【メディア論】おすすめメディア論雑記3選【雑記まとめ】
「涼宮ハルヒの溜息」谷川流 評価:1点|第1巻が持っていた斬新な魅力に急ブレーキをかけてしまった、伝説的人気シリーズの第2巻【ライトノベル】
シリーズ累計発行部数2000万部超を誇る、ライトノベル界の金字塔的シリーズ第2巻です。第1巻についてはその面白さを絶賛したのですが、続巻である本作は一転して低評価としております。第1巻の感想はこちらからどうぞ。本作を低評価とした理由は、第1巻を高評価とした理由と同根となっております。つまり、エンタメに次ぐエンタメという怒涛の展開もなければ、文学的な深みもなく、ただひたすらに、つまらなく、くだらない、物語とさえ呼ぶことが躊躇われる駄文を垂れ流しているからです。あの「涼宮ハルヒの憂鬱」の続巻が出るということで喜び勇んで本作を購入した当時もかなり失望したものですが、あらためて読み返してみても酷いとしか言いようがない作品です。第1巻で完結のつもりだった作品を無理やり引き延ばそうとしたからなのではないか、という噂もありましたが、そんな匂いが如実に感じられる作品であり、「涼宮ハルヒ」シリーズを全巻読破してやろうという気合の入った人以外は本巻を飛ばして第3巻である「涼宮ハルヒの退屈」に進むべきだと助言したくなるほどの駄作となっております。あらすじ涼宮ハルヒとの衝撃的な出会いから半年が経過し、北高にも...
「涼宮ハルヒの憂鬱」谷川流 評価:4点|独特な語り口と突飛な設定から生まれるエンタメの中に文学的テーマ性を潜ませたゼロ年代オタク界隈の金字塔作品【ライトノベル】
2000年代に少しでも「オタク界隈」に触れていた人で、本作のタイトルを知らない人はいないでしょう。大ヒットしたアニメの効果もあり、シリーズ累計発行部数は2000万部超。これを既刊12巻で割ると1巻あたり約167万部ですから、その凄まじさが分かるというもの。均せば12巻連続でミリオンセラーなんて記録は、日本の文芸界において後にも先にも本作だけなのではないでしょうか。ライトノベルが隆盛を極め、エンタメ文芸の本流に立つのではという評価さえあった時期に出現した、まさに「ライトノベル」というジャンルを代表する作品の一つである本作。それでいて、「ライトノベル」といえば異世界ファンタジーか露骨なラブコメディが主流だった状況において、SF要素を加味したジュブナイル青春学園モノとして登場した異端作でもあります。しかも、ライトノベル的なエンタメ要素を備えながらも、世の中や人生に対する洞察という文学的な側面も持ち合わせている作品としても評価されたという、純文学としても一般エンタメ小説としてもライトノベルとしても異端でありながら、そのテーマの普遍性と深さによって様々な界隈に考察と評論の嵐を巻き起こした文芸界の...
「タコピーの原罪」 タイザン5 評価:2点|凄惨な環境で過ごす少女と、救済を図る無能な異星人、皮肉な展開と仄かな希望【短編漫画】
集英社が運営しているweb漫画サイト「ジャンプ+」に連載されていた作品。全16話の短期連載ながらインターネット上で好評を博して多数のPVを獲得、上下巻にて単行本化された漫画です。いじめられている少女の前に、宇宙から来た「タコピー」というマスコットキャラクターのような生き物が現れ、少女を助けようと奮闘するという物語。そう紹介すると聞こえがよいのですが、実態は真逆で、少女たちが抱える背景の陰惨さと、「タコピー」の無能ぶりによって悪いほう悪いほうへと事態が進行していくというサスペンス調の展開が特徴となっております。全体的な評価としては、発想は面白いと感じたのですが、いかにも漫画的な「ベタ」さが多く、とりわけ深刻に描かなければならないはずの、登場人物たちの家庭環境の酷さがステレオタイプだった点が惜しいと感じました。物語の枠組みは悪くないのですが、細部に工夫がないために凡庸だと言わざる得ない作品です。あらすじ小学四年生の久世しずか(くぜ しずか)が公園で出会ったのはタコのような形をした謎の生き物。しずかによって「タコピー」と名付けられたその生き物はパンを恵んでくれたお礼をしたいと申し出るが、タコ...
