【現代社会】おすすめ現代社会評論3選【雑記まとめ】
小説作家名「あ」行
「リバーズ・エッジ」岡崎京子 評価:3点|独特の退廃的な世界観が魅力的な90年代高校生群像劇【青春漫画】
1980年代から90年代にかけて活躍した岡崎京子さんの作品。漫画雑誌での連載期間は1993年から1994年までとなっており、連載終了後に単巻で単行本が発売されております。1990年代という時代を背景として、ややダウナーでオフビートな高校生たちの生活を描いており、いじめや同性愛、摂食障害や援助交際といった岡崎さんらしい要素が散りばめられています。作中では衝撃的な事件が起こりますが、あくまでメインテーマは高校生間で結ばれる恋愛と友情の機微となっており、掴みどころがないのにぐんぐんと読み進めてしまうような、そんな作品でした。あらすじ大きな河の河口付近に位置する街が舞台。主人公の若草わかくさハルナは女子高生で、素行不良の同級生である観音崎かんおんざき峠とうげと付き合っている。といっても、もはや観音崎への愛情は存在せず、惰性で付き合っているばかり。そんなハルナが通う高校の教室では、同級生の山田やまだ一郎いちろうが激しいいじめに遭っていた。執拗ないじめを見るに見かねたハルナは山田を助けるのだが、そのことがきっかけとなり、ハルナは山田のとある秘密を知ることになる……。やり場のない劣等感を抱えた高校生...
「イニシエーション・ラブ」乾くるみ 評価:2点|1980年代の世相を背景に大胆なトリックで衝撃のラストを演出した人気作【恋愛ミステリ小説】
2004年に発売された小説で、2005年版の「本格ミステリ・ベスト10」の第6位、「このミステリーがすごい!」の12位にランクインするなど、ミステリ小説としての評価が高い作品です。売上としてはミリオンセラーを記録し、2015年には映画化されるなど、非常に息の長いロングセラーの人気作となっており、著者である乾くるみさんの代表作だといえるでしょう。そんな本作を読んでみた感想ですが、宣伝文句の「最後2行の衝撃」が面白いことは確かである一方、それまでの経過は凡庸な恋愛小説のそれであり、やはりミステリ小説を推理しながら読んでいける人向けの作品だと感じました。ミステリ小説を読むと、謎が解ける瞬間は面白いけれどそれまではイマイチという感想を抱くことが多いので、あまりミステリ小説の読書に向いていない人間なのではないかと思う今日この頃です。あらすじ静岡大学に通う内気な大学生、鈴木夕樹すずきゆうきが主人公。ある日の合コンで鈴木は成岡繭子なるおかまゆこという女性に一目惚れする。紆余曲折あって成岡と付き合うことになり、深い関係を築くことに成功した鈴木。時は巡り、地元静岡の企業に就職した鈴木だが、幸か不幸か同期...
「第六大陸」小川一水 評価:1点|少女の夢を叶えるため、男たちは月面に結婚式場を建設する【SF小説】
本格SF小説の書き手として知られる小川一水さんの作品で、代表作の一つとして位置づけられることが多い作品です。優秀なSF小説に与えられる賞である星雲賞の第35回日本長編部門受賞作にして漫画化もされている人気作ということで読んでみたのですが、かなり期待外れだったというのが正直な感想です。SFの部分はかなりリアル(であるように感じられる)にも関わらず、一方で会社組織の在り方や人間関係があまりにもライトノベル風となっているため作中でのリアリティの持たせ方がかなり歪んでおり、真剣な話として読むべきなのか、一種のコメディとして読むべきなのか混乱してしまって全く熱中できない作品となっております。あらすじ(本書は2003年刊行です)ときは西暦2025年、極地や海底といった厳しい環境での施設建設に定評がある後鳥羽総合建設がある日、規格外の大型案件を受注することとなった。それは、月に結婚式場を建設するというもの。月面の有人施設ですら希少という時代において、それはあまりにも壮大で無謀な計画だった。そんなプロジェクトの担当となったのは、後鳥羽総合建設の建設主任である青峰あおみね走也そうや。そして、走也と行動を...
