小説

中村文則

「掏摸」中村文則 評価:1点|さすらいのスリ師を襲う巨悪の陰謀【ノワール純文学】

凋落著しい純文学界隈にあってヒット作を連発し、海外でも人気の高い売れっ子作家である中村文則さん。 受賞歴も非常に華々しく、新潮新人賞を「銃」で受賞すると、野間文芸新人賞を「遮光」で受賞、芥川賞を「土の中の子供」で受賞、そして、大江健三郎賞を本作で受賞するなど、国内の文学賞を次々と陥落していきました。 前述の通り諸外国での評価も高く、 ウォール・ストリート・ジャーナルが選ぶ2012年ベスト小説10作に本作が選ばれたほか、同紙が選ぶ2013年ベストミステリーの10作に「悪と仮面のルール」が選ばれ、デイビッド・グーディス賞というノワール小説の名手に贈られる賞も受賞しています。 そんな文壇の寵児にとって代表作のひとつであり、上述の通り米高級紙の評価も受けている本作なのですが、読んでみた感想はちょっと陳腐すぎるかなといったところ。 文学としてもエンタメとしても凡庸未満の作品だったと感じました。 あらすじ 主人公は掏摸を生業にしている西村という青年。 東京を仕事場に富裕層ばかりを狙って獲物を次々と盗っていく西村だが、ある日、彼は木崎という男から仕事を頼ま...
三田誠広

「いちご同盟」三田誠広 評価:3点|思春期の繊細な心情とその成長を描いた病室ボーイ・ミーツ・ガール【青春純文学】

1990年に出版された小説で、芥川賞作家である三田誠広さんの代表作でもあります。 中学校の国語教科書に掲載されていたほか、集英社のナツイチ(夏の100冊)にも長らく選ばれ続けていたので、タイトルをご存じの方も多いでしょう。 近年でも大人気漫画「四月は君の嘘」の作中でオマージュされるなど、長年にわたり根強い人気を誇り、様々な作家に影響を与えている作品となっております。 都市郊外に居住する核家族的な生活感が日本の文化的メインストリームとして定着し、そのうえ、熾烈な受験戦争で生徒たちの精神がすり減らされていた1980年代。 そんな時代に、自殺という選択肢に対して仄かな憧れを抱く少年と、不治の病で入院しており、死期が近い少女との、ひと夏の淡く切ない交流を描くという内容の小説。 長期入院している少女と、身体は健康だが心に悩みを抱える少年のボーイ・ミーツ・ガールという「病室もの」的なジャンルを開拓した小説でもあります。 勉強、スポーツ、生きるということ、死ぬということ、人生とは何か。 よく言えば普遍的、悪く言えば平凡な要素がテーマとなっており、物語構成と...
ロバート・A・ハインライン

「夏への扉」ロバート・A・ハインライン 評価:2点|夢と恋に破れた青年の鮮やかな復讐が見どころのタイムトラベル冒険小説【古典SF小説】

1957年に出版されたタイムトラベル小説の古典的名作で、SF作家であるロバート・A・ハインラインの代表作としても知られています。 大昔に出版された小説ながら特に日本での人気は根強く、新装版がたびたび出版されるほどのロングセラー。 2021年にも山崎賢人さん主演で映画化され、公開に合わせて新装版が発売されました。 読後の感想としては、王道の物語を纏める手堅い構成には見るべきところがあるものの、肝心の「面白さ」にはやや欠ける作品という印象です。 あらすじ 1970年のロサンゼルスで青年ダンは絶望の淵にいた。 友人であるマイルズと立ち上げた会社の業績は絶好調。 しかし、マイルズと自分の秘書であるベルの奸計により、ダンは会社を追い出されてしまったのである。 絶望のあまり、開発されたばかりの新技術「冷凍睡眠」を利用して長い眠りにつき、遥か未来で目覚めることにより人生をやり直そうと一度は決断するダンだったが、直前に思い直し、マイルズとベルへの復讐を実行に移す。 しかし、復讐は失敗。 そして、ダンは自分の意思によってではなく、マイルズとベ...
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三浦綾子