「ルックバック」 藤本タツキ 評価:4点|二人の創作者が歩んだ青春の記録、創作が持つ異形の力を添えて【短編漫画】
「チェーンソーマン」の大ヒットによって一躍名を馳せた漫画家、藤本タツキさんによる約140ページの短編漫画です。集英社が運営するweb漫画サイト「少年ジャンプ+」に掲載されるとたちまちSNSで大反響を巻き起こし、「このマンガがすごい!2022」においてはオトコ編で1位を獲得するなど、短編漫画ながら飛ぶ鳥を落とす勢いのヒットとなった作品。書店で単行本を手に取ったときも、その薄さと本体価格440円という安さに驚いたもので、いわゆる「読切」がここまでのセンセーションを巻き起こしたのかと思うと感慨深いものがありました。しかもその内容が、あまり「ジャンプ」らしくないヒューマンドラマとなっているのも注目するべき点でしょう。お調子者でギャグ漫画が得意な藤本と、不登校で背景画の天才である京本。二人の劇的な出会いと別れ、夢を追うこと、友情の価値、そして「創作」という生業が持つ凄まじい力。それらのテーマが、とても温かく、それでいて物悲しく描かれている傑作漫画です。あらすじお調子者の小学四年生、藤野歩が最近嵌っていることといえば、学年新聞に自分の描いた四コマ漫画を連載すること。小学四年生にしては上手い絵と、や...
「フォレスト・ガンプ」ロバート・ゼメキス 評価:3点|激動の戦後アメリカを駆け抜けた、実直で不器用な男の人生【アメリカ映画】
1994年公開のアメリカ映画で、大ヒットを記録してアカデミー賞の作品賞を受賞した作品です。いまなお古典としての人気も高く、ハリウッド映画の王道的名作とされています。主人公のフォレスト・ガンプは生まれつき知能指数が低く、足も不自由という、謂わば生来の劣等生として登場するのですが、そんなフォレストが実直な性格を梃子に激動の人生を逞しく歩んでいく様子を描いた、まさに王道を往く物語です。フォレストの辿る人生には、ベトナム戦争や公民権運動、ピンポン外交といった戦後アメリカ激動の歴史が重ね合わされ、ケネディ大統領にニクソン大統領、ジョン・レノン、そしてアップルといった、当時の時代を象徴するような実在の人物や企業が登場することで、主人公の人生という小さな流れと、戦後アメリカの歴史という大きな流れが相互に影響を与え合うダイナミックさが特徴となっております。もちろん、粗を探そうと思えばたくさんあるのですが、大胆な物語構成によって「人生」の良い意味での不思議さを描く、という試みに成功している点において、いくばくかの粗による悪さを超える魅力が形成しており、総合すれば佳作と呼べる映画といえるでしょう。その評価...
「ガダカ」アンドリュー・ニコル 評価:2点|「遺伝子操作なし」で生まれてきた男が抱いた宇宙飛行士になるという夢物語【アメリカ映画】
1997年に公開されたSF映画。遺伝子操作によって優秀な子供を意図的に授かることができるようになった時代に、遺伝子操作なしの「不適正者」として生まれてきたヴィンセント・フリーマン。彼が本来は「適正者」しか就くことできない職業である宇宙飛行士を目指し、宇宙へと旅立つそのときまでを描いた作品になります。人間に対する遺伝子操作の技術が実用化するのはまだまだ先のことかもしれませんが、出生前診断による選別や、人工授精を行う際の父親の経歴に対する選別など、実質的には「遺伝子(の組み合わせ)を選ぶ」ことが実現されている現在、1997年に本作が描いた「適正者」と「不適正者」から成る社会とそこにある差別の状況はいまなお時機を得ているといえるでしょう。また、結婚についての社会的流動性が少なくなりつつあり、資産家であり高収入者であり高学歴者である者が同じく資産家であり高収入者であり高学歴者である者と結婚する傾向が頓に強くなっているという傾向も、一種の遺伝子選別強化だと見なせるのではないでしょうか。自分に「相応しい」「見合う」人間を選んで結婚する、その循環が資産・美貌・運動神経を一極へと集中させる世の中が現れ...
