青年漫画

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スペクトラルウィザード

「スペクトラルウィザード 最強の魔法をめぐる冒険」模造クリスタル 評価:3点|他者を支配する魔法の正体【文学的ファンタジー漫画】

「ミッションちゃんの冒険」というweb漫画で有名になり、現在は「金魚王国の崩壊」などのweb漫画を連載する漫画家、模造クリスタル氏の商業出版作品。前作「スペクトラルウィザード」の続編となっております。「スペクトラルウィザード」の感想はこちら。中編×3と掌編×2という構成だった前作とはうって変わって、今回は一本の長編+エピローグ的な掌編という構成。副題の通り「最強の魔法」を巡る騎士団と魔術師たちの争いが描かれます。陰謀渦巻き、敵味方が入り乱れ、裏切りに次ぐ裏切りが起こる展開でハラハラドキドキさせる展開はエンタメ作品として見事。加えて、物語の裏側に流れる他者との関係性についての示唆が作品に深みを与えています。あらすじ危険な魔術書の研究により魔術師ギルドがテロ組織として認定され、騎士団によって多くの魔術師が逮捕・処刑されてから幾年。魔術師ギルドは解散を余儀なくされ、離散した魔術師たちも危険人物として追われている。そんな中、魔術師のスペクトラルウィザードは騎士団とも関係を持ちながら日々を過ごしていた。一時は自暴自棄になって世界を破壊する魔導書のデータを奪おうとしたこともあったが、その後は改心し...
なんだこの人生

【なんだこの人生 日曜しか生きた心地がしない社畜OLの日常】労働に打ちひしがれ虚無な日々に絶望する新米社会人の苦悩 評価:2点【橋本ゆの】

1. なんだこの人生奇妙なタイトルの作品ですが、調べてみるとTwitter発のコミックエッセイということでそれも納得できます。橋本ゆのさん(@riko3_)という現時点で4.5万人のフォロワーを抱える人気ツイッタラー(インフルエンサー?)さんが出版する初の単行本とのこと。ポップな雰囲気の表紙やタイトルに違わず気軽に読める内容ですが、反面、現代社会においてサラリーパーソンとして働くことの意義について考えさせられる作品でもありました。社会から受ける暗黙の要請に応じて学校に通い、これまた暗黙の要請に応じて会社に入って働いているのに、まさに「なんだこの人生」と思ってしまうような生活を送っている方々には刺さる作品だと思います。2. あらすじ 藤井香菜子(ふじい かなこ)は都心で働くOLで、社会人二年目。しかしながら、キラキラした生活とは縁遠い日々を送っている。「毎日満員電車に乗りつらい思いをして働き、土曜は一日中寝ていて活動しているのは日曜だけ……という1週間を過ごす。こんな生活が1年後も5年後も10年後もずっとずっと続くと考えると本当に心が折れそうになる。社会人生活はこんなはずではなかった」な...
電車男

【失敗したコミカライズ】漫画「電車男」原秀則 評価:1点【青年漫画】

あらすじ主人公は秋葉系オタクの「電車男」。ある日、秋葉原から帰る電車で「電車男」は暴漢に出くわす。酔っぱらって女性に絡む暴漢に対して誰もが見てみぬふりをする中、「電車男」は勇気を振り絞って声を挙げ、その女性や乗客たちが助かるきっかけをつくったのだった。後日、そんな「電車男」の自宅にHERMESのティーカップが届けられる。送り主はあの車両に乗っていた美貌の若い女性。伝票には電話番号が記載されており、「電車男」は女性の意図について思い悩む。パソコンの電源を点け、事の顛末を「2ちゃんねる」に書き込んだ「電車男」。彼が立てたスレッドへ馳せ参じたのは、お互いに顔も声も本名も知らないインターネット掲示板の住民たち。ティーカップのブランドにちなんで「エルメス」と掲示板内で呼ばれるようになったその女性へのアプローチを住民たちは「電車男」に勧めるのだが......。感想インターネット掲示板「2ちゃんねる」での書き込みをもとにした恋愛物語という触れ込みで話題となった作品。小説、漫画、映画、そしてテレビドラマと様々なメディアミックスがなされています。特に伊藤淳史と伊東美咲主演のテレビドラマ版は大ヒットし、視...
数学ガール