「塩狩峠」三浦綾子 評価:3点|清く正しいキリスト教文学【純文学】

キリスト教文学の名手として時代の寵児となった三浦綾子さんの作品。 彼女の作品としては「氷点」と並ぶ代表作として知られています。 全体的にやや説教くさい部分があり、善人のキリスト教徒ばかりが出てくるという点は鼻持ちならないですが、キリスト教の教義を基盤とした印象的なフレーズも多く、心に残る純文学作品ではありました。 あらすじ 明治42年、名寄駅から札幌駅へと向かう汽車でトラブルが起こる。 険しく急峻な塩狩峠に差し掛かった際、汽車の連結部が外れ、車両は急坂を猛烈な勢いで後退し始めたのだ。 このままでは乗客全員の命が危ない。 そんなとき、客車を飛び出してデッキに向かった男がいた。 彼の名前は永野信夫(ながの のぶお)。 デッキに備え付けのハンドブレーキを回す信夫だが、汽車の勢いは緩まったものの止まることはない。 ここまで速度が落ちたのならば、あとは何らかの障害物があれば止まってくれるだろう。 そう考えた信夫はデッキからレールへとその身を投げたのだった。 あまりに高潔な死を遂げた永野信夫。 この青年の立派な人格はい...
島本理生

「ナラタージュ」島本理生 評価:2点|美しい文章と陳腐な少女漫画風の物語【恋愛純文学】

恋愛小説家として著名な島本理生さん。 高校在学中に「シルエット」で群像文学新人賞優秀賞を獲得して純文学文壇にデビューした若き俊英であった一方、2018年には「ファーストラヴ」で直木賞を獲得するなど、エンタメ小説家としての顔も持ちながら長きに渡って一線で活躍している作家です。 そんな島本さんの作品の中でも、おそらく一番有名なのが本作でしょう。 「この恋愛小説がすごい! 2006年版」で第1位、「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」で第1位、本屋大賞で第6位を獲得した作品で、著名な文学賞を獲得したわけではないものの、島本さんの代表作として挙げられることが多い作品です。 それゆえ、期待を持って読んでみたのですが、期待はずれだったというのが正直な感想。 文章表現の美しさはさすがと言わざるを得ない一方、陳腐な少女漫画風の物語は面白みもなく鼻につきます。 あらすじ 主人公は女子大学生の工藤泉(くどう いずみ)。 ある日、高校時代の恩師である葉山貴司(はやま たかし)から、演劇部の人数が足りないので助っ人として公演に出てくれないかと誘われる。 泉...
マーク・トゥエイン

【古き良き時代の小学生男子物語】小説「トム・ソーヤーの冒険」マーク・トゥエイン 評価:2点【海外文学】

あらすじ 時代は19世紀中盤、舞台はミズーリ州の田舎町セント・ピーターズパーク。 10歳の少年トム・ソーヤーは大変な悪戯好きで、いつも騒動を巻き起こしては育ての親であるポリー伯母さんに叱られている。 塀のペンキ塗りを巧みな手腕で友人たちに押し付けたり、新入りの少年と取っ組み合いの喧嘩をしたり、同級生の少女ベッキー・サッチャーにアプローチしてみたり、ホームレスの少年ハックルベリー・フィンと一緒に家出をしてみたりと、トムの日常は大なり小なりの冒険に溢れている。 そんなある日、トムは真夜中の墓地で殺人事件を目撃してしまう。 恐怖に駆られながら町に戻ったトム。 しかし、彼には更なる試練が訪れる。 真犯人のインシャン・ジョーは犯罪の隠匿を画策、マフ・ポッター老人に罪を被せようとしていて……。 感想 子供向けの純粋なエンタメ冒険小説です。 小学校高学年男子がやりそうな悪戯や、やってみたいと思うような冒険(家出をして森で寝泊まりしたりなど)のエピソードが散りばめられており、児童文学としてはまずまず面白いのではないでしょうか。 ただ、...
玄侑宗久