「バカの壁」養老孟子 評価:2点|現代人が囚われている愚かさの監獄について老教授が語る【社会学】
400万部以上を売り上げ、日本のベストセラーランキング5位に君臨する伝説的新書である本作。東京大学名誉教授である養老孟司さんの著作で、2006年には「超バカの壁」、2021年には「ヒトの壁」が発売されるなどシリーズ化されており、人気は現在でも健在です。本作は新潮社編集部による口述筆記によって著されており、養老さんの語りを分かりやすく文章化したもの。そのため、確かに文章としては柔らかく読み易いものになっております。ただ、だからといって内容が濃いか、あるいは理解しやすいかと言われればそれはまた別の話。社会批判についての方向性としては個人的に賛同できる部分が多かったですが、あくまで老教授の居酒屋談義という色合いの著作です。目次第1章 「バカの壁」とは何か第2章 脳の中の係数第3章 「個性を伸ばせ」という欺瞞第4章 万物流転、情報不変第5章 無意識・身体・共同体第6章 バカの脳第7章 教育の怪しさ第8章 一元論を超えて第1章 「バカの壁」とは何か第一章では本作のタイトルでもある「バカの壁」について、ある夫婦の妊娠から出産までを追ったドキュメンタリーを見せたときの男子学生と女子学生の反応の違いを...
「エッセンシャル思考」グレッグ・マキューン 評価:2点|絶対にイエスだと言いきれないなら、それはすなはちノーである【生き方】
シリコンバレーのコンサルティング会社CEO、といういかにもな肩書の人物によって著された自己啓発本のベストセラー。本書の主張は「エッセンシャル思考」というタイトルに凝縮されており、すなはち、本質的に重要なごく少数の事柄に集中して取り組むことで人生の質が劇的に上昇するというものです。いかに無駄を削ってやるべきことを絞り込むのか、そのためにはどのような心構えを持ち、どのような思考枠組みで物事を評価し、どのように行動するべきなのか。様々な事例を引きながら、著者は読者に「無駄」をドアスティックに削りなさいと迫ります。この「ドラスティックに」という点が本書のミソであり、著者は「90点ルール」つまり評価が89点以下の事柄はやめておけとまで言います。多少有用である程度のことはやらない、90点以上だと評価できることだけをやる。そういった主張を支える著者の論理や持ち出される例には説得力があるのですが、著者が「やめろ」と主張することは人間の性としてついついやってしまうことが多く、凡人が人間的性質に基づく誘惑を振り切って、ここまで劇的に生きることはできるのかという点に多くの疑問が残る著作でもあります。換言すれ...
「点と線」松本清張 評価:2点|完璧だと思われていたアリバイの弱点はダイアグラムに隠されていた【社会派推理小説】
社会派推理小説というジャンルを打ち立ててベストセラーを連発し、戦後を代表する小説家となった松本清張。「眼の壁」「ゼロの焦点」「砂の器」と代表作には事欠きませんが、その中でも、松本清張初の長編推理小説であり松本清張ブームの火付け役となったのが本作「点と線」となっております。「点と線」というタイトルは駅と路線のことを示しており、電車の発着時間とその行き先を巧妙に用いたアリバイ破りが本作における「謎」の特徴です。男女の情死に産業建設省の汚職事件を絡めた展開はまさに「社会派」「推理」小説というジャンル名がうってつけだと感じましたが、どちらかというとやはり「推理」が主軸となっている作品でした。「社会派」の部分は産業建設省幹部による汚職の証拠隠滅が動機となっているという点にのみ掛かっており、人間心理の巧みな描写やヒューマンドラマ的な感動には乏しく感じられたのが正直なところです。推理小説としては一流なのかもしれませんが、物語性を重視する立場からはやや凡庸で、ときに退屈な小説という評価にならざるを得ません。あらすじ事件の現場は福岡市にある香椎の海岸。産業建設省の課長補佐である佐山憲一(さやま けんいち...
「電影少女」桂正和 評価:3点|週刊少年ジャンプのラブコメ枠を飾った「本格恋愛漫画」の感動作【学園ラブコメ】
1989年から1992年まで「週刊少年ジャンプ」に連載されていた作品。ジャンプにおける「ラブコメ枠」作品の中でも真剣な恋愛を描いた作品として異彩を放っており、80年代を代表する「きまぐれオレンジ☆ロード」と2000年代を代表する「いちご100%」が専らコメディ寄りの作風であるのとは対照的です。1980年代の「ラブコメ枠」といえば、本作に加えて同じく桂正和氏が作者の「I's」であり、シリアス寄りの作風が一世を風靡した時代だったと言えるでしょう。失恋した高校生男子の前に、純粋な心の持ち主にしか見えない「GOKURAKU」という名前のビデオショップが現れる。そこで借りたビデオから飛び出してきた少女と紡がれる物語は「勇気」と「優しさ」に纏わる苦悩と葛藤に満ちており、繊細な魅力に溢れています。あらすじ主人公の弄内洋太(もてうち ようた)は私立貫大高校に通う高校1年生。同級生の美少女である早川もえみ(はやかわ もえみ)に片想いしているものの、彼女が好意を寄せる相手は洋太の友人である新舞貴志(にいまい たかし)であり、洋太の想いはあっさりと散ってしまう。失恋の心痛を引きずる洋太、そんな彼の前に突如、...
