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教養書
【生き方】「人生の短さについて」 セネカ 星2つ
1. 人生の短さについてローマ帝国時代に活躍したストア派哲学者、ルキウス・アンナエウス・セネカの著作。人生論とでも銘打つべき随筆であり、過激な衝動を抑え、理性によって生きるべきだというストア派哲学の思想を基盤としつつ、「よい生き方」とは何かが語られております。とはいえ、その内容は現代の自己啓発本と比しても凡庸というレベル。随所に顔を出す面白い表現に感心させられることはありましたが、特段に斬新で心に響く書籍というわけではありませんでした。2. 目次章分けなし。岩波文庫版では、表題作「人生の短さについて」のほか、「心の平静について」と「幸福な人生について」を収録。3. 感想「人生の短さについて」というタイトルに反し、本書におけるセネカの主張は「人生は本来、十分に長いものだが、多くの人々は人生の時間を浪費してしまうため人生を短いものだと感じてしまっている」というもの。古典にしてはなかなかタイトルの付け方が上手いですよね。「人生の長さについて」なんてタイトルにするより、よほどキャッチーで煽り文句としては優秀だと思います。そして、本書の主旨はもちろん、「人生は本来、十分に長いものだが、多くの人々...
【空き家問題を考える】教養書「老いた家、衰えぬ街」野澤千絵 評価:2点【住宅政策】
明治大学政治経済学部の教授で、都市計画やまちづくりを専門とする野澤千絵氏の著作です。近年は報道番組等でも取り上げられることも多い「空き家」の問題について、その現実的な弊害と解決の難しさ、講じられている方策、そして、一人一人が住まいの「終活」をする重要さが説かれています。各論的な項目が多く、包括的な枠組みに欠ける点がやや難だとは思いましたが、空き家が解消されない要因と、関係ないと思っていても思わぬきっかけから当事者になってしまう可能性についての言及、そして、日本や世界で行われている様々な解決策についての紹介など、この分野における多様な知識を得るのにはそれなりに有用な新書でした。目次第1章 国民病としての「問題先送り」症候群第2章 他人事では済まされない相続放棄第3章 世界でも見られる人口減少という病第4章 空き家を救う支援の現場から第5章 さあ「住まいの終活」を始めようはじめに住宅政策は本ブログが継続的に関心を持っている分野であり、これまでも「住宅政策のどこが問題か」や「新築がお好きですか? 日本における住宅と政治」といった著作を取り上げてきました。こうした著作の中でしばしば指摘されてい...
【物語 フランス革命】フランス革命時代の主要な出来事を手軽に概観できる新書 評価:3点【安達正勝】
有名事件のあらましや活躍した著名人のエピソードを中心として、フランス革命の経過を「物語」風に語っていく著作。中公新書から出版されている本ですが、学術的な知識や思考を大衆に伝えるための本というよりは、世界史の教科書やwikipediaを詳しくしたような内容になっております。私もフランス革命の知識は高校の世界史止まりであり、「バスチーユ」や「ジャコバン派」、「ロベスピエール」といった穴埋め問題を解くレベルの断片的な文言だけが頭の中にある状態でしたが、本書を読むことで、フランス革命という出来事全体が「物語」として頭の中で繋がっていく感覚を得ることができました。目次序章 フランス革命とは第1章 「古き良き革命」の時代第2章 革命的動乱の時代へ第3章 国王の死第4章 ジャコバン政府の時代第5章 恐怖政治ー革命政府の暗黒面第6章 ナポレオンの登場感想ルイ16世の治世下で始まった財政改革が民衆の怒りに火をつけ、最後は王政を打倒するにまで至ったフランス革命。バスチーユ牢獄襲撃の成功によって深まる大衆の自信、ヴァレンヌ逃亡事件による国王権威の失墜、激化する議会での主導権争いにジロンド派が敗れ、ジャコバン...