【介護と再生】小説「龍の棲む家」玄侑宗久 評価:1点【純文学】

臨済宗の僧侶にして芥川賞作家である玄侑宗久さんの作品。 母親に先立たれた父親が認知症となり、その介護を行う息子と、偶然の出会いからその介護を手伝うことになった元介護士の女性が主な登場人物。 僧侶らしい題材、とまで言ってしまうのは偏見かもしれませんが、現代らしい、地味ながら重大な介護という営為を通じて人間の出会いと成長を描いています。 とはいえ、その内容は予想以上に無風な物語で、それでいいの、と思ってしまうくらい盛り上がりに欠けます。 そもそもが落ち着いた題材とはいえ、ここまでドラマに欠けた面白みのない小説もないだろうと感じました。 あらすじ 父親が認知症になり、徘徊するようになった。 兄である哲也から電話でそう告げられた幹夫は、経営する喫茶店を閉じて実家に戻ることを決断する。 毎日行われる散歩という名の徘徊に付き添ううちに、ふと立ち寄った公園で幹夫は佳代子という女性と出会う。 以前は介護の仕事をしていたが、現在は無職だという佳代子。 父親とのコミュニケーションを巧みにこなす佳代子の姿を見て、幹夫は佳代子を介護士として...
☆☆☆☆(小説)

【青春夜間歩行】小説「夜のピクニック」恩田陸 評価:4点【青春小説】

長期間に渡って小説界の第一線で活躍する作家、恩田陸さんの作品。 2016年に「蜂蜜と遠雷」で直木賞を獲るまでは本作が筆頭の代表作として挙げられることが多かったように思います。 第2回本屋大賞を受賞してから爆発的に売れ始め、まさに発掘された名作となった作品。 その内容は、高校生三年生たちが80kmの夜間歩行に挑むというだけの物語。 しかし、その過程で繰り広げられるささやかな心理的すれ違いについての描写が超一級品という、特異な魅力を持った作品です。 輝きと後ろめたさの両方を伴う、未熟な友情・恋愛の機微に誰もが郷愁を感じるのではないでしょうか。 派手な展開ではなく、耽美で繊細な心理描写と叙情的な夜間歩行の風景描写で魅せる作品。 あまり小説を読んだことがない人でも、無類の小説好きでも感動できる小説です。 あらすじ 甲田貴子(こうだ たかこ)が通う学校には「歩行祭」という特別な行事がある。 3年生全員が体育用のジャージを身に纏い、夜を徹して80kmもの道のりを歩くという行事。 当日、友人である遊佐美和子(ゆさ みわこ)...
スコット・トゥロー

【波乱の法廷サスペンス】小説「推定無罪」スコット・トゥロー 評価:3点【海外ミステリ】

現役弁護士にして元検事補、作家としても活躍するスコット・トゥローの代表作。 ニューヨーク・タイムズの年間ベストセラーリストでは1987年の7位に入り、映画も2億ドル以上の興行収入を得るなど、当時の大ヒット作となった小説です。 殺人事件の捜査をしている主席検事補の主人公が、なんとその殺人事件の容疑者として起訴されてしまうという物語。 真犯人は誰なのか、というミステリ的な側面はもちろんのこと、米国独特の司法制度のもとで行われる劇的な裁判の展開や、汚職や不倫といったドロドロ要素溢れるサスペンスが興奮をそそります。 あらすじ 舞台はアメリカの田舎町であるキンドル郡。 地方検事局のトップを務める地方検事を決める選挙の真っ最中であり、現職のレイモンド・ホーガンと新人の二コ・デラ・ガーディアとの選挙戦は大接戦となっている。 そんな折、キンドル郡及び郡地方検事局を揺るがす殺人事件が発生してしまう。 キャロリン・ポルヒーマス検事補が何者かに殺害されてしまったのだ。 この事件を見事解決に導いて得点稼ぎをしたいレイモンドは、腹心の部下であるラス...
星新一

【唯一無二の超短編作家】小説「地球から来た男」星新一 評価:2点【ショートショート作品集】

「ショートショートの神様」として知られる星新一さんの作品集。 ショートショートを精力的に発表し続けた異端の作家であり、1957年デビューでありながら現在においてもその作品群は根強い人気を誇っております。 日本経済新聞社が毎年開催している小説新人賞「星新一賞」に名前を冠していることもその証左だと言えるでしょう。 文学賞の受賞こそ2度(日本推理作家協会賞・日本SF大賞特別賞)と少ないですが、刊行された作品集の数は膨大で、漫画化やドラマ化されたメディアミックス作品も枚挙に暇がありません。 そんな星新一さんの作品集の中でも、本作は2007年に角川文庫から発売された比較的新しい作品集です。 SF色の濃い表題作から、ミステリ仕立ての作品、あるいはヒューマンドラマに重きを置いた作品など、バラエティ豊かな内容となっておりました。 あらすじ ・地球から来た男 産業スパイとして活躍していた男だが、ある日、潜入先で産業スパイであることが暴かれてしまう。 口封じのため、特殊な装置を使って遥か遠くの惑星に飛ばされてしまった男。 しかし、男の眼...
谷川流