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ 評価:3点|良識のある人間として立派に生きてきた、それなのに、何か重要な事柄を見落としている気がする【海外純文学】
「ミステリの女王」の異名をもって知られ、「そして誰もいなくなった」「オリエント急行の殺人」「アクロイド殺し」「ABC殺人事件」など、いまなお人気の根強い名作ミステリを遺した小説家アガサ・クリスティ。そんなクリスティが著した、ミステリではない作品がこの「春にして君を離れ」です。ミステリ作家として名を馳せていたクリスティは敢えて別名義で非ミステリ小説を発表していたのですが、そんな非ミステリ小説群の中では本作が最も有名な作品となっております。弁護士の夫を持ち、三人の子供にも恵まれた専業主婦が順風満帆だった「はず」の人生を振り返り、ささやかな疑問を抱くところから始まる物語。普通よりも良い人生、常識的に考えて良いとされる人生を歩み続け、他者にもその「良識」を遺憾なく振りかざしてきた女性が、人生において本当に大切なことを少しだけ理解しかけて、けれども、その理解さえも心の奥で拒絶してしまう。決まりきった人生が持つあまりの薄っぺらさと、それに半ば気づいていながら薄っぺらい人生に拘泥することの哀愁を描いた、ベタな題材ながら心に沁みる物語です。あらすじバグダッドから陸路でロンドンで帰る途中、ジョーン・スカ...
「オリエント急行の殺人」アガサ・クリスティ 評価:3点|真冬の国際寝台列車で起こる静謐で哀切な殺人事件【海外ミステリ小説】
「ミステリの女王」という異名を持つ稀代のミステリ作家、アガサ・クリスティの作品。「そして誰もいなくなった」「ABC殺人事件」「アクロイド殺し」等に並ぶクリスティの代表作として知られており、1934年の作品ながら、今日においても版を重ねている歴史的ベストセラーとなっております。日本語の新訳版も2017年に出版されており、国内においても人気の高い小説です。個人的な感想としても、ミステリ小説として十分に楽しめる作品であり、また、世界各国の富豪が乗り合わせる1930年代の国際寝台列車という独特な雰囲気も味わい深いものでした。あらすじ舞台は真冬の欧州を走る国際寝台列車オリエント急行の車内。ロンドンへ移動するため、名探偵エルキュール・ポワロはイスタンブール発カレー行の列車に乗車していた。しかし、猛吹雪に飲まれた列車はヴィコンツィ(クロアチア)とブロド(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)のあいだで立ち往生してしまう。不安と焦燥に包み込まれる車内、そして事件は起こる。サミュエル・ラチェットというアメリカ人実業家が刺殺された姿で発見されたのだ。ポアロは乗り合わせた乗客たちを一人一人呼び出し、尋問にかける。相矛...
【青春夜間歩行】小説「夜のピクニック」恩田陸 評価:4点【青春小説】
長期間に渡って小説界の第一線で活躍する作家、恩田陸さんの作品。2016年に「蜂蜜と遠雷」で直木賞を獲るまでは本作が筆頭の代表作として挙げられることが多かったように思います。第2回本屋大賞を受賞してから爆発的に売れ始め、まさに発掘された名作となった作品。その内容は、高校生三年生たちが80kmの夜間歩行に挑むというだけの物語。しかし、その過程で繰り広げられるささやかな心理的すれ違いについての描写が超一級品という、特異な魅力を持った作品です。輝きと後ろめたさの両方を伴う、未熟な友情・恋愛の機微に誰もが郷愁を感じるのではないでしょうか。派手な展開ではなく、耽美で繊細な心理描写と叙情的な夜間歩行の風景描写で魅せる作品。あまり小説を読んだことがない人でも、無類の小説好きでも感動できる小説です。あらすじ甲田貴子(こうだ たかこ)が通う学校には「歩行祭」という特別な行事がある。3年生全員が体育用のジャージを身に纏い、夜を徹して80kmもの道のりを歩くという行事。当日、友人である遊佐美和子(ゆさ みわこ)と歩きながら、貴子は自分に課した一つの試練を思い返していた。その試練とは、この歩行祭のあいだに、ク...
