作品の感想

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スラムダンク

「THE FIRST SLAM DUNK」井上雄彦 評価:4点|令和に舞い降りたスポーツアニメーションの傑作、最新の3DCGで蘇った伝説的バスケットボール漫画【アニメ映画】

1990年代に「週刊少年ジャンプ」にて連載され、空前のバスケットボールブームを引き起こした大人気漫画「SLAM DUNK」。 連載終了(1996年)から26年の時を経て映画化されることとなり、2022年の12月から上映されております。 現在のところ商業的には非常に成功しておりまして、観客動員数も興行収入も大ヒットレベルに到達。 公開されている映画の観客動員数ランキングでは毎週のように首位を獲得するなど、まさに破竹の勢いで観客を増やしている作品となっております。 私もミーハー的な動機から映画館に足を運んでみたのですが、実際のところ、予想を遥かに上回る感動があり、名作だったな、というのが正直な評価です。 「血と汗と涙のスポ根」物語を背景に、原作でも最も人気の高い湘南高校V.S.山王工業高校戦が描かれるという構成は長期連載作品である「SLAM DUNK」を一本の映画として纏めるのに相応しいばかりではなく、近年のフィクション作品に欠ける「情熱と友情」の大切さを赤裸々に押し出しながらも古臭さを感じさせません。 むしろ、「SLAM DUNK」を未読の世代にとっ...
風子のいる店

「風子のいる店」岩明均 評価:2点|吃音の少女が働く喫茶店には珍客が多く訪れる【青春漫画】

「寄生獣」や「ヒストリエ」で有名な漫画家、岩明均さんが著した青春漫画です。 岩明均さんの作品としては歴史漫画だった「雪の峠・剣の舞」に続いてのレビューとなりますが、やはり歴史漫画に比べると青春漫画はやや苦手としているのかなという印象を受けました。 全4巻の中でこれといったエピソードやキャラクターを排出できず、小粒な作品として纏まってしまっております。 吃音で悩む内気な女子高生が喫茶店でアルバイトを始める、という掴みそのものは悪くないのですが、吃音設定も喫茶店設定も活かしきれておらず、学校での事件に焦点を当てたエピソードもありきたりな話ばかりで、もっと構成や登場人物を練ってから連載を初めてもよかったのでは、と感じてしまう作品でした。 あらすじ 有沢ありさわ風子ふうこは吃音に悩んでいる女子高生。 学校でも吃音を馬鹿にされ、逃げ込むようにして選んだアルバイト先は「ロドス」という喫茶店。 しかし、アルバイトを始めたからといって吃音がすぐに治るわけもなく、鈍くさい性格と相まって「ロドス」でも失敗ばかり。 そんな風子も、「ロドス」を訪れる奇妙な客た...
ショーシャンクの空に

「ショーシャンクの空に」フランク・ダラボン 評価:4点|無実の罪で投獄された銀行員が刑務所で起こす奇跡の軌跡、王道ハリウッド映画の名作【アメリカ映画】

1994年公開ながら今日においても非常に高い評価を受けている、ハリウッド映画を代表する作品の一つです。 刑務所を舞台としている映画ということで、公開当初はそれほどヒットしなかったとのことですが、批評家による評価は公開当初から高く、アカデミー賞へのノミネートなどを通じて人口に膾炙。 現在ではアメリカ映画のベストXX等の企画が持ち上がる際には必ずランキング入りする古典的名作の地位を得ております。 そんな映画をこのたび初視聴してみたのですが、評価に違わず非常に良い作品だった、というのが率直な感想です。 刑務所という特殊な陰惨な環境の中に、不屈な前向きさを備えた主人公が数々の「希望」を持ち込んでいくなかで生まれるドラマの数々。 しかし、それでも社会にはのっぴきならないことがあって、そんな事象に直面した主人公が最後に行う決断とは.....。 名作という看板に相応しい、ヒューマンドラマの王道的作品です。 あらすじ 主人公のアンドリュー・デュフレーン(以下、アンディー)は若年ながら銀行で課長を務めており、極めて優秀な銀行員として勝ち組の生活を送ってい...
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雪の峠・剣の舞

