1. 響け!ユーフォニアム2 後編(第6話~最終話)
近年のアニメの中では稀に見る傑物だった「響け!ユーフォニアム」シリーズ。第2期にあたる「響け!ユーフォニアム2」の感想、前編、中編に続く後編です。
前半部分とは対照的に、第2期はこの第6話以降の後半部分が非常に(粗末とまでは言わないが)凡庸な内容で、総評としてはイマイチというのが率直な感想です。
2. あらすじ
見事、関西大会で金賞を獲得し、全国大会出場を決めた北宇治高校吹奏楽部。このまま全国大会に向け一致団結で前進かと思いきや、またも危機が訪れる。副部長であり、部長以上に部員の精神的支柱である田中あすかが突然、部活に来なくなってしまったのだ。
「あすか先輩が辞めてしまうのでは」
そんな噂が飛び交う吹奏楽部。主人公、黄前久美子(おうまえ くみこ)は偶然に職員室であすかの母親があすかに部活を辞めさせるよう顧問である滝昇(たき のぼる)先生に詰め寄っていたことを目撃していたため、あすかの家庭に何らかの問題があることを察していた。
そして同時並行的に黄前家でも事件が起こる。久美子がユーフォニアムを始めるきっかけにもなった久美子の姉が、大学を中退して美容師になりたいと言いだしたのだ。親との諍いに発展し、気まずい雰囲気の黄前家。
「いま」と「将来」に揺れる子供たち。姉が久美子に言い残す言葉、そして、久美子があすか先輩に語る言葉。3年生にとって最後のコンクールが刻一刻と迫る......。
3. 感想
この後半では主に2つの話、田中あすかの退部問題と久美子の姉である黄前麻美子の退学問題が同時並行に進みます。あすかは勉学を重視する親から退部を強要されかけており、麻美子はこれまで勉強ばかりさせられてきたのは親のせいだとして大学を退学して美容師の専門学校に入りたいと申し出て親と対立するわけです。あすかの場合、実は父親が名のあるユーフォニアム奏者で全国大会の審査員も務めるほどなのですが、妻とは離婚してあすかが引き取られているという設定がここで明かされます。
結果的に麻美子は美容師の道に進むことになり、「後悔しないようにね」と久美子に語りかけます。これが間接的なきっかけとなって久美子のあすか先輩に対する青春の大演説が行われ、結果としてあすか先輩が復帰、全国大会へというのが大まかな流れ。
まずこれまでの「響け!ユーフォニアム」の展開と違い、題材があまりにもベタで捻りがないことに失望してしまいました。親が勉強を強制させたいから部活を辞めるであるとか、実はあの先輩は両親が離婚してて...のような設定が展開をうねらせるために後から出てきたりであるとか、勉強より夢の道へという論理で両親と対立したりであるとか。とりあえずネタに詰まったときのありきたりな方法で、その細部に惹きつけられるような独自の工夫もなく、面白みに欠けます。
その他にも滝先生の過去が明らかになる回もあるのですが、ここでもよく使われる配偶者と死別パターンが出てきます。現実ならばこれほど悲しいことはありませんが、フィクションでは「設定」としていくらでも使えるのですから、ただ単発でなんの仕掛けや伏線でもなく「死別したあの人の想いを叶えるために......」のようなことを滝先生に言わせるだけではなんの感動も生み出しません。加えて、麗奈が瀧先生の元配偶者の墓参りをするシーンなど明らかにやりすぎでフィクション性が強く出過ぎています。
加えて、久美子への周囲の評価として挙がる声が「久美子ならやってくれる」「久美子はなんか引っかかる」「ユーフォっぽい」とまさに空虚な台詞であることも問題で、主人公補正を持たせて様々なイベントに関わったり、様々な人々に話しかけられたりする展開に無理やり持っていくための台詞に過ぎないものが多すぎます。部内で普通に過ごしていてこのように評されることはまずありません。主体的な動きが一切見られなかった久美子がこのように評されることがご都合主義すぎるのです。
もちろん、久美子があすか先輩説得の大演説をした後にあすか先輩が親からの条件である「全国30位以内」を満たしていたことが分かり、久美子の言葉があすか先輩に復帰を促したのか、それとも、あすか先輩は普段の言動とは裏腹に最初から部活復帰を狙っていたのかがわからないようになっているなど、構成的な工夫もまま見られます。普通の物語では「主人公の説得で重要キャラクターの気持ちが翻る」を演出するところ、「その重要キャラクターも実は説得されるまでもなく気持ちは固まっており、その気持ちを実現するための努力を進めていた」ということを示唆したうえで、それでも主人公が誰かのために行動し、熱く演説したことを肯定的に捉える描き方などは味があります。成功するとか失敗するとかではなく、熱い気持ちをぶつけることそのものが大事なのだということを上手く表現しています。全国大会後の先生へのお礼の様子や卒部会なども等身大でユーフォらしさが出ていて好きでした。「劇的」であることばかりに囚われた過剰演出をしないのは良いことです。
ただ、やはり2期の総評としては以下の通り。2期では結局、秀一との関係に焦点を当てたわけでもなく、姉の問題は久美子がいてもいなくても同じ結果。あすか先輩との関係もいわばあすか先輩の家庭という外的要因によって作られたもので、二人の間に本質的なぶつかり合いがあったわけではありません。傘木希美の件に至っては、完全に蚊帳の外だったと言えるでしょう。「希美とみぞれ」編はそれ単体としては良いのですが、「久美子の物語」に最後まで組み込まれることはありませんでした。最後まで久美子が強く主体的な役割を演じる「主人公の物語」にもならず、かといって、一期のように「吹奏楽部」が全体として強くなる中でのドラマ(選抜オーディションが生む軋轢)という側面もありませんでした。全てをぼかしたような、抽象的な示唆ばかりに終わった最終回は必然だと言えるでしょう。何かがぶわっと噴き出してくるような、胸に迫る最終回にはなりえません。同じような内容だったとしても、もっと「久美子」「吹奏楽」「人間関係」の三つが分かちがたく連動するような構成にできていたら、視聴者にもドキドキが与えられていたのではないかと思います。
そして、もし、もっと内容や視点の当て方を変えても良いならば、「将来、音楽の道に進まない生徒たちの吹奏楽部」という側面をもっと強調しても良かったのではないかと思います。前編でも述べましたが、「全国大会をメジャー競技で本気で目指す公立高校の日常」という題材を上手いバランスで描いている作品です。登場人物のほとんどは音楽の道には進みません。だからこそ、勉強との兼ね合いや部活への熱意の差という問題が生じるわけです。スポーツ選手は強豪私立や専門アカデミー、ユース機関で養成されるものになり、一般高校生にも「文武両道」というよりは専門性を身に着けさせる要請がある現代。娯楽も多様化しインターネットもある時代ですので、学生生活を「遊び」に費やすとしても同じ学校の友人と云々というのは段々となくなってきているのではないでしょうか。そんな中で、「将来その道に進まない競技の部活になりふり構わず全力を傾ける青春」をどう描くか、久美子の最後の演説には垣間見えていましたが、「自覚的に人生を充実して過ごす」という視点から普通の高校における「部活物語」の再構築ができる潜在能力がこの作品にはあると思っています。
2019年にはTV版の続編となる映画公開も決定しているとのことなので、2期で完全に失望してしまわず、見続けていきたい作品です。
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