漫画 「1518! イチゴーイチハチ!」 第2巻 相田裕 星4つ

1518! イチゴーイチハチ!
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1. 1518! イチゴーイチハチ! 第2巻

高校生たちのささやかな青春をきめ細かいタッチで描く名作(予定)漫画、「1518!」の第2巻です。第1巻の感想はこちら。

漫画 「1518! イチゴーイチハチ!」 第1巻 相田裕 星4つ | 明日も物語に魅せられて
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登場人物紹介兼プロローグだった第1巻に対し、第2巻では怪我により野球を諦めた少年、烏谷公志郎の心の再生にスポットが当たっています。折り合いをつけるということ、目の前のことを楽しむということ、自分との戦いを意識すること。決して説教臭くなく、むしろ一貫したエンターテイメント性に支えられた作品ながら、通底するメッセージが深く切なく染みわたります。

2. あらすじ

正式に生徒会に入ったものの、それは「会長に強制させられたから」であり、野球を諦めたことからの脱却ができていないように見える烏谷。

そんな烏谷を、会長は「新歓マラソン」の旗手に推薦する。

入学・進級早々の5月、男子は20km、女子は10kmを走るのがこの「新歓マラソン」。新入生は強制参加で上級生は任意参加であるものの、松武(※)の生徒であるからにはと仮装までして参加する上級生は少なくない。

その中でも、旗手は新入生代表として旗を持って20kmを走らなければならないという責務を負っている。元野球部で生徒会役員の烏谷は客観的に見ても適任だが、会長が烏谷を推した理由はそれだけではない。

かつての自分と同じく、大好きな野球を泣く泣く諦めざるをえない状況にある烏谷。胸の内のやりきれない思い、人生を投げやりに生きてしまいそうなくらいの気持ち。それを、女子であるからという理由で野球を諦めた会長は慮ってやりたいのだ。

本番に向け、生徒会役員として準備を進めるかたわら、同じく生徒会に所属する丸山幸と交流を深め、家族との会話も少しずつ取り戻していく烏谷。20kmの、決して孤独でないレースは烏谷になにをもたらすのか......。

※物語の舞台となる「私立松栢学院大付属武蔵第一高校」の略。「文・武・楽」がモットーで、行事が盛ん。

〇感想

じんわりと来ますね。第1巻の感想でも述べたのですが構成が上手く、どんな話でも上手い引きか感動を伴う盛り上げで終わらせてきます。第2巻は真ん中に1つ、最後に1つ盛り上がりどころがあり、物語の重要なテーマが語られます。

1つ目は、幸から見て生徒会の先輩女子である三春が幸を外に連れ出し、烏谷のことをどう思っているのか問いただすシーン。マウンド上の烏谷のキラキラさを見て以来、それ以上にキラキラしていないという理由で何回かの告白を断ってきたという幸。では、いまの烏谷はどうかと問われると、「前とは別人で、ちょっとがっかりしました」。しかし、幸は烏谷によく話しかけ、帰りも一緒です。その理由を問われれば、「別人になっても、がんばってるからです」。

幸の他者に対する態度が高校一年生にしてはあまりにも大人びていて、ややリアリティが、という場面でもあります。ただ、現実に「一生懸命頑張っている人」を目の前にすれば、直感的にこう思うはずという点も考慮すればこんなものなのではないでしょうか。「強い」ことではなく「頑張っていること」がその人の魅力。よく言われる、「努力が無駄にならない」というのはそういう意味でもあると思います。「頑張っている人」はなによりも魅力的に映りますし、自分は「頑張れているぞ」と思えることは生きる自信にもなります。「頑張って」いて、なおかつ「自信を持って」いれば、より魅力的な存在になります。たとえ、順位や物品、金銭の形で結果にならなくとも、努力の過程で得た能力や、そういった生き方に惹きつけられた仲間は財産になるはずで、そういった財産のおかげで、次にまた別の一歩を踏み出す時には、より優遇されたスタートラインから踏み出せるようになっています。幸は高校生ながらにしてそれを分かっている人物で、それが幸の最大の魅力です。相手の「過程」をしっかり認められるなんて、性別や年齢関係なくなかなかいませんよね。

もちろん、彼女自身が「一生懸命頑張れる対象」についてふらつきながら生きているということも影響しているかもしれません。バスケを続けずに生徒会に入ったこともそうですし、生徒会に入ったことが大学への推薦入学のための打算ではないかと父親に言われたときの反発からもそれが読み取れます。純粋な気持ちで頑張っているんだと認められたい気持ちが強く、だからこそ、純粋な気持ちで頑張っているように見える人物に憧れる気持ちが一層強いのかもしれません。

2つ目の盛り上がりは、烏谷がマラソンを完走した後のシーン。「やらされた役だったけれど、あんがい楽しかったな」。そうモノローグで語る烏谷は、15歳にして、みんなの「気持ち」のためになにかを行うという楽しさを知ります。陸上選手だった父を持ち、兄よりも走るのが遅いことがコンプレックスだった烏谷。父や兄を見返したい、そして、構って欲しい。そんな理由で野球を始めた烏谷にとって、トレーニングも試合も、勝利と注目のためにありました。しかしながら、マラソンの旗手はそうではありません。推薦してくれた会長のため、生徒会役員・一年生・松武の代表として、みんなのために走ります。他者のためになにかをすることは、見返りがなくとも、自分自身にとって楽しいことになる。烏谷がこのことに気づき始めるのには胸が締めつけられます。なにせ、野球を諦めて生徒会に入らなければ、このことにはずっと気づかなかったのかもしれないのですから。大切な野球と、大切な人生の観念が潜在的にトレードオフになっていた。見事な構成であり、そして、烏谷が歩いていたかもしれない人生と、これから歩き出す新しい人生のコントラストが、「挫折と再生」の物語としてこの「1518!」の中心にすとんと置かれたような、そんな感慨を抱かずにはいられません。

丁寧とは、ただゆっくりなだけではなく、技巧とは、ただ書き込みが細かいだけではなく、感動とは、ただ大げさなだけではない。良い「物語」を見せてくれる作品です。

第3巻に続く

漫画 「1518! イチゴーイチハチ!」 第3巻 相田裕 星5つ
1. 1518! イチゴーイチハチ! 第3巻挫折を経験した生徒たちが生徒会活動を一生懸命に楽しむ学園青春物語、「1518!(イチゴーイチハチ)」。私がいま最も注目している作品の一つであり、特にこの3巻は珠玉の出来栄えです。第1巻、第2巻の感想はこちら。生徒会の2年生役員であり、難関国公立を目指す「選抜」コースに所属する三春英子(みはる えいこ)と東慧汰(あずま けいた)にもスポットが当たるほか、烏谷の野球との訣別にも一区切りがつき、ミニクライマックスといった様相。正直、「ミニクライマックス」でこれほどまでに感動できる漫画はなかなか目にできないでしょう。1518! イチゴーイチハチ! 3 (ビッグコミックス)posted with ヨメレバ相田 裕 小学館 2016-11-30AmazonKindle楽天ブックス楽天kobo

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