メフィスト賞からデビューし、吉川英治文学新人賞、直木賞と、エンタメ作家成功の王道を驀進する辻村深月さんの作品。
集英社のナツイチ(夏の百冊)にも選ばれている、定評のある小説です。
ただ、タイトルのインパクトから想像していたよりも地味な話でありまして、中学生のありがちな葛藤や悩みの話に過ぎなかったのではないか、というのが正直な感想です。
あらすじ
主人公、小林アンは中学二年生。
母親譲りの恵まれた容貌の助けもありクラスの中心的グループに所属しているが、実は猟奇的な事柄に興味があり、町の本屋にある怪我をした人形の写真集「臨床少女」が彼女の愛読書。
恋愛がらみの人間関係で急に態度が変わる友人たちや、甘ったるくて何も考えていない母親との生活にうんざりしていたアン。
ある日、河原で地味なクラスメイトの徳川勝利がビニール袋を蹴っている姿を目撃する。
彼が去ったことを見届けた後、ビニール袋を掴むアン。
その中身は「肉」のようなものだった。
自分と同じ嗜好を持つ徳川に惹かれ、アンは彼に接近する。
そして、アンは徳川にアン自身の殺害を依頼するのだった......。
感想
物語の筋は大きく二つあり、アンが友人である芹香や倖との関係に振り回されるパートと、徳川とともに自分が殺害される殺人事件をプロデュースするパートです。
この小説の独自性は主に後者のパートなのですが、前者にかなりの紙面を割いており、思春期の少女が置かれている悩ましい状況の描写が非常に多いです。
しかし、そのパートの内容はいかにもありがちな女子同士のいざこざで、凡庸。
そして、後者のパートは常に、あまりにもあっさりしています。
確かに、コスプレ撮影のための東京に行ったりすることは、中学生の日常としては重大なのでしょうが、そこで大きな事件も起こるわけでもありませんし、小林アンという人物が結局なにをやりたいのか、いまいち伝わってきません。
非常にゆっくり、かつ淡々と、無為に文章が過ぎていくように感じてしまいました。
「自分が殺される事件を演出する」ことの過程を描く、という斬新な独自性がありながら、その良さをいまいち活かしきれていない小説だと思います。
クライマックスの爽快感、多幸感にはなかなかのものがありますが、これもいきなり「3年後」で話を飛ばしてしまっているところに無理やり感を覚えます。
結局、物語を上手く繋いで良いエンディングに結びつけることができなかっただけなのかもしれません。
エンタメ小説家として評判の良い辻村さんですが、この作品はやや面白味に欠けました。
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