【エンタメ小説】有名エンタメ小説低評価批評集【閲覧注意】
作品の感想
「涼宮ハルヒの直観」谷川流 評価:1点|9年半ぶりに出版されたシリーズ最新作は深い失望を伴うミステリ風の駄作【ライトノベル】
ライトノベル界隈において、「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズは2000年代(ゼロ年代)を代表する伝説のビッグタイトルとして知られています。その9年半ぶりの新刊が本作、「涼宮ハルヒの直観」です。前作までの僅か11作品で累計2000万部以上の発行部数を誇り、恐らく、1巻当たりの発行部数では全ライトノベルNo.1でしょう。2006年にアニメ化された際には社会現象にもなり、90年代の「新世紀エヴァンゲリオン」と対比されながら、「エヴァ世代」「ハルヒ世代」と区分されることもあるほどの影響をサブカルチャー界隈にもたらしました。まさに時代/世代を代表する作品なのです。そんなシリーズの、文字通り満を持して発売された本作ですが、正直のところ、内容はかなり肩透かしであり、失望いたしました。語るのも悔しい作品ですが、読了したからには感想を書きたいと思います。収録作品・あてずっぽナンバーズ(p3-35)・七不思議オーバータイム(p36-127)・鶴屋さんの挑戦(p128-411)あらすじ(唯一の長編作品である「鶴屋さんの挑戦」のあらすじです)夏もほど近い、新緑の季節。いつも通り部室でたむろするSOS団のもとに一通の...
【時間を蝕む現代社会】小説「モモ」ミヒャエル・エンデ 評価:2点【児童文学】
ドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの作品。「果てしない物語」と共に彼の代表作として扱われることが多い著作ですが、日本では「モモ」の人気が非常に根強く、ドイツ語版の次に発行部数が多いのは日本語版だそうです。「効率性」の名のもとに人間的な温かみのある要素がことごとく「悪」とされ、それでいて「効率化」を突き詰めたのに全くといっていいほど時間に余裕がない。そんな現代社会を風刺した童話、という内容が日本人受けするのかもしれません。全体的な感想としましては、現代社会の労働観や時間不足についての皮肉になっている個々の場面は楽しめたものの、物語の総体としてはイマイチだったという印象。最も皮肉が効いている第6章や、近代的学校教育に対する批判精神旺盛な第13章、第16章の一部だけ読めばそれでよいと思えてしまいます。あらすじ舞台はローマのようでローマではない街。主人公のモモは孤児で、街はずれの円形劇場跡に住んでいる。両親はおらず、そのままでは食べる物にも困る立場のモモだけれど、モモの周囲にはいつも人が集まって温かな交流が結ばれており、モモも人の輪の中で幸せに暮らしていた。そんなある日、街に灰色の男たちが現...
「ジョゼと虎と魚たち」タムラコータロー 評価:1点|名作邦画のリメイクアニメは非常に残念な凡庸恋愛映画【アニメ映画】
2020年12月25日に公開されたアニメーション作品。1984年に著された田辺聖子さんの短編小説が原作で、映画通のあいだでは2003年の実写映画版が名作として知られているようです。とはいえ、印象的なベッドシーンやヒロインが抱える障がいに独特の焦点を当てたことで評判になった実写版とは異なり、アニメ映画はクリスマスに相応しい清らかな純愛ものに仕上がっています。加えて、主人公とヒロインの声を俳優の中川大志さんと清原果耶さんが務め、お笑い芸人である「見取り図」の二人もチョイ役で参加しているところからも、大衆受けを狙ったのだろうなという感じは拭えません。そして、そういった大衆受け純愛路線が結果的に奏功していたかと問われれば、かなり失敗していたのではないかと感じました。著しく退屈というわけではないけれども、どうにも底の浅い凡庸な映画に仕上がってしまっていたというのが感想の大枠です。あらすじ主人公は男子大学生の恒夫つねお。大学では海洋生物学を専攻しており、趣味は海に潜ること。メキシコ留学に向けた資金を貯めるため、ダイビングショップでのアルバイトにも励んでいる。そんな恒夫がダイビングショップから帰る途...
