「ミッションちゃんの冒険」というweb漫画で有名になり、現在は「金魚王国の崩壊」などのweb漫画を連載する漫画家、模造クリスタル氏の商業出版作品。
前作「スペクトラルウィザード」の続編となっております。
「スペクトラルウィザード」の感想はこちら。
中編×3と掌編×2という構成だった前作とはうって変わって、今回は一本の長編+エピローグ的な掌編という構成。
副題の通り「最強の魔法」を巡る騎士団と魔術師たちの争いが描かれます。
陰謀渦巻き、敵味方が入り乱れ、裏切りに次ぐ裏切りが起こる展開でハラハラドキドキさせる展開はエンタメ作品として見事。
加えて、物語の裏側に流れる他者との関係性についての示唆が作品に深みを与えています。
あらすじ
危険な魔術書の研究により魔術師ギルドがテロ組織として認定され、騎士団によって多くの魔術師が逮捕・処刑されてから幾年。
魔術師ギルドは解散を余儀なくされ、離散した魔術師たちも危険人物として追われている。
そんな中、魔術師のスペクトラルウィザードは騎士団とも関係を持ちながら日々を過ごしていた。
一時は自暴自棄になって世界を破壊する魔導書のデータを奪おうとしたこともあったが、その後は改心し、逆に魔導書のデータを守ったり、世界を破壊する魔法を食い止めるなどの活躍を果たした。
そうして世界滅亡の危機が過ぎ去り、再び平穏な生活へと戻ったスペクトラルウィザードだったが、またも事件に巻き込まれてしまう。
魔術師でありながら騎士団の魔法顧問を務めていたクリスタルウィザードが反乱を起こしたので、助けて欲しいと騎士団から頼まれたのである。
クリスタルウィザードが拠点とする南極に向かう船の中で、スペクトラルウィザードは「ぶどう畑」での敗戦を思い出す。
かつて、スペクトラルウィザードはクリスタルウィザードと戦い、敗れていたのだ。
騎士団側の魔術師として南極を訪れたスペクトラルウィザード。
騎士団を裏切ったクリスタルウィザードはしかし、彼女を暖かく拠点へと迎え入れる。
反乱を起こした事情を問いただすスペクトラルウィザードに対して、クリスタルウィザードは答えをはぐらかすばかり。
そんな中、クリスタルウィザードの協力者であるカオスウィザードが、スペクトラルウィザードに衝撃の事実を告げるのだった......。
感想
副題となっている「最強の魔法」が本作の鍵となっています。
物語のプロローグ的な場面で、スペクトラルウィザードは騎士団の友人であるミサキちゃんと食事をするのですが、そこで「最強の魔法」にまつわる話がスペクトラルウィザードの口から語られます。
魔術師ギルドが存在していた時代、魔術師たちは競い合って「最強の魔法」の研究をしていました。
「最強の魔法」になりうる魔法として、クリスタルウィザードが研究していたのは他者を支配する魔法。
結局、他者を支配する魔法は完成しないのですが、それでもクリスタルウィザードの使う魔法はそれに近い効果を持ったものになっていきます。
その魔法とは、触れた獲物に呪いをかけ、クリスタルウィザードの一存でいつでも氷漬けにしてしまえるという魔法。
呪いをかけた相手をいつでも氷漬けにできるという状況を作り出すことで、クリスタルウィザードは獲物を脅迫し、意のままに動かします。
当たればその場で殺せる魔法と、当たれば「いつでも」殺せる魔法の違い。
この違いがクリスタルウィザードを強力な魔術師にしているとスペクトラルウィザードは語ります。
この流れからすれば、当然、本作でスポットライトが当たる「最強の魔法」は他者の心を支配する魔法なのですが、クリスタルウィザードはこの魔法をたった一度しか使いませんし、しかも、それは序盤に使用されて終盤までどんな決定的な場面でも使用されることはありません。
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