【数学ガール】数学要素も恋愛要素も中途半端な失敗作 評価:1点【原作:結城浩 作画:日坂水柯】

数学をテーマにした小説「数学ガール」の漫画版。原作者はプログラミングの実用書で有名な結城浩さん、作画は後に「白衣のカノジョ」を手がけることになる日坂水柯さんとなっております。原作の購入も検討したのですが、「数学の面白さを伝える」がメインで文芸的な特徴が薄いのであれば漫画版でも同じだろうと考え、漫画版を購入いたしました。しかし、これが大失敗。(もしかすると原作もこうなのかもしれませんが)数学については理数系に詳しくない人間を楽しませようという意図が一切ないような説明しかされないうえ、恋愛を軸とした物語にも数学が深く関わるわけではなく、かといってラブストーリーは非常に陳腐。一般向け数学本としても漫画としても平凡の水準にさえ達していない作品でした。あらすじ高校生の「僕」は数学好きで、中学時代は放課後にひとりで数式を展開するほどだった。そんな「僕」にも、高校では数学仲間ができた。同学年のミルカさんと後輩のテトラちゃん。ミルカさんは「僕」よりも数学に長けており、いつも「僕」に問題を出す側。逆に、テトラちゃんは「僕」に数学を教わっている。「僕」はミルカさんと、あるいはテトラちゃんと、今日も放課後の...
スティーブ・ジョブズ

【破天荒起業家の生涯】漫画「スティーブ・ジョブズ」ヤマザキマリ 評価:2点【伝記漫画】

アップルの創業者であり、Macintosh(Mac)やiPhoneの生みの親として知られる超有名経営者、スティーブ・ジョブズ。2011年に亡くなった彼が自ら要請して書かせたという伝記「スティーブ・ジョブズ」の漫画版が本作になります。漫画として再構成されたヤマザキマリさんは「テルマエ・ロマエ」の作者として有名ですね。ただ、感想としてはやや拍子抜けといったところ。波乱万丈なジョブズの生涯を追体験できるような伝記を想像していたのですが、多すぎる登場人物と一つ一つのエピソードの短さによってとりとめのない印象の作品に仕上がっています。もちろん、伝記は事実をもとにしているのでフィクション作品のような緻密に計画された盛り上がりが存在し得ないのは理解できるのですが、それでも出来事や人物の掘り下げが薄く、まるで年表を見ているような漫画になっておりました。あらすじ養子としてジョブズ家に貰われた幼い日のスティーブ・ジョブズ。幼い頃から破天荒な性格は健在で、学校では悪戯好きの問題児だった。しかし、褒め上手でご褒美で釣るのも上手いイモジーン・ヒル先生との出会いを契機に、ジョブズは勉強に興味を持ち始めてその知性を...
人魚シリーズ

「人魚シリーズ」 高橋留美子 評価:2点|大人気漫画家が描くグロテスクな伝奇調物語【短編漫画】

「うる星やつら」や「らんま1/2」、「犬夜叉」といった代表作を持つ人気漫画家、高橋留美子さん。本ブログでも「めぞん一刻」を評価5点でレビューしておりますが、漫画家としての極めて高い実力は改めて言及するまでもないことでしょう。そんな高橋留美子さんの作品の中でも、かなりマイナーな位置づけにあるのがこの「人魚シリーズ」。「週刊少年サンデー」に不定期連載されているのですが、第1話である「人魚は笑わない」の掲載が1984年、最新話である「最後の顔」の掲載が1994年となっていて、ここしばらく新しい話が出てきていません。加えて、ややグロテスクな表現が多く、後ろ暗い作風が高橋留美子さんの普段の漫画作品とは一線を画しています。「大衆受けを狙わず、書きたい話を書きたいときに書いた」結果の産物という印象です。そして、そういった作品にこそ興味を抱くのが本ブログなのですが、読んでみた結果としてはイマイチな作品という感想。単に「暗くてグロテスク」を超えるような、「物語」としての魅力を見出すことはできませんでした。あらすじ1980年代の日本、浮浪者のような姿をした青年が一人、人魚を求め無人島とされている島を訪れる...
百日紅

【百日紅】葛飾北斎とその娘が主人公。江戸時代を舞台にした連作短編漫画 評価:1点【杉浦日向子】

1. 百日紅漫画家であり江戸風俗研究家でもあった杉浦日向子さんの作品。杉浦さんのオリジナル作品として「百物語」と並ぶ代表作だとされています。2015年には映画化されており、アヌシー国際アニメーション映画祭や第19回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門などで賞を獲得しております。葛飾北斎とその娘であるお栄を中心に江戸の風俗を描く、という他にはない珍しいジャンルというところは目新しいのですが、物語は凡庸で、主人公格の二人が著名な絵師であるということもあまり活かされてはいません。時代考証の精緻さという面で評価する人は評価するのでしょうが、決して娯楽的面白さを求めて手を出す作品ではないでしょう。2. あらすじ有名な絵師としての地位を確立しながらも、葛飾北斎は長屋で質素に暮らしている。同居人は三女のお栄と居候の善次郎。二人とも北斎の弟子であり、お栄は北斎の代筆をするほどの腕前。善次郎も江戸の町で徐々に頭角を現してきていた。しかし、お栄は地黒で、父の北斎にさえ「アゴ」と呼ばれるくらいに容姿が芳しくなく、生娘であることから春画にはいまいち難がある。善次郎も女好きで茶屋通いがやめられないという欠点を...
赤い雪 勝又進作品集