【選挙制度改革を検証する】教養書「現代日本の政党政治」濱本真輔 評価:4点【政治学】
大阪大学准教授の濱本真輔さんによる著作で、専門的な内容がふんだんに盛り込まれたいわゆる学術書にあたる本です。その内容は、小選挙区比例代表制への移行を中心とした、1990年代の政治改革の効果を検証するというもの。二大政党制を志向し、派閥を中心とした分権的党内調整によってではなく、首相や党執行部による政策決定を目指した政治改革の現時点までの経過と結果が様々な観点から論じられております。全体的にやや散漫で決定的なことが書いていない(導出できていない)なと思う部分もありましたが、政党を取り巻く制度が各アクター(特に政治家)をどう動かすのかという視点に興味のある方で、ある程度、政治学について下積み的知識がある方にとっては面白く読める本だと感じました。目次序章 本書の目的第1章 選挙制度改革と現代日本の政党政治第2章 議員、政党組織、政党政治第3章 小選挙区比例代表並立制の定着第4章 政党中心の選挙環境への変容第5章 個人中心の選挙区活動、選挙運動の持続第6章 族議員の変容第7章 分権的政党内制度の変容と持続第8章 事後調整型政党政治の持続第9章 執行部主導型党内統治への変容終章 選挙制度改革は何...
教養書 「コラプション なぜ汚職は起こるのか」 レイ・フィスマン他 星3つ
1. コラプション なぜ汚職は起こるのかボストン大学の経済学者レイ・フィスマン教授とカリフォルニア大学の政治学者ミリアム・A・ゴールデン教授による「汚職」についての共著。二人とも異なるアプローチから「汚職」を研究してきたこの道の大家であり、それでいて本書は一般向け(といっても「汚職」の普遍的構造に関心を持つ「一般」向けですが)の著作になっております。学術書ではないことから事例中心の記述となっておりますが、個々の汚職を個人の道徳的資質の問題として矮小化するのではなく、様々な汚職の事例を「均衡」という思考枠組みの中で捉え、学術的な視点から論じていくのはまさに本格派といったところ。度肝を抜かれる面白さとまではいきませんでしたが、この分野に興味がある方にとって知的な興奮をもたらしながらも肩の力を抜いて読める本だといえるでしょう。2. 目次第1章 はじめに第2章 汚職とは何だろう?第3章 汚職がいちばんひどいのはどこだろう?第4章 汚職はどんな影響をもたらすの?第5章 だれがなぜ汚職をするのだろうか?第6章 汚職の文化的基盤とは?第7章 政治制度が汚職に与える影響は?第8章 国はどうやって高汚職...
「戦争の世界史 下巻」ウィリアム・H・マクニール 評価:3点|戦争と軍需産業と政府部門の関係から読み解く世界史【歴史本】
たった一人で通史を描き出した「世界史」という本で有名なマクニール教授が、今度は「戦争」という観点から世界史を描き出した本作。「その2」から続いて下巻の内容を紹介していきます。「戦争の産業化」が始まる1840年代から、「国家総力戦体制」での戦争となる第一次及び第二次世界大戦まで、いよいよ舞台は近代戦争へと移っていきます。・前編「上巻 その2」はこちら。目次・上巻第1章 古代および中世初期の戦争と社会第2章 中国優位の時代 1000~1500年第3章 ヨーロッパにおける戦争というビジネス 1000~1600年第4章 ヨーロッパの戦争のアートの進歩 1600~1750年第5章 ヨーロッパにおける官僚化した暴力は試練のときを迎える 1700~1789年第6章 フランス政治革命とイギリス産業革命が軍事におよぼした影響 1789~1840年・下巻第7章 戦争の産業化の始まり 1840~1884年第8章 軍事・産業間の相互作用の強化 1884~1914年第9章 二十世紀の二つの世界大戦第10章 一九四五年以降の軍備競争と指令経済の時代第7章 戦争の産業化の始まり 1840~1884年第7章では、蒸気...