【涼宮ハルヒの新刊】小説 「涼宮ハルヒの直観」 谷川流 星1つ

1. 涼宮ハルヒの直観 ライトノベル界隈において「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズは2000年代(ゼロ年代)を代表する伝説のビッグタイトルとして知られています。 その9年半ぶりの新刊が本作「涼宮ハルヒの直観」です。 前作までの僅か11作品で累計2000万部以上の発行部数を誇り、恐らく、1巻当たりの発行部数では全ライトノベルNo.1でしょう。 2006年にアニメ化された際には社会現象にもなり、90年代の「新世紀エヴァンゲリオン」と対比されながら、「エヴァ世代」「ハルヒ世代」と区分されることもあるほどの影響をサブカルチャー界隈にもたらしました。 まさに時代/世代を代表する作品なのです。 そんなシリーズの、文字通り満を持して発売された本作ですが、正直のところ、内容はかなり肩透かしであり、失望いたしました。 語るのも悔しい作品ですが、読了したからには感想を書きたいと思います。 2. 収録作品 ・あてずっぽナンバーズ(p3-35) ・七不思議オーバータイム(p36-127) ・鶴屋さんの挑戦(p128-411) 3. あ...
ミヒャエル・エンデ

【時間を蝕む現代社会】小説「モモ」ミヒャエル・エンデ 評価:2点【児童文学】

ドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの作品。 「果てしない物語」と共に彼の代表作として扱われることが多い著作ですが、日本では「モモ」の人気が非常に根強く、ドイツ語版の次に発行部数が多いのは日本語版だそうです。 「効率性」の名のもとに人間的な温かみのある要素がことごとく「悪」とされ、それでいて「効率化」を突き詰めたのに全くといっていいほど時間に余裕がない。 そんな現代社会を風刺した童話、という内容が日本人受けするのかもしれません。 全体的な感想としましては、現代社会の労働観や時間不足についての皮肉になっている個々の場面は楽しめたものの、物語の総体としてはイマイチだったという印象。 最も皮肉が効いている第6章や、近代的学校教育に対する批判精神旺盛な第13章、第16章の一部だけ読めばそれでよいと思えてしまいます。 あらすじ 舞台はローマのようでローマではない街。 主人公のモモは孤児で、街はずれの円形劇場跡に住んでいる。 両親はおらず、そのままでは食べる物にも困る立場のモモだけれど、モモの周囲にはいつも人が集まって温かな交流が結ば...
ヘルマン・ヘッセ

【優等生の哀しい青春】小説 「車輪の下」 ヘルマン・ヘッセ 星3つ

1. 車輪の下 ノーベル文学賞作家、ヘルマン・ヘッセの作品。 短編小説「少年の日の思い出」が中学校の国語教科書に長年掲載されているため、ヘッセという名前を聞いたことがないという日本人はあまりいないのではないでしょうか。 そんなヘッセの作品の中でも、「車輪の下」は特に日本で有名な作品になっております。 「新潮文庫の100冊」に長年選ばれ続けていることがその理由でしょう。 聞いたことがある作家で、本屋でも夏になると平積みされる。 だからこそよく売れているのだと思います。 そんな本作の内容は、「少年の日の思い出」を想起させるような暗くて救いのない話。 思春期特有の感情がもたらす興奮と絶望に苛まれ、一人の優等生が人生という重い車輪にゆっくりと押し潰されていく様子が描かれています。 2. あらすじ 田舎町の少年ハンス・ギーベンラートは幼少の頃から勉学でその才能を発揮しており、周囲の大人たちから将来を嘱望されていた。 その期待に応え、ハンスは神学校の入学試験を2位という好成績で合格する。 しかし、神学校で待っていたの...
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