「雪の峠・剣の舞」岩明均 評価:3点|儚く厳しい戦国時代を生きる人間たちのドラマを描いた佳作中編集【歴史漫画】

「寄生獣」や「ヒストリエ」で有名な漫画家、岩明均さんが著した歴史漫画です。 単行本には表題の中編二編が収録されており、前者は戦国末期に有力大名だった佐竹家で起こった「川井事件」というお家騒動、後者は疋田陰流という剣術流派の祖となった疋田文五郎がまだ戦国大名である長野家に仕えていたときに起こった架空の少女ハルナとの交流を描いた作品となっております。 のちに「ヘウレーカ」や「ヒストリエ」といった漫画によって歴史漫画家としての地位を盤石にする岩明均さんというだけあって、史実をもとにしながらも起伏に富んだエンタメを提供する漫画となっており、安心感のある面白さだったという印象。 強烈に刺激的な感動、というわけにはいきませんが、演出や構成力の巧みさと読み易さを両立した佳作に仕上がっております。 あらすじ ・雪の峠 関ヶ原の戦いで西軍についたため、常陸国(概ね現在の茨城県に相当)を長らく統治していた名門大名佐竹家は出羽国(現在の山形県と秋田県に相当)へ転封となってしまう。 新領地にて新たな居城を建築することになった佐竹家だが、当主である佐竹義宣は家老たちの...
ポケットモンスター

「ポケットモンスター ヴァイオレット」評価:2点|オープンワールドを採用した世界的大人気シリーズの最新作【テレビゲーム】

1996年に「ポケットモンスター 赤・緑」が発売されて以来、世界的な人気を拡大し続けているゲームシリーズの2022年最新作です。 派生作品が大量に発売されているシリーズではありますが、完全新作としては第9作となっており、シリーズで初めてオープンワールドを取り入れていることが宣伝文句となっております。 私がプレイしたことがあるのは「赤・緑」「金・銀」「サン・ムーン」の三つですが、確かに、オープンワールドゲームになることによるヴィジュアル的な一新はかなり新鮮でした。 しかし、見た目のリッチさに対して内容はやや退化しいるように感じられ、特に、ポケモンというゲームが持っていた世界観、少年・少女が未知の世界に飛び込んでいくという冒険物語としての魅力が相当に薄れていたように思われます。 もはや別のゲームに変貌しており、それこそが現代のポケモンなのだ、と言われてしまえばそれまでですが、それでも文句を垂れ流したくなるのが老害というもの。 完全なる懐古厨の感想となりますが、興味のある方はお付き合いください。 目次 ①オープンワールドゲームとしての評価 ②...
海がきこえる

「海がきこえる」望月智充 評価:2点|スタジオジブリの若手スタッフたちによって製作された爽やかな青春映画【アニメ映画】

1993年に公開されたスタジオジブリのアニメ映画。 監督が宮崎父子でもなければ高畑功でもないというジブリ映画の例外的な作品となっております。 というのも、本作が若手スタッフに全てを任せて製作させてみるというジブリ内での企画により出来上がったという背景があります。 原作は当時全盛を誇っていた集英社コバルト文庫のスター作家、氷室冴子さんの同名小説であり、確かに、男性作家が青春恋愛物語を描く際に生じがちな少女に対するギトギトした視点がなく、それでいて(友情と恋愛以外では)家族の問題に焦点を当てているという、典型的な女性作家らしい作品だったなと感じました。 とはいえ、全体的な評価としては凡作という判断であります。 確かにこれといった欠点は見当たらないのですが、かといって推せるポイントもなく、なんとも薄味な作品だったというのが率直な感想です。 あらすじ 舞台は高知県に存在する中高一貫の私立高校。 高校二年生の二学期、主人公である杜崎もりさき拓たくが在籍するクラスに一人の少女が転校してくる。 彼女の名前は武藤むとう里伽子りかこといい、田舎街に...
☆☆☆☆(教養書)