「他人の顔」安部公房 評価:2点|顔とは他者から自己の内面を覆い隠す蓋であり、他者から見た同一性を保全するための道具である【純文学】
ノーベル文学賞の有力候補だったと言われているほか、芥川賞、谷崎潤一郎賞、さらにはフランス最優秀外国文学賞を受賞するなど、国内外で評価が高かった小説家、安部公房の作品。「砂の女」「燃え尽きた地図」と並んで「失踪三部作」の一つに位置付けられています。このうち「砂の女」は当ブログでもレビュー済みであり、日本文学史上屈指の名作であると結論付けています。圧倒的感動に打ちのめされるという経験をさせてくれた「砂の女」と同系列の作品という評価に期待を寄せて読んだ本作。悪くはありませんでしたが、その高い期待に応えてくれたわけではありませんでした。「砂の女」と同様、都市化・資本主義化していく社会の中で人々の自己認識や他者との関わり方が変化していくというテーマそのものは面白かったのですが、「砂の女」が見せてくれたような冒険的スリルやあっと驚く終盤のどんでん返しがなく、主人公の思弁的で哲学的なモノローグがあまりにも多すぎたという印象。もう少し「物語」としての起伏や展開による面白さがあれば良かったのにと思わされました。あらすじ主人公の「ぼく」は高分子化学研究所の所長代理として研究に取り組む日々を送っていた。そん...
「都市と星」 アーサー・C・クラーク 評価:2点|快適で無機質なディストピア世界、青年による脱出と帰還の冒険譚【古典SF小説】
「2001年宇宙の旅」や「幼年期の終わり」で知られるSFの巨匠、アーサー・C・クラークの作品。1956年に出版された作品ですが、2009年に新訳版が出るなどいまでも根強い人気を誇っております。そんな本作、SFの人気作品というだけあってSF的な設定や世界観は魅力的で面白いと感じましたが、肝心のストーリーがやや冗長で起伏に欠けていると思いました。序盤では閉じられた世界から新しい世界に主人公が踏み込むまでが長すぎ、終盤では主人公が宇宙に旅立ってその現況を眺めるという展開にしてしまったことで風呂敷が広がり過ぎて展開が拙速かつ大味になっています。あらすじ物語の舞台は遥か未来の地球。ダイアスパーという都市では人間生活の全てをコンピュータが管理しており、生誕や死さえもその例外ではない。人間のデータは全て「メモリーバンク」に記録されており、人間は両親の身体からではなく「メモリーバンク」から生まれ、そして死にたくなったときには再び「メモリーバンク」へと還り、時間をおいて新しい肉体を得て生まれ変わるというサイクルを繰り返していた。人間の一生は主にコンピュータが提供する遊戯や芸術活動に割かれ、誰も彼もダイア...
小説 「これは経費で落ちません ~経理部の森若さん~」 青木祐子 星1つ
1. これは経費で落ちませんいわゆる「ライト文芸」や「キャラ文芸」と呼ばれるジャンルの作品で、「働く女性(都市部の事務員)」が主人公と、流行りの要素を詰め込んだ作品。シリーズは現在(2019年9月)時点で6巻まで刊行されており、累計70万部突破と出版不況の中で気を吐く人気作品です。NHKでドラマ化もされており、2019年7月から放送されています。しかしながら、私個人としてはあまり楽しめませんでした。いかにもフィクションな「キャラクター」で埋め尽くされる現実感のない職場が舞台で、「経理部」や「経費」という表題の要素もおまけ程度で掘り下げられることもなく、いわゆる「日常の謎」をさらに薄めたような、起伏も何もあったもんじゃない程度の出来事ばかりで物語は進行します。リアリティがないのに日常ものという長所が見出しづらい作品で、なぜヒットしているのか理解しがたいというのが正直な感想です。2. あらすじ主人公、 森若沙名子(もりわか さなこ)は 20代後半 。「天天コーポレーション」の経理部に勤めている。部長を含め4人の経理部の中では3番目の年次だが、その的確な経理処理で部長からの信頼も厚い。そんな...
