それでも、各候補者からすれば政党からのサポートをできる限り引き出したいでしょう。
そんな条件下で形成されるのが、選挙互助会としての派閥です。
将来の首相を目指す政党内の有力議員が、政党内グループ(派閥)の長(領袖)という立場で特定議員に肩入れするわけです。
それにより、特定議員は同一選挙区内の同一政党候補よりも選挙資金や人脈等で優位に立つことができるわけです。
その代わり、当選の暁には領袖に従って行動し、総裁選となれば領袖を推すわけです。
そして、ライバルが派閥Aの支援を受けているとなれば、他の候補は負けないために派閥Bに支援を求めるでしょう、
そうして、中選挙区制における最大定数であった5~6程度の派閥が単一政党内に形成されていくわけです。
一方、小選挙区制となれば状況は変わってきます。
一人しか当選しないのならば、議会で単独過半数を獲得するために最も有効な戦術はもちろん、各選挙区に自党から一人だけ候補者を立てることです。
一つの選挙区につき一つの政党から一人の候補者しか出ないわけですから、有権者は自分が支持している政党から出馬している候補にそのまま投票するでしょうし、政党側も、自党から一人しか出馬していないのですから、その候補を全面的にバックアップするはずです。
こうした状況では、派閥というものは成立しづらくなります。
候補者はどのみち自分の所属する政党からの全面バックアップを受けるわけですから、選挙時に頼るのは党内グループとしての派閥ではなく、政党そのものなわけです。
また、中選挙区制では、政党の公認を受けられなくとも特定派閥の支持を受けた無所属候補(例:事実上の自民党候補である「保守系無所属」候補)として立候補し、別派閥の支持を受けた政党公認候補を破ってから追加公認という形で政党入りすることもできました。
しかし、小選挙区制において分裂選挙はほとんど自殺行為ですので、そのハードルは極端に高くなります。
つまり、一枠しかない政党公認を得られるかどうかの事前調整が重要となるので、公認を出す立場である党首や党執行部の立場が強くなるというわけです。
そうして、選挙の主導権を派閥から党執行部に移すことで、派閥にではなく党執行部への忠誠心にもとづいた行動が各議員に対して促されます。
(派閥単位ではなく)政党単位での結束促進策によってトップダウンの政策決定を実現し、他方で、選挙区における争いも政党単位とし、勝者総取りで党派別議席の振れ幅を大きくすることで、政権交代可能な二大政党体制を構築しようとしたわけです。
第3章 小選挙区比例代表並立制の定着
さて、前提知識の説明をしたところで、本書の本論である第3章以降をレビューしていきたいと思います。
第3章のテーマは従属変数としての選挙制度となります。
選挙制度改革の結果として生み出された小選挙区比例代表並立制ですが、今日までその制度は変更されずに来ています。
選挙制度は政治家が決めるという制約上、選挙制度が変更される/されないというのは政治家たちの意思の総意になります。
つまり、政治家たちの意思が独立変数、選挙制度が従属変数という関係にある中で、この小選挙区比例代表並立制が政治家たちにどの程度定着しているのか(支持されているのか)ということが本章では語られます。
先に結論を取りますと、比例部分も含め、この小選挙区比例代表並立制という制度は議員たちのあいだである程度定着しているようです。
制度の導入当初は中選挙区制への回帰思想も残っていたものの、いまとなっては小選挙区制の恩恵を受ける二大政党の議員を中心に小選挙区部分が支持されているのに加え、二大政党の中でも復活当選を含めた比例区選出組であったり、あるいは落選組などは比例代表部分込みの並立制を支持しており、小選挙区比例代表並立制が自己拘束的な安定感をある程度獲得していることが回帰分析等を用いた検証によって示されています。
第4章 政党中心の選挙環境への変容
第4章のテーマは、個人に投票するか、政党に投票するかです。
選挙制度改革は中選挙区制のもとで主流だった個人-派閥に注目した投票行動を抑制し、政党ラベルに注目した投票行動へ有権者を導くこと、また、候補者の活動も個人や派閥による特定分野/地域への利益誘導重視から政党単位における国単位での利益追求重視に切り替えさせていくことが目的でした。
そういった目的は、果たして現時点で達成されつつあるのか、という問いが本章での検証内容なのですが、結論としては、そうした動きが相当程度進展しているというのが本書での分析結果です。
議員個人に紐づく後援会は衰退の一途を辿り、加入者数・加入者割合は90~00年代にかけて右肩下がりになっております。
また、特定の政策分野と結びつく利益団体も有権者への影響力を落としており、個人中心・族議員的振る舞い中心の選挙は議員の立場から見ても順当に衰退しております。
有権者の意識にもそういった変化が生じており、投票の際に候補者個人よりも所属政党を重視する有権者の割合は増加しておりまして、1996年の調査では所属政党よりも候補者個人を重視する有権者の割合を逆転しています。
また、地元利益/団体利益/国全体の利益のうちどれを重視するかという調査でも、地元利益/団体利益を選ぶ有権者の割合が減少し、国全体の利益を選ぶ有権者が増えており、政党重視・国全体の利益重視は鮮明です。
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