教養書 「戦争の世界史」その2 ウィリアム・H・マクニール 星3つ
1. 戦争の世界史 その2たった一人で通史を描き出した「世界史」という本で有名なマクニール教授が、今度は「戦争」という観点から世界史を描き出した本作。「その1」から続いてレビューしていきます。2. 目次・上巻第1章 古代および中世初期の戦争と社会第2章 中国優位の時代 1000~1500年第3章 ヨーロッパにおける戦争というビジネス 1000~1600年第4章 ヨーロッパの戦争のアートの進歩 1600~1750年第5章 ヨーロッパにおける官僚化した暴力は試練のときを迎える 1700~1789年第6章 フランス政治革命とイギリス産業革命が軍事におよぼした影響 1789~1840年・下巻第7章 戦争の産業化の始まり 1840~1884年第8章 軍事・産業間の相互作用の強化 1884~1914年第9章 二十世紀の二つの世界大戦第10章 一九四五年以降の軍備競争と指令経済の時代3. 概要第四章では、1600~1750年のあいだに進行したヨーロッパ軍隊の劇的な質的変容が語られます。イタリア諸都市が市民皆兵から傭兵にその軍備の中心を移行して以降、ヨーロッパでは傭兵が戦力の中心になっていきます。やが...
教養書 「戦争の世界史」その1 ウィリアム・H・マクニール 星3つ
1. 戦争の世界史 その1古来から、人類社会と切っても切り離せない関係にあった「戦争」という営み。本書のサブタイトルである「技術と軍隊と社会」という言葉の通り、「戦争」は人類の生活に絶え間なく影響を与え続け、いまなお私たちの生活と切っても切り離せない関係にあると言えるでしょう。レトルト食品からインターネットまで軍事技術から生まれた製品は数知れず、また、「軍隊式」と呼ばれるような行動様式や規律保持方法は会社や学校と行った私たちの暮らしの中心となる場所に多かれ少なかれ浸透しています。軍隊の階級こそ戦後日本の企業体や雇用方式の源流になったという考え方は、「日本社会のしくみ」でも紹介されておりました。経済という意味でも、防衛関連産業は世界各国において主力産業となっていますし、より時間を戻せば、社会経済の全てが戦争に動員されていた時期だってあるわけです。そもそも、現存する国家(諸集団・諸社会)というものは必ず、これまでの「戦争」を生き残り滅亡を免れてきたわけですから、その歴史や特徴を考えるとき「戦争」という切り口が有効なのは火を見るより明らかでしょう。そんなわけで、本書「戦争の世界史」はタイト...
教養書 「市民政府論」 ジョン・ロック 星3つ
1. 市民政府論日本国憲法が基本的人権の擁護を柱としていること、政府が存在し様々な活動を通じて国民生活を支えていること。これらは中学校の社会の教科書に載っている内容ではありますが、このような言説の中では基本的人権の存在や政府の存在が自明になっており、なぜ、基本的人権は存在する(べきな)のか、なぜ(民主的な)政府が存在する(べきな)のかといったことはなかなか語られません。こういった発想は優等生的ではないのかもしれませんが、なぜ基本的人権や民主的な政府の存在が自明に良いとされているのか、疑問に思ったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。本書「市民政府論」はそんな疑問に答える著作の一つとなっております。基本的人権や民主的な政府が当たり前ではなかった時代、その存在を論理的に正当化しようとした人々がおりまして、その代表格の一人が本書の著者であるジョン・ロックになります。なお、「市民政府論」はロックの著作である「統治二論」のうち後編にあたります。現在は岩波文庫から前後編が収録された新訳が出版されておりますので、そちらを手に取るのがいいかもしれません。2. 感想冒頭に述べた通り、「市民政府...
【小説を売る工夫の数々】教養書「拝啓、本が売ません」額賀澪 評価:2点【ビジネス書】
タイトルからは内容が判りづらい本なのですが、発行部数の伸びない作家が編集者と一緒に「本を売る」ことを得意とする人々にインタビューをして回るというもの。そのインタビュー記録とそこから著者が得た気づきが載っている、いわばインタビュー集&著者エッセイのような本です。そんな本を書く著者のプロフィールなのですが、こんな人が「本が売れない」ことに悩むなんてという経歴を持つ作家さんです。私立の中高一貫校から日芸(日本大学芸術学部)の文芸学科に進学。卒業後の就職先は広告代理店で、在職中に若くして松本清張賞と小学館文庫小説賞という二つの新人賞を別々の作品で受賞してデビュー。翌年発売した「タスキメシ」は高校の課題図書に選ばれるという、まさに文芸の王道を進んできた人物。高校在学中にも全国高等学校文芸コンクール小説部門で優秀賞を受賞しているなど、まさに「野良育ちとは違う」感のある小説家だといえるでしょう。しかし、こんな黄金ルートを歩んできた作家でも「拝啓、本が売れません」を書かなければならないほどの窮地にあることが本書の序盤で明らかになります。それでは、どうやったら「本」が売れるのか調べましょう、という流れで...