小説 「砂の城」 遠藤周作 星1つ
1. 砂の城「海と毒薬」や「沈黙」で有名な、戦後日本文学を代表する作家の一人、遠藤周作の作品。解説でも「軽小説である」と言及されている通り、遠藤周作の名声を押し上げた文学作品たちとは一線を画す、すらすらと呼んでいける青春小説です。このように紹介するのも、多分に時代性のある大衆文学過ぎまして現代の小説として通用するとは言い難く、小説の構成上も難ありと思った次第。やはり遠藤周作は重厚な文学作品でこそ本領を発揮するのでしょう。砂の城 (新潮文庫 (え-1-12))posted with ヨメレバ遠藤 周作 新潮社 1979-12-27AmazonKindle楽天ブックス
小説 「ゆめにっき」 日日日 星1つ
1. ゆめにっき2004年に公開された知る人ぞ知るフリーゲーム、「ゆめにっき」のノベライズ版です。原作はネット上で無料公開されており、いまでも遊ぶことができます。また、小説版である本作をはじめメディアミックスも盛んであり、漫画版やイメージ音楽、各種グッズも販売されているほか、最近では原作リメイクのゲームも発売されたようです。私も原作ファンであり、個人開発のフリーゲームながら根強い人気があるのは嬉しいのですが、この小説版に限っては残念だというのが正直な感想です。あの「ゆめにっき」が誇る、他の娯楽作品にない特徴をあまりにも簡単に捨て去ってしまっています。ゆめにっき (VG文庫)posted with ヨメレバ日日日 PHP研究所 2015-11-05AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo
小説 「猫を抱いて象と泳ぐ」 小川洋子 星2つ
1. 猫を抱いて象と泳ぐ不思議な世界観と優しく繊細な文体で人気を博す純文学作家、小川洋子さんの作品。小川さんの個性が前面に押し出されており、ファンの間で評価が高いことも頷けます。しかし、そこが却って普遍性を損なっているような、万民への説得力に欠けているような作品だったと思います。2. あらすじ生まれつき唇の上下がくっついていたために、手術により切開し、脛の皮膚を唇に移植した少年。そのため、少年の唇には成長と共に産毛が生えてくるようになってきていた。学校にも上手く馴染めない少年を惹きつけたのはチェスという競技。廃バスの中で生活するマスターにチェスを教わり、少年はぐんぐんと腕前を上げていく。そんな少年を変えたのはマスターの死だった。肥満しきった不健康な身体でバスの中を狭苦しそうに生活していたマスター。それは、少年が幼少期に出会ったインディラという象を思い出させる。デパートの屋上で見世物となっていたインディラは成長とともに身体が大きくなり、デパートの屋上から降ろすことができなくなってしまっていたのだ。少年は「大きくなること」に絶望し、身体の成長を止めてしまう。それは、チェス盤の下に籠って思考...
小説 「万延元年のフットボール」 大江健三郎 星2つ
1. 万延元年のフットボール ノーベル文学賞作家、大江健三郎の代表作として挙げられることが多い作品。同賞を受賞したきっかけになった作品とも言われています。 文体や比喩表現、人物造形は独特で、確かに意味深長な文学作品ではあるのでしょう。しかし、表面上の物語、目に見える物語があまりにも面白くなさすぎます。 万延元年のフットボール (講談社文芸文庫) posted with ヨメレバ 大江 健三郎 講談社 1988-04-04 Amazon Kindle 楽天ブックス 楽天kobo