「幸福論」バートランド・ラッセル 評価:3点|様々な自己啓発本の種本になっている「幸福」についての古典的佳作【生き方】
数学、論理学、哲学、そして文学の世界で多大な功績を残したイギリスの学者、バートランド・ラッセルの著作。1950年のノーベル文学賞を受賞するほどの文筆家であったラッセルが著す「幸福論」は、ヒルティ及びアランの「幸福論」と並ぶ三大幸福論の一つとして知られています。その内容は、この「幸福論」こそが様々な自己啓発論の源流になっているのだなと思わせられるものでした。目新しくはないものの、現代でも様々な本で言及される「人生を幸福に生きるコツ」の最大公約数が網羅されており、やや難解な英文翻訳調の文章に対して抵抗がなければ、安っぽい自己啓発書を読むよりも本書を一読する方が良いと思われます。また、賢者の誉れ高いラッセルらしく、自己啓発の域を超えた社会論的な側面も記述されています。ラッセルという賢人が世の中をどのように見ていたのか、世の中がどのように変化していくと考えていたのかという思索を覗き見られるという利点も備えた作品になっております。目次・第1部 不幸の原因第1章 何が人びとを不幸にするのか第2章 バイロン風の不幸第3章 競争第4章 退屈と興奮第5章 疲れ第6章 ねたみ第7章 罪の意識第8章 被害妄...
【優等生の哀しい青春】小説 「車輪の下」 ヘルマン・ヘッセ 星3つ
1. 車輪の下ノーベル文学賞作家、ヘルマン・ヘッセの作品。短編小説「少年の日の思い出」が中学校の国語教科書に長年掲載されているため、ヘッセという名前を聞いたことがないという日本人はあまりいないのではないでしょうか。そんなヘッセの作品の中でも、「車輪の下」は特に日本で有名な作品になっております。「新潮文庫の100冊」に長年選ばれ続けていることがその理由でしょう。聞いたことがある作家で、本屋でも夏になると平積みされる。だからこそよく売れているのだと思います。そんな本作の内容は、「少年の日の思い出」を想起させるような暗くて救いのない話。思春期特有の感情がもたらす興奮と絶望に苛まれ、一人の優等生が人生という重い車輪にゆっくりと押し潰されていく様子が描かれています。2. あらすじ田舎町の少年ハンス・ギーベンラートは幼少の頃から勉学でその才能を発揮しており、周囲の大人たちから将来を嘱望されていた。その期待に応え、ハンスは神学校の入学試験を2位という好成績で合格する。しかし、神学校で待っていたのはいままで以上に鬱屈な勉強漬けの日々。そんなハンスが神学校で出会ったのは、ヘルマン・ハイルナーという少年。...
「いまを生きる」ピーター・ウィアー 評価:4点|型破りな教師が示す自分らしい人生のつくりかた【アメリカ映画】
1989年のアメリカ映画で、第62回アカデミー賞で脚本賞を受賞した作品でもあります。厳格な進学校に赴任してきた型破りな教師の授業から、生徒たちが「人はどう生きるべきか」の本質を学び、実践していくという内容。テーマの普遍性から今日でも人気の衰えない作品であり、元サッカー日本代表で現在はJ1ガンバ大阪の監督を務めている宮本恒靖さんが座右の銘に「いまを生きる」を採用するなど、まさに多くの人々の生き方に影響を与えた作品になっております。いまとなっては古典となった本作をこの令和の時代に鑑賞してみたのですが、やはり感動はひとしおでした。規則や形式に囚われず、物事を様々な側面から捉え、なにより自分のやりたいことを大切にしながら生きる。そんなメッセージが激動のドラマ的展開によって鮮烈に表現された、まさに「映画」の見本となるような作品です。あらすじ舞台は全寮制の名門進学校ウェルトン・アカデミー。「伝統」「名誉」「規律」「美徳」の四柱をモットーとする厳格なこの学校に、一人の英語教師が赴任してくる。彼の名前はジョン・キーティング。型に嵌った受験勉強対策授業ばかりが行われているウェルトンにおいて、キーティング...