「リサイクルと世界経済」小島道一 評価:2点|国際貿易の中におけるリサイクルの立ち位置【経済学】
リサイクルという言葉が人口に膾炙するようになってからずいぶん経ちましたが、資源の制約や環境問題がクローズアップされる中で、その概念は今日においてますます輝きを増しているように感じられます。そして、より一体化する世界経済の中で、リサイクルという行為もずいぶん前から国際貿易の中で行われるようになっております。日本の中古自動車や中古家電が発展途上国で利用されているのは有名な話ですし、紙やプラスチックの再生工場も多くは発展途上国に立地しています。先進国から廃棄物を輸入し、原料として使用可能な状態にしてから再び先進国に輸出するというサイクルはもはや当たり前のこととなっているのです。そのような、国際貿易の中でのリサイクル過程がどのように変化し、どのような問題を孕んでいて、どのように解決しているのかということが本書には記されています。著者はジェトロ・アジア経済研究所の小島道一氏。肩書は研究者ですが、本書の筆致には実務担当者として国際貿易の規制や促進に携わってきた側面が色濃く現れております。目次第1章 国境を越えてリユースされる中古品第2章 国境を越えてリサイクルされる再生資源第3章 中古品や再生資源...
新書 「江戸東京の明治維新」 横山百合子 星2つ
1. 江戸東京の明治維新帯の煽り文は「150年前の胸に刺さる現実」。明治維新といえば通常、政府高官として新しい日本をつくりあげていく明治の元勲たちに焦点が当たるか、もしくは、幕府側の将軍とその側近であったり、最後まで佐幕派として戦った武士たちに焦点が当たるかの2択になってしまいがちなところ、本書は旧江戸・新東京に生きた庶民たちの生活について説明しようとしているという点で差異化が図られております。著者は国立歴史民俗博物館教授の横山百合子さん。東大の学部を卒業後、社会科教員として勤めた後に博士課程を経て大学教員としてのキャリアを歩み始めたという人物です。本筋からは逸れますが、リカレント教育の重要性が盛んに言及される中で、今後、日本でもこのような経歴を持つ人が増えるといいな感じます。そして肝心の中身ですが、題材は新鮮だけれどもやや散漫というイメージ。庶民の生活変化の全体像をとらえるというよりは事例集という形式になっており、下級武士の誰それはこう生きた、遊女の誰それはこう生きた、賤民の誰それはこう生きたというような記述が続きます。その生き様の書かれ方は具体的で面白いのですが、それこそ下級武士・...
【経済学】 「ゲーム理論はアート」 松島斉 星2つ
1. ゲーム理論はアート松島斉東京大学教授によるゲーム理論の紹介本です。体系的な教科書や専門書ではなく、かといってエッセイ的な本や時事問題解説本でもないため、「紹介本」としておくのが適切でしょう。近年、社会科学の分野で一大巨頭となりつつあるゲーム理論の考え方が現実とどう関連しているのか、また、ゲーム理論の考え方を現実の状況改善にどう適用しうるのかが事例検討を中心に説明されております。そんな本書ですが、全体的にとても中途半端な本に思われました。ゲーム理論に馴染みのない人にもわかりやすく書いていますといった論調にも関わらず、碌な説明もなしに専門用語やアカデミックな言い回しが多用され、事例も社会科学に興味のある人しか関心を抱かないだろうというものばかり。かといって、体系性や網羅性、専門的な深みがあるかといえばそうではないという本に仕上がっており、ところどころ面白い部分はあったものの、惹きこまれるというよりは購入した義務感で読み進めてしまった本になりました。2. 目次第1部 アートとしてのゲーム理論第1章 ゲーム理論はアートである第2章 キュレーションのすすめ第3章 ワンコインで貧困を救う第...