厳選された食材と丁寧な調理、ホスピタリティのある接客、どこからでもよく見える巨大な広告板による宣伝で集客に成功していたホットドッグ・スタンドですが、ある日、オーナーの息子が都会から帰ってきて父親に経営のアドバイスをします。
いまはひどい景気の後退期だから、コストの削減をしましょう。
オーナーは息子の進言に従い、食材を安いものに入れ替え、人員を6人から2人に削減。
オーナーが調理を行い、たった一人のウェイトレスが接客を行うようにして、広告板も取り下げます。
すると、その店の経営状況はみるみるうちに悪化し、確かにとんでもない不景気だよ、とオーナーは呟くわけです。
この息子はハーバード大学で経営学修士と経済学博士を取得した人物という設定なのですが、本作の著者はこのいかにも「経営学」的な手法をこの比喩で一蹴したのち、お客さんが真に何を望んでいるかを把握し、信念をもってそれを貫き通すことが重要だと語ります。
このオーナーはお客さんの望みを理解していたけれど、息子の意見を却下するだけの信念を持っていなかったというわけです。
このあたりに著者の保守的で頑固おやじ的な性格が現れており、さすが1986年の刊行だけあって現代風でないところがあります。
こういった考え方を失われた良識として捉えるのか、干乾びた旧習として捉えるのかで本書に対する評価は変わってくるでしょう。
ほかにも、誠実な人格が長期的な勝利に結びつく、という主張も、近年の言説によく見られる「制度を上手くハックして稼いだ者が勝者だ」という風潮とは真逆だと言えるでしょう。
部下を辞めさせるとき、必ず転職のための推薦状を書け、という主張なども、結局は人情が成功への最短ルートだという著者の観念を示しています。
いまどきの感じではない、硬派なビジネス・エリートによる人生の指南書なのです。
とはいえ、ノンフィクションや伝記好きで、フィクションの物語を馬鹿にしていたり、幸福の定義は達成感だから、人生の時間を質の高い生産に使え、という言説は「意識高い系」ビジネスマンの本音が露骨に現れていてやや辟易とします。
人間が現実にやり遂げた偉大な事柄を知ることで、自分もできる、やらなければならないと思えることがノンフィクション・伝記の良さだと著者は語るのですが、活字媒体というものは、必ずしも何らかの目的に到達するための補助道具としてしか価値がないというわけではありません。
小説や漫画好きにとって、フィクションの物語を楽しむことは人生のプロセスではなく目的なので、役に立つかどうかは関係ないのです。
また、達成感が人生の幸福にとって大切なのは分かりますが、それはビジネス上の生産でなくとも、高い山に登ったとか、ゲームをやりきったとかでも得られるものでしょう。
そんなわけで、物語を楽しむことに人生の主眼を置いている人間にはあまり合いませんでしたが、ビジネスマンとしての成功を夢見ていたり、あるいは、管理職や経営者としてビジネスを統率しなければならない立場の人が読むと感銘を受ける部分があるのではないでしょうか。
本ブログでの評価は2点(平均的な作品)といたしますが、置かれている立場によって価値の分かれる著作だと思います。
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