1. 孤独なボウリング
「社会関係資本」という概念に光をあて、様々な分野に影響を与えた本です。
著者のパットナム教授はこの本で一躍スター研究者となりました。
ご近所づきあいや会合などの社会的紐帯の減少という、誰もが個人としては感じていることを米国全体というスケールで分析し、その原因、そして影響を社会的・政治的なものに結びつけた大著。
もはやどの分野でも無視できなくなった「社会関係資本」をアカデミック界に知らしめた作品として、非常に読みごたえがありました。
2. 感想
本書は5部構成となっており、そのうちメインとなるのは第2部から第4部までです。
第2部では、社会関係資本の濃淡が20世紀のあいだにどのように推移してきたかが膨大なデータとともに語られます。
政治参加・市民参加・宗教参加・職場でのつながり・慈善活動・インターネット。
わたしたちをとりまくあらゆる「繋がり」が分析の対象となりますが、驚くことに、どの分野を分析しても結論はただ一つに収斂していきます。
それはすなはち、米国における「社会関係資本」が、20世紀初頭に増加→大恐慌期に一時的減少→第二次世界大戦~60年代まで増加→十数年の停滞→現在まで続く減少というように推移しているというものです。
様々な「繋がり」がほぼ一様の傾向を示すことは驚きですが、この増減の推移の社会的背景を想像すると、確かにと思わせられる面があります。
第3部は「なぜ?」というタイトルで、こうした増減の要因、特にここ何十年の減少の要因を、社会的背景に結びつけて考察しています。
わたしたちの頭には様々な想像が浮かびますが、著者の出した暫定的結論がこちら。
1. 価値観や行動様式の異なる世帯の台頭
2. テレビ視聴(「テレビを見るという行動様式」という点で1とも重複する)
この二つが主だったものというところは非常に興味深いと思います。
ちなみに、他の要因として挙げられているのが労働環境の変化とスプロール現象です。
要因のこれほど大部分をテレビに帰せるのかということには主観的反発を覚えますが、著者の筆運びは慎重かつ緻密、論理的であり、「ただぼーっと見るだけの娯楽」が余暇時間を私事化し、人との交流や公的な活動を減衰させていく様には空恐ろしい気分を抱いてしまいます。
第4部は「それで?」というタイトル。
ここまで述べられた「社会関係資本」の減少による影響が分析されます。
結論としては、社会の広範に及ぶ深い悪影響。
教育、治安、福祉、衛生、経済、民主主義。「社会関係資本」の減少があらゆる面で悪影響を与えるだろうというわたしたちの直感が詳細でげんなりするような証拠によって裏付けられていきます。
「社会とのつながり」の射程を、政治学・社会学のマクロな範囲にまで広げた本作。
(または政治学・社会学の射程に「社会とのつながり」を颯爽と登場させた本作)
21世紀の社会科学に興味がある方なら、是非、一読するべきでしょう。
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