【青春恋愛】漫画 「ママレード・ボーイ」 吉住渉 星1つ
1. ママレード・ボーイ1990年代、毎月250万部近い発行部数を誇っていた全盛期の「りぼん」で看板級の人気を持っていた少女漫画。累計発行部数は1000万部以上、アニメ化及びドラマ化も果たしており、時代を代表した作品の一つだと言えるでしょう。しかしながら、個人的な感想としては凡作を下回って駄作という印象。物語として感動するポイントが全く見当たらず、やっつけ仕事のような展開ばかりが繰り返される光景に辟易としながらなんとか読み切った次第です。2. あらすじ主人公は女子高生の小石川光希(こいしがわ みき)。ある日、両親である小石川仁(じん)と小石川留美(るみ)から、離婚してそれぞれが新しいパートナーと結婚するつもりなのだと告げられる。その新しいパートナーというのも、松浦要士(まつうら ようじ)と松浦千弥子(ちやこ)という夫婦。いわば、小石川夫婦と松浦夫婦でパートナーを取り換えるという話なのである。しかも、新しい家族同士で同居したいとまで言うのだから、光希の頭は大混乱。あまりに無茶苦茶な両親の行動に対して断固反対の立場をとる光希だったが、松浦夫妻の息子である松浦遊(ゆう)はどこ吹く風。なし崩し...
「ジャンヌ・ダルク フランスを救ったオルレアンの乙女」木村尚三郎・高瀬直子 評価:3点|神に愛された最強の英雄物語【学習漫画】
集英社から発売されている「学習漫画・世界の伝記」シリーズ。世界史上で活躍した様々な人物の生涯を漫画で紹介するというシリーズの中から、今回はたまたま興味を持って読んだ「ジャンヌ・ダルク」のレビューをいたします。小学生向けに書かれた学習漫画だけあって非常に読みやすく、(おそらく本作の狙い通りに)ジャンヌ・ダルクの生涯について知見を深めることができました。それにしても、本当に奇跡のような生涯で、時おり起こるまさに漫画のような展開はそれが歴史的事実であるという点において驚愕させられます。あらすじ1412年1月6日、フランス東部ドンレミ村の農家に一人の少女が生まれた。ジャンヌと名付けられたこの赤子こそ、後にフランスの英雄となるジャンヌ・ダルク。このとき、フランスはイギリスとの百年戦争を戦っており、戦況は劣勢。パリを中心とする北部はイギリス側についたブルゴーニュ公の手に落ちており、フランス側を率いるシャルル王太子はシノンという町でひっそりと身を隠している有様だった。そんな戦争の渦中で育っていたジャンヌだったが、13歳のある日、神からのお告げとして「天使の声」を聞く。「王太子シャルルに会い、彼を国王...
【空き家問題を考える】教養書「老いた家、衰えぬ街」野澤千絵 評価:2点【住宅政策】
明治大学政治経済学部の教授で、都市計画やまちづくりを専門とする野澤千絵氏の著作です。近年は報道番組等でも取り上げられることも多い「空き家」の問題について、その現実的な弊害と解決の難しさ、講じられている方策、そして、一人一人が住まいの「終活」をする重要さが説かれています。各論的な項目が多く、包括的な枠組みに欠ける点がやや難だとは思いましたが、空き家が解消されない要因と、関係ないと思っていても思わぬきっかけから当事者になってしまう可能性についての言及、そして、日本や世界で行われている様々な解決策についての紹介など、この分野における多様な知識を得るのにはそれなりに有用な新書でした。目次第1章 国民病としての「問題先送り」症候群第2章 他人事では済まされない相続放棄第3章 世界でも見られる人口減少という病第4章 空き家を救う支援の現場から第5章 さあ「住まいの終活」を始めようはじめに住宅政策は本ブログが継続的に関心を持っている分野であり、これまでも「住宅政策のどこが問題か」や「新築がお好きですか? 日本における住宅と政治」といった著作を取り上げてきました。こうした著作の中でしばしば指摘されてい...
「冬の巨人」古橋秀之 評価:1点|真冬のような虚無が広がる何もない小説【ライトノベル】
「ブラックロッド」で第2回電撃ゲーム小説大賞を受賞してデビューした、古き良きライトノベル作家である古橋秀之さんの作品。本作の人気は非常に根強く、2007年に徳間デュアル文庫から刊行されたのち、2014年には富士見L文庫から新装版が発売されております。フジテレビの「世にも奇妙な物語」で映像化もされた、「ある日、爆弾が落ちてきて」と並ぶ著者の代表作といえるでしょう。そんな「冬の巨人」ですが、全体的な感想としては、あっさりし過ぎ、薄味すぎといったところです。冒険SFファンタジーの定番要素がこれでもかと並べ立てられるのですが、それぞれの掘り下げ方があまりにも浅く、心に引っかかる箇所が何もないからこそすらすらと読めていける作品になってしまっています。あらすじどこまでも極寒の雪原が広がる世界で、黒い塔のような巨人が背を曲げて歩き続けている。そんな異形の巨人"ミール"の背の上に、人間たちは都市を築いて生活していた。主人公であるオーリャも都市の住民であり、神学院でディエーニン教授の助手を務めることで生計を立てている。ある日、野外調査のため気球で上空へと飛び立ったオーリャは、そこで空を舞う謎の少女、レー...