「いちご100%」河下水希 評価:2点|2000年代前半のジャンプを支えたお色気恋愛漫画【学園ラブコメ】
2002年から2005年まで週刊少年ジャンプに掲載されていた、所謂「ラブコメ」枠の漫画。1984年連載開始の「きまぐれオレンジ☆ロード」から始まったジャンプラブコメの歴史ですが、比較的シリアスな恋愛を描いた「電影少女」や「I"s」といった90年代の作品からうって変わって、小中学生男子の欲望を全乗せしたハーレムコメディ路線を貫いて人気を得たのが本作となっております。まだまだインターネットが普及初期にあった2000年代前半、二次元美少女たちの際どい画像が毎週拝める漫画は非常に希少であり、この間に年頃だった男性諸氏の心には深く刻まれている作品であることに間違いはないでしょう。非常に有名なネタバレですが、正ヒロインがサブヒロインに敗れるというまさかの結末でもラブコメ界に衝撃を与えた作品です。正直なところ、最序盤と最終盤を除いてはその殆どが微エロシーンをつくりだすための無理やりなラブコメ展開を中心とした話ばかりであり、物語作品として高く評価できる側面はあまりありません。少年にとっての「エロ」成分補給源として少年誌が主役を張っていた時代の「魅せ方」を楽しむために読むか、そうでなければ、序盤と終盤の...
「GUNSLINGER GIRL 第1巻」相田裕 評価:4点|もしも誰かを好きで好きでしょうがなくなって、それでも永遠に満たされないとわかってしまったら【社会派サスペンス漫画】
本ブログで一度紹介した作品ですが、あまりにも感動が深いので単巻ごとのレビューを書いていきたいと思います。全体のレビューはこちらテロリズムの脅威に揺れるイタリアで、政府側の対テロ組織に所属する訳あり元軍人・元警察官、そして、彼らとペアを組むことになる、身体改造手術を施されて「義体」となった少女たちの物語。息の詰まるような葛藤の連続、その果てにある悲壮な感動。そんな本作の魅力がいきなり炸裂する第1巻のレビューです。あらすじ舞台は超近未来のイタリア。貧しい南部と豊かな北部という、イタリアが伝統的に抱える格差問題を巡る政争は熾烈を極め、北部独立派によるテロが横行する事態となっている。豊かな北部から搾取された税金が、怠惰な南部人を食わせるための公共事業や補助金に投下されている。そんな主張には北部人の多くが同調しており、テロリスト側の勢いは止まるところを知らない。そんな折、テロとの戦いに勝利して統一を維持したい中道左派政権は「社会福祉公社」という機関を創立する。表向きは身体に障がいを抱える子供を支援するための福祉組織だが、実態は、身寄りがなく命が助かる見込みもない子供の身体に特別な手術と洗脳を施し...
「GUNSLINGER GIRL」相田裕 評価:4点|テロリストとの闘いに身を投じるのは「義体」を与えられた少女たち【社会派サスペンス漫画】
2002年から2012年まで「月刊コミック電撃大王」に連載されていた作品。「電撃大王」といえば所謂オタク向けの「萌え」漫画を中心とした雑誌ですが、その中にあって異彩を放っていたのがこの作品。現代イタリアが抱える「南北問題」という政治問題を嚆矢に、北部イタリアの分離独立派テロ組織と政府が創設した対テロ組織である「社会福祉公社」との戦いを描いた硬派な作品となっております。しかし、本作の特色はそういった欧州の政治問題を背景にしたサスペンスという側面ばかりではありません。「社会福祉公社」に所属するのは様々な機関から集められた訳ありの元軍人や元警察官たち。そして、そういった「大人」たちとペアを組むのは、瀕死の状態だったところに身体改造と精神洗脳を施され、テロリストと戦うために蘇った「少女」たちである、という点が他にはないオリジナリティを醸し出しています。社会問題を巡って政治家や軍人、メディア、市井の人々が織りなす政治活劇というマクロな枠組みと、テロとの戦いの中で明かされていく「社会福祉公社」組織員が辿った苦節の人生、「義体」となった少女たちの愛憎劇というミクロな枠組みの双方に魅力のある、他に類を...