「昭和史 1926-1945」半藤一利 評価:4点|バランスの取れた筆致で激動の時代を描いた読みやすい通史の前編【日本史】

文藝春秋社でジャーナリストとして長く勤めた半藤一利さんによる、名前もそのまま、昭和時代の歴史について通史的に著した書籍です。 半藤さんは1930年の生まれで、2021年に亡くなられています。 本作は2004年に出版されており、太平洋戦争を中心に昭和史を研究し続けた半藤さんの集大成的な作品だと言えるでしょう。 ずいぶん大きく出たタイトルであり、わたしも手に取る前は極論や決めつけだらけの俗物本であることを危惧していたのですが、実際に読んでみると、講義形式で語りかけてくるような文体でありながら内容は網羅的で深みもあり、主に政治と戦争の面から昭和という時代に何があったのかを学びたい際には最初の一冊として断然お薦めできる書籍でした。 目次 はじめの章 昭和史の根底には“赤い夕陽の満州”があった―日露戦争に勝った意味第一章 昭和は“陰謀”と“魔法の杖”で開幕した―張作霖爆殺と統帥権干犯第二章 昭和がダメになったスタートの満州事変―関東軍の野望、満州国の建国第三章 満州国は日本を“栄光ある孤立”に導いた―五・一五事件から国際連盟脱退まで第四章 軍国主義への道はかく整備...
H2(エイチツー)

「H2(エイチツー)」あだち充 評価:4点|2人ずつのヒーローとヒロインが織り成す野球と恋愛の青春物語【野球漫画】

1990年代に「週刊少年サンデー」で連載されていた野球漫画です。 あだち充さんの作品であればアニメが人気を博した「タッチ」が有名ですが、ファンの間では本作の方が評価が高いのではないでしょうか。あだち充さんの最高傑作として挙げられることも少なくない作品かと思います。 とある偶然から強力なバッテリーを擁することになった弱小公立校が夏の甲子園決勝にまで駒を進めるまでの軌跡を描くという野球漫画としての側面と、主人公とライバルという二人のヒーロー及びその二人に想いを寄せたり寄せなかったりする二人のヒロインとの恋物語という側面があり、いずれも魅力的に描かれております。 (タイトルである「H2」は二人のヒーローと二人のヒロインという意味から取っているそうです) 敢えて多くを語らず「間」で表現するあだち充さん独特の手法が輝いている作品であり、ヒューマンドラマとして感動できる名作です。 あらすじ 舞台となるのは東京の下町にある千川高校。 野球部すら存在しないこの高校に、中学野球で地区大会二連覇を果たしたバッテリーが入学することになった。 投手の名前は国見...
桐島、部活やめるってよ

「桐島、部活やめるってよ」吉田大八 評価:3点|スクールカーストという虚像、努力と情熱という実像【青春映画】

2012年8月に公開された映画で、朝井リョウさんのデビュー作となった同名小説が原作です。 学園ものだけあって生徒役に若手俳優が起用されているのですが、主演の神木隆之介はもちろん、橋本愛や東出昌大、山本美月、松岡茉優といった後の大物俳優たちが共演している点もいまとなっては本作の魅力を構成しているといえるでしょう。 公開当初の注目度が高かった作品ではなかったのですが、好評を得てロングランヒット作となり、第36回日本アカデミー賞の最優秀作品賞をはじめ数々の賞を獲得する結果となりました。 現在でも人気は根強く、2022年においても10周年記念上映が行われるほどです。 私も本年になってようやく鑑賞したのですが、評判に違わず面白い作品であり、穿ったような邪道作品にみせかけておいて、最終的には王道作品として締める技法には感動いたしました。 スクールカーストに囚われた日本の典型的な教室風景を描きつつ、スクールカーストという眼鏡をかけたまでは見ることができない、学校生活において特別な輝きを放つ本物の英雄を劇的な演出で見出すことに成功している、そんな佳作です。 ...
岡崎京子

「リバーズ・エッジ」岡崎京子 評価:3点|独特の退廃的な世界観が魅力的な90年代高校生群像劇【青春漫画】

1980年代から90年代にかけて活躍した岡崎京子さんの作品。 漫画雑誌での連載期間は1993年から1994年までとなっており、連載終了後に単巻で単行本が発売されております。 1990年代という時代を背景として、ややダウナーでオフビートな高校生たちの生活を描いており、いじめや同性愛、摂食障害や援助交際といった岡崎さんらしい要素が散りばめられています。 作中では衝撃的な事件が起こりますが、あくまでメインテーマは高校生間で結ばれる恋愛と友情の機微となっており、掴みどころがないのにぐんぐんと読み進めてしまうような、そんな作品でした。 あらすじ 大きな河の河口付近に位置する街が舞台。 主人公の若草わかくさハルナは女子高生で、素行不良の同級生である観音崎かんおんざき峠とうげと付き合っている。 といっても、もはや観音崎への愛情は存在せず、惰性で付き合っているばかり。 そんなハルナが通う高校の教室では、同級生の山田やまだ一郎いちろうが激しいいじめに遭っていた。 執拗ないじめを見るに見かねたハルナは山田を助けるのだが、そのことがきっかけとなり、ハル...
流浪の月