【物語 フランス革命】フランス革命時代の主要な出来事を手軽に概観できる新書 評価:3点【安達正勝】
有名事件のあらましや活躍した著名人のエピソードを中心として、フランス革命の経過を「物語」風に語っていく著作。中公新書から出版されている本ですが、学術的な知識や思考を大衆に伝えるための本というよりは、世界史の教科書やwikipediaを詳しくしたような内容になっております。私もフランス革命の知識は高校の世界史止まりであり、「バスチーユ」や「ジャコバン派」、「ロベスピエール」といった穴埋め問題を解くレベルの断片的な文言だけが頭の中にある状態でしたが、本書を読むことで、フランス革命という出来事全体が「物語」として頭の中で繋がっていく感覚を得ることができました。目次序章 フランス革命とは第1章 「古き良き革命」の時代第2章 革命的動乱の時代へ第3章 国王の死第4章 ジャコバン政府の時代第5章 恐怖政治ー革命政府の暗黒面第6章 ナポレオンの登場感想ルイ16世の治世下で始まった財政改革が民衆の怒りに火をつけ、最後は王政を打倒するにまで至ったフランス革命。バスチーユ牢獄襲撃の成功によって深まる大衆の自信、ヴァレンヌ逃亡事件による国王権威の失墜、激化する議会での主導権争いにジロンド派が敗れ、ジャコバン...
「スペクトラルウィザード 最強の魔法をめぐる冒険」模造クリスタル 評価:3点|他者を支配する魔法の正体【文学的ファンタジー漫画】
「ミッションちゃんの冒険」というweb漫画で有名になり、現在は「金魚王国の崩壊」などのweb漫画を連載する漫画家、模造クリスタル氏の商業出版作品。前作「スペクトラルウィザード」の続編となっております。「スペクトラルウィザード」の感想はこちら。中編×3と掌編×2という構成だった前作とはうって変わって、今回は一本の長編+エピローグ的な掌編という構成。副題の通り「最強の魔法」を巡る騎士団と魔術師たちの争いが描かれます。陰謀渦巻き、敵味方が入り乱れ、裏切りに次ぐ裏切りが起こる展開でハラハラドキドキさせる展開はエンタメ作品として見事。加えて、物語の裏側に流れる他者との関係性についての示唆が作品に深みを与えています。あらすじ危険な魔術書の研究により魔術師ギルドがテロ組織として認定され、騎士団によって多くの魔術師が逮捕・処刑されてから幾年。魔術師ギルドは解散を余儀なくされ、離散した魔術師たちも危険人物として追われている。そんな中、魔術師のスペクトラルウィザードは騎士団とも関係を持ちながら日々を過ごしていた。一時は自暴自棄になって世界を破壊する魔導書のデータを奪おうとしたこともあったが、その後は改心し...
【選挙制度改革を検証する】教養書「現代日本の政党政治」濱本真輔 評価:4点【政治学】
大阪大学准教授の濱本真輔さんによる著作で、専門的な内容がふんだんに盛り込まれたいわゆる学術書にあたる本です。その内容は、小選挙区比例代表制への移行を中心とした、1990年代の政治改革の効果を検証するというもの。二大政党制を志向し、派閥を中心とした分権的党内調整によってではなく、首相や党執行部による政策決定を目指した政治改革の現時点までの経過と結果が様々な観点から論じられております。全体的にやや散漫で決定的なことが書いていない(導出できていない)なと思う部分もありましたが、政党を取り巻く制度が各アクター(特に政治家)をどう動かすのかという視点に興味のある方で、ある程度、政治学について下積み的知識がある方にとっては面白く読める本だと感じました。目次序章 本書の目的第1章 選挙制度改革と現代日本の政党政治第2章 議員、政党組織、政党政治第3章 小選挙区比例代表並立制の定着第4章 政党中心の選挙環境への変容第5章 個人中心の選挙区活動、選挙運動の持続第6章 族議員の変容第7章 分権的政党内制度の変容と持続第8章 事後調整型政党政治の持続第9章 執行部主導型党内統治への変容終章 選挙制度改革は何...