロバート・A・ハインライン 評価:2点|夢と恋に破れた青年の鮮やかな復讐が見どころのタイムトラベル冒険小説【古典SF小説】

夏への扉

1957年に出版されたタイムトラベル小説の古典的名作で、SF作家であるロバート・A・ハインラインの代表作としても知られています。

大昔に出版された小説ながら特に日本での人気は根強く、新装版がたびたび出版されるほどのロングセラー。

2021年にも山崎賢人さん主演で映画化され、公開に合わせて新装版が発売されました。

読後の感想としては、王道の物語を纏める手堅い構成には見るべきところがあるものの、肝心の「面白さ」にはやや欠ける作品という印象です。

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あらすじ

1970年のロサンゼルスで青年ダンは絶望の淵にいた。

友人であるマイルズと立ち上げた会社の業績は絶好調。

しかし、マイルズと自分の秘書であるベルの奸計により、ダンは会社を追い出されてしまったのである。

絶望のあまり、開発されたばかりの新技術「冷凍睡眠」を利用して長い眠りにつき、遥か未来で目覚めることにより人生をやり直そうと一度は決断するダンだったが、直前に思い直し、マイルズとベルへの復讐を実行に移す。

しかし、復讐は失敗。

そして、ダンは自分の意思によってではなく、マイルズとベルの計略によって強制的に冷凍睡眠をさせられることになる。

ダンが目覚めたのはちょうど30年後の西暦2000年。

自分を追い落としたマイルズとベルは成功者の道を歩んだのだろうと思っていたダンだったが、2000年の世界で目の当たりにした事実は自分の予想とは全く違っていて......。

感想

ギミックとしてはタイムトラベルを使っているのですが、SF的な想像力に溢れた作品というよりは青年の冒険物語という色の濃い作品です。

技術屋としての実直な性格を持った主人公が、営業担当のマイルズと秘書のベルに騙さされて会社を追われてしまう。

しかも、自分と婚約していたはずのベルはなんとマイルズと結婚してしまう。

そんな二重の絶望に突き落とされた主人公が紆余曲折を経ながら大逆転するストーリーは確かに王道であり物語を理解しやすいものにしているのですが、単なる王道さに加えた本作独自の魅力があるかと言われればそれは微妙。

珍奇な社会制度や極度に発展した工業技術を持つ未来の世界でダンがなんとかして職を得たり、過去へ帰れるように努力する過程は確かに自然な流れになっているのですが、単調な出来事の羅列を眺めているだけという感もあり、未来社会の描写や、当時は斬新だったのであろうタイムトラベルという発想の特異さを除けば魅力に欠ける作品だと感じます。

物語全体の問題が提起される序盤の騒動と、それが解決される終盤の展開に少なからず見どころはありますが、中盤の未来世界探索は退屈してしまいました。

また、ダンは実の姪っ子に懐かれていて、最終的にはこの姪っ子と結婚するという展開もやや気持ち悪く、そのような設定にする必然性も物語的にはなかったので、そこも減点ポイントです。

加えて、全体的に心理描写が薄く(SFにそれを期待するのは難しいのかもしれませんが)、愛憎劇にせよSF展開にせよ、起こっていることの重大さや壮大さのわりにダンの反応がやや淡白で、感情移入しづらい点も「ドラマ」に欠けると思われる点です。

伏線の張り方やクライマックスへの道筋も無理矢理ではなくいたって自然なのですが、自然であること以上の価値を持っているような、人間の心を大きく揺さぶるような要素もなかったというのが正直なところ。

この大きな物語を上手に纏めている点には優れた作家の確かな手腕を感じましたし、タイムトラベル×冒険活劇という組み合わせも当時は斬新だったのだろうとは思いますが、そういった技術的美点や新鮮さという点以外の、物語としての質的な魅力が薄い作品だと感じました。

すらすらと読み進められるうえ、悪いところもないという作品なのですが、数多の作品群のなかから敢えてお勧めするかというとそれは微妙という評価であり、平均的な作品を意味する2点が妥当でしょう。

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