「週刊少年ジャンプ」に1999年から2003年まで連載され、世界的に大ヒットした空前絶後の「囲碁漫画」です。
全世界で数千万部を売り上げたほか、本作をきっかけに囲碁を始めた人物がプロ棋士(関達也氏)になるなど囲碁界に与えた影響も大きかった作品。
「ヒカルの碁を最終巻まで夢中になって読んだが、最後まで囲碁のルールは分からなかった」
そんな感想がインターネット上でも見られるように、本作は囲碁が持つ駆け引きの醍醐味や戦略性よりを主眼とした作品ではありません。
それよりも、囲碁界を舞台に、主人公である進藤ヒカルの成長や周囲の人物たちが繰り広げる人間ドラマ、そして、ヒカル以外には姿が見えない最強棋士、藤原佐為が囲碁界にもたらす激震と、正体が分からない最強棋士を巡るサスペンス的な展開に面白味がある漫画となっております。
平安時代に活躍した史上最強棋士の幽霊が現代の平凡な少年に乗り移り、その少年はときに囲碁初心者として、ときに最強棋士の代役として囲碁を打つ。
それによって、少年は異形のミステリアスな存在として囲碁界に認知され、様々なドラマが生まれるきっかけとなる。
一方、本人は囲碁の魅力に目覚め始めることで腕白坊主の時期を脱し、精神的に成長しながら少しずつ囲碁道を究めていくという、王道の主人公的な道筋を辿っていく。
突如現れた最強棋士が生み出す波乱と、少年の王道成長の愉しみが物語の面白さを両輪となって支え、しかも、最強棋士が幽霊として少年に取り憑いていて、周囲の人物から最強棋士であり成長途上の少年であるという二重の認知を主人公が受けることで二つの要素が絶妙に絡み合う。
この魅力の出し方はおそらく漫画界でも初めての試みであったでしょうし、本作が斬新だった点であり、漫画史に輝く名作となっている理由なのだと思います。
あらためて読み直してみても、たとえいまになってもその魅力は失われていない、確固たる名作だと感じた作品でした。
あらすじ
主人公は小学6年生男子である進藤ヒカル。
スポーツ好きで頭を使うのが苦手だという自覚のある少年で、これといって嵌っていることはないものの、それなりに楽しい日々を過ごしていた。
そんなある日、祖父の家にある蔵の中を探っていたところ、ヒカルは一台の碁盤を発見する。
碁盤には血痕がついているものの、一緒に蔵漁りをしている幼馴染の藤崎あかりにはその血痕が見えないらしい。
疑念が頭をよぎったのも束の間、ヒカルが碁盤に触れると、突如、碁盤は輝きを放ち、ヒカルの前に一人の幽霊が現れる。
平安時代の貴族服に身を包んだその幽霊は藤原佐為と名乗り、なんとヒカルに取り憑いたのだった。
当初は佐為の存在を鬱陶しがっていたヒカルだったが、佐為が抱く囲碁への熱い想いに屈して妥協、ヒカルは囲碁のルールを覚えはじめ、ひょんなことから囲碁好きが集まる碁会所へと足を運ぶことになった。
その碁会所でヒカルと対局することになったのが、同じく小学6年生の塔矢アキラ。
現役名人である塔矢行洋の一人息子であり、いつでもプロ入りできる実力を持つ人物なのだが、同世代にライバルらしいライバルもおらず、アキラは熱くなりきれない日々を送っていた。
そんなアキラが碁会所の大人たちなど全く寄せ付けない実力者であることも知らないまま、ヒカルは意気揚々と対局を始める。
といっても、ヒカルが打つ手は背後から佐為が指示する通りの手であり、ヒカル自身は言われるがままに訳も分からず碁石を盤の上に置いていくだけ。
一方、動揺が収まらないのは対局相手であるアキラ。
満足に碁石を持つことさえ覚束ず、やけにゆっくりと打つ初心者丸出しの態度からは考えられないほどの打ちまわしでアキラを翻弄していく、見ず知らずの同学年くらいに見える少年。
屈辱的な敗北を喫したアキラと、あの塔矢アキラが敗北したという事実に驚愕を隠せない碁会所の面々。
塔矢アキラに謎のライバルが現れた、その噂は囲碁界の中で急速に広がり、それと同時に、初心者であるヒカルはアキラをはじめとする囲碁棋士たちが持つ「真剣さ」の雰囲気を感じ取り、次第に囲碁の世界へと引き込まれていく。
これから成長する初心者でありながら、史上最強棋士である佐為の代役としての顔も持つ進藤ヒカル。
ときに悔しがり、ときに憤り、なによりも混乱に陥りながら、ヒカル/佐為という二重存在の謎へと迫っていく囲碁棋士たち。
最強棋士の影を追いながら、切磋琢磨する囲碁棋士たちの、熱い青春物語が始まる......。
はじめに
最終盤における展開を除いては隙がない漫画、というのが本作の総評です。
あまりにも論じたい美点が多いため、良い点の感想を3節に分けて語り、その後、唯一の汚点である最終盤の展開について述べたあと、結論という形にいたします。
①進藤ヒカルという少年の成長譚
②もう一人の主人公にしてライバル、塔矢アキラの負う役割
③謎の最強棋士を巡るミステリックサスペンス
④それでも最後の展開は……
⑤結論
進藤ヒカルという少年の成長譚
少年漫画である本作を語るうえで、まず外せないのが主人公の成長物語という要素です。
平凡な少年であったヒカルが幽霊として蘇った史上最強棋士に取り憑かれ、その幽霊の「囲碁を打ちたい」という我儘に付き合う形で囲碁界に関わり始め、次第に囲碁という競技の魅力に惹かれ虜になっていく。
その過程で、甘ちゃんの腕白坊主だった進藤ヒカルの面影がひっそりと消えていき、あらゆる物事への向き合い方や、人間との付き合い方がよい意味で「大人」になっていく。
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