「赤い雪 勝又進作品集」 勝又進 評価1点|旧い東北の風俗を劇画風に描いただけの作品【青年漫画】

個性的な漫画家が集ったことで一部界隈では有名な週刊漫画誌「ガロ」。その執筆陣の一人であった、勝又進さんの作品集。第35回(2006年度)日本漫画家協会賞大賞を受賞した「赤い雪」が表題作です。絵柄はいわゆる「劇画」で、かつて存在した東北地方の旧い風俗がテーマとなっております。「遠野物語」に近いコンセプトと言えるかもしれません。もちろん、そういった旧い文化の描き方は素晴らしいのでしょうが、そういった旧い文化における人々の暮らしを描いた以上の価値があったかといえば、そうではないという結論です。テンプレートのような「起承転結」や「劇的なクライマックス」を支持しているわけではありませんが、やはり人々の心を動かすための意図を持った物語構成がなければフィクション作品として良い評価を与えることは難しいでしょう。あらすじ・「桑いちご」ドジョウ売りの男の子はある日、桑の木に登って桑いちごを盗み食いしている女の子を見つける。女の子は名前をトミ子といい、千寿館という宿の女中なのだが、妾の子であるため差別されていた。お互いに悪態をつき、喧嘩しながらも心のどこかでつながりを感じている二人。しかし、ある事をきっかけ...
天人唐草

【幻想怪奇譚】漫画「天人唐草」山岸凉子 評価:1点【漫画短編集】

「日出処の天子」等の作品がある山岸凉子さんの自選作品集。表題作にもなっている「天人唐草」は彼女の代表作に数えられることが多いようです。ただ、少女漫画界の古豪的な地位にある著者の作品ということでしたが、私には合いませんでした。読解力が足りないからか、起伏のない凡庸なストーリーラインに投げっぱなしのオチが付いているだけのように感じてしまいます。あらすじ幼いころから厳格で旧い価値観の父に育てられてきた岡村響子。その教育のせいもあって自分を過度に抑制するようになってしまい、学生時代、そして社会人になっても男性とうまくコミュニケーションをとることができない。そしてついに、職場で憧れていた男性が自分とは真逆の気質をもつ女性と結婚してしまう。そんな響子のもとに、父親が倒れたとの一報が飛び込んでくる。慌てて父のもとへ向かう響子。しかし、呼ばれた先で響子が目にしたのは、あの表面上は厳格だった父の意外な素顔だった......。(表題作「天人唐草」)その他4つの短編を収録。感想全体的に「ベタ」過ぎるか「あり得なさ」過ぎる話しかないんですよね。表題作の「天人唐草」は厳格過ぎる父に育てられた女性の話ですが、父の...
さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」永田カビ 評価:2点|自分に自信がない状態を克服する再生物語【コミックエッセイ】

pixivで連載されていたコミックエッセイの書籍化作品。「寂しさのあまり性体験をしたこともないのにレズ風俗に行く」というセンセーショナルな煽り文句と、その切実な内容のコントラストが魅力です。あらすじ大学中退後、精神的な病気を患い、アルバイトも長く続かなかった著者、永田カビ。親との関係も上手くいかず、頭には「死」がよぎる。「なにくそ、立ち直ってやる」。そう意気込み、息苦しさから自分を解放するために選んだ手段。それはレズビアン風俗に行くことだった。生きづらい現代で自分に自信を持つとはどういうことか。レズ風俗での体験を通じ、著者が自分として生きていく方法を掴んでいく物語。感想共感できる人とできない人が真っ二つに分かれる作品でしょう。真っ二つになる基準は「自分に自信を持っているか否か」です。非常に個人的な観点ですが、現代を生きる人々を敢えて二つに切り分けるならば、その基準として「自分に自信を持っているか否か」を使うのはかなり良いアイデアなのではないかと感じます。そこには、個人の性格とそれを形成してきた家庭や社会の環境が如実に反映され、しかも、自信を持っている人/いない人同士は決して相互に理解し...
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