第2位 「ヒカルの碁」ほったゆみ
【爆笑と感動 ラブコメの金字塔】
・あらすじ
主人公は小学6年生男子である進藤ヒカル。
スポーツ好きで頭を使うのが苦手だという自覚のある少年で、これといって嵌っていることはないものの、それなりに楽しい日々を過ごしていた。
そんなある日、祖父の家にある蔵の中を探っていたところ、ヒカルは一台の碁盤を発見する。
ヒカルが碁盤に触れると、突如、碁盤は輝きを放ち、ヒカルの前に一人の幽霊が現れた。
平安時代の貴族服に身を包んだその幽霊は藤原佐為と名乗り、なんとヒカルに取り憑いたのだった。
当初は佐為の存在を鬱陶しがっていたヒカルだったが、佐為が抱く囲碁への熱い想いに屈して妥協、ヒカルは囲碁のルールを覚えはじめ、ひょんなことから囲碁好きが集まる碁会所へと足を運ぶことになった。
その碁会所でヒカルと対局することになったのが、同じく小学6年生の塔矢アキラ。
現役名人である塔矢行洋の一人息子であり、いつでもプロ入りできる実力を持つ人物なのだが、同世代にライバルらしいライバルもおらず、アキラは熱くなりきれない日々を送っていた。
そんなアキラが碁会所の大人たちなど全く寄せ付けない実力者であることも知らないまま、ヒカルは意気揚々と対局を始める。
といっても、ヒカルが打つ手は背後から佐為が指示する通りの手であり、ヒカル自身は言われるがままに訳も分からず碁石を盤の上に置いていくだけ。
一方、動揺が収まらないのは対局相手であるアキラ。
満足に碁石を持つことさえ覚束ず、やけにゆっくりと打つ初心者丸出しの態度からは考えられないほどの打ちまわしでアキラを翻弄していく、見ず知らずの同学年くらいに見える少年。
屈辱的な敗北を喫したアキラと、あの塔矢アキラが敗北したという事実に驚愕を隠せない碁会所の面々。
塔矢アキラに謎のライバルが現れた、その噂は囲碁界の中で急速に広がり、それと同時に、初心者であるヒカルはアキラをはじめとする囲碁棋士たちが持つ「真剣さ」の雰囲気を感じ取り、次第に囲碁の世界へと引き込まれていく。
これから成長する初心者でありながら、史上最強棋士である佐為の代役としての顔も持つ進藤ヒカル。
ときに悔しがり、ときに憤り、なによりも混乱に陥りながら、ヒカル/佐為という二重存在の謎へと迫っていく囲碁棋士たち。
最強棋士の影を追いながら、切磋琢磨する囲碁棋士たちの、熱い青春物語が始まる......。
・短評
週刊少年ジャンプに連載された少年漫画としては異色の囲碁漫画であり、それでいて大ヒットした作品です。
シンプルながら効果的な設定と構成が光る漫画となっており、子供はもちろん大人の鑑賞にも十分に堪えうる普遍的名作となっております。
本作の美点としてまず挙げるべきは、メインストーリーとなっている進藤ヒカルの成長譚でしょう。
平凡な少年であったヒカルが幽霊として蘇った史上最強棋士に取り憑かれ、その幽霊の「囲碁を打ちたい」という我儘に付き合う形で囲碁界に関わり始め、次第に囲碁という競技の魅力に惹かれ虜になっていく。
そして、プロ棋士への道のりを歩んでいくなかで様々な人々と交流し、事物に真剣に取り組むとはどういうことか、その感覚を会得しながら大人になっていく青春物語には王道的な感動があります。
二つ目の美点は、ライバルである塔矢アキラ視点から見た「ヒカルの碁」という物語の魅力です。
名人を父親に持ち、二歳の頃から囲碁を打ち始めると、その才覚と努力の両輪が見事に嚙み合って実力を伸ばし、十二歳の時点で既に「なんでまだプロ試験を受けないの?」と言われてしまうほどの傑物としてアキラは本作に登場します。
野良の小学生であり、佐為との出会いを通じて12歳から渋々囲碁に関わり始めたヒカルとは対照的な経歴の持ち主。
これで性格が悪ければ凡庸なライバルというところなのでしょうが、本作の巧妙なところは、彼を人当たりの良い人物として描き、しかも、囲碁に対して並々ならぬ向上心を持っている人物として描く点です。
鼻をへし折られたエリート棋士として、どこにいるとも分からない藤原佐為に追いつこうとがむしゃらな努力をする一方で、模範棋士として主人公である進藤ヒカルの前に立ちはだかってはヒカルのを上へ上へと引き上げていく。
最強の幽霊棋士の代役という面と急成長する初心者という面の両方を持つ進藤ヒカルに塔矢アキラが翻弄されながら力強く生き抜いていく姿勢には胸を打つものがあります。
三つ目の美点は、本作が単純な少年成長モノではなく、謎の最強棋士を巡るミステリックサスペンスとしても成立している点です。
幽霊である佐為による囲碁対局を実現するため、作中でヒカルはインターネット対局を駆使します。
しかし、並大抵のプロでは太刀打ちできないような実力を持っているにも関わらず、インターネットでしか対局しない謎棋士の登場に囲碁界は動揺します。
名人をはじめとした有力棋士たちが本当は幽霊である「藤原佐為」を巡って混乱し動揺し、そうでありながらその強さの謎を追い求めていく。
読者だけがそのトリックを知っているという言わば「逆ミステリ」の快感に浸りながら読むことができる作品です。
小説のレビューがメインの本ブログですが、本作は様々な「人生」を感じられる作品として、文学好きな方の心も捉えて離さない名作だと思います。
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