「流浪の月」李相日 評価:1点|誘拐犯と少女が育んだ不思議な愛のかたち。十五年後の再会は二人を不思議な運命へと導いていく【恋愛映画】

2022年5月13日に公開された邦画で、主演は広瀬すずと松坂桃李。 脇役も横浜流星や多部未華子といった著名な俳優で固められており、力の入っている作品だといえるでしょう。 原作は凪良ゆうさんの同名小説であり、第17回本屋大賞受賞作にして累計発行部数80万部突破の人気作。 かつて誘拐犯と誘拐された少女という立場だった二人が十五年後に再開を果たし、友情とも恋情とも違った関係をあの頃と同じように取り結んでいくという不思議な物語の大枠自体は原作準拠のようです。 そんな本作ですが、少なくとも映画の方はイマイチな出来だったと言わざるを得ないのではないでしょうか。 いわゆる「盛り上がる」ような題材の作品ではなく、たおやかな雰囲気にならざるを得ない作風とはいえ、さすがに映画鑑賞体験として「盛り上がり」を感じられる場面が皆無に近く、だからといって「ぐっとくる」ような場面もなかったというのが正直なところです。 一般的には理解を得づらいはずの二人の関係を、いかに「あり得る」魅力的な関係として描き出すかというのが本作の肝となり得るはずですが、そこの説得力には欠けるばかりで、...
すずめの戸締り

「すずめの戸締り」新海誠 評価:2点|冒険・社会性・家族愛。全要素が中途半端になってしまった新海監督の最新作【アニメ映画】

「君の名は。」の衝撃的な大ヒットで邦画界にセンセーションを起こすと、続く「天気の子」も成功させて国民的アニメ映画監督の地位を固めつつある新海誠さん。 そんな新海監督の最新作であり、2022年11月11日から公開されているのが本作となります。 本記事執筆時点で興行収入は既に90億円近くに達しているようで、2022年における日本での興行収入ベスト5に入ることを確実にしています。 そのうえ、三作連続での100億円超えも視野に入るという人気ぶりなのですから、単なる話題作という以上に多くの人が楽しんで鑑賞しているのでしょう。 そんな本作ですが、個人的にはやや凡庸というか、面白い作品になりきれていないように思われました。 少女と青年の出会いから始まる日本縦断のロードムービー、自然災害や過疎を題材にしているという現代性、日本的な神事から着想を得た物語展開、そしてもちろん、美麗な映像と音楽の組み合わせ。 「面白そう」な要素が揃い踏みしていることは確かなのですが、その全ての要素について掘り下げが中途半端に終わってしまった結果、何とも長所を見出しづらい映画となっており...
紅玉いづき

「ミミズクと夜の王」紅玉いづき 評価:2点|彗星のごとく現れた童話風物語、電撃小説大賞受賞の異色作【ライトノベル】

2006年に第13回電撃小説大賞を受賞し、2007年に発売されたライトノベルです。 今日でも人気は非常に根強く、2020年から2022年にかけて漫画版が白泉社の漫画雑誌「LaLa」で連載されたほか、2022年3月には完全版が発売されるなど、ライトノベルの古典として定着している感もあります。 特徴的なのはなんといってもその作風でしょう。 バトル中心の異世界ファンタジーか学園モノが主流だった時期にあって、童話風の優しい作風で電撃小説大賞を受賞したことそのものが話題となった作品でした。 出版された際にも、挿絵が用いられず、表紙には美少女や武器が描かれないどころか、抽象的な画風で夜の森と人影だけが描かれているというライトノベルとしては非常に攻めた形でプロモーションがかけられたことも、さすが電撃文庫だと思わせるような斬新さがありました。 私も発売当初に一度読んだことがあり、それ以来の再読となりましたが、その作風の独自性はいまなお存在感を放っていると言えるでしょう。 ただ、一つの物語としては、露骨に「優しい」物語過ぎる側面が鼻につきます。 発想としては悪...
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