1. 地方自治入門
早大の公共経営大学院教授や放送大学教授を務められている稲継裕昭氏の著書です。
自治体運営を専門にしているだけあって、自治体の構造や依拠する制度を知るにはたいへんためになる本です。必要な情報がコンパクトにまとめられ、文章も読みやすく書かれています。
新事実を発見したり、新しい概念を築くために深く分析する類の本ではなく、あくまで概説書なので★5や★4はつけづらいところはあります。しかし、載っていることはそれらの本を読むために前提知識であり、この本抜きにはどんな自治体関係の本を読んでも理解が浅くなってしまうかもしれません。
この分野に興味のある方になら一読を勧められる良書です。
2. 感想
教育や福祉など住民に身近なサービスを提供している地方自治体。しかし、近年は夕張市の破たんなど、財政的に厳しい自治体も多くなっています。
そんな中で、いかにサービスを供給し続けられるのかを軸に巷では様々な議論がなされております。サービスとして何を残し、何を削るのか。将来的な財源を確保するべく、いかに自治体としての競争力を高めるのか。
個性的なアイデアとキャラクターを持った首長も多く登場しています。石原元都知事や東国原元県知事、橋下前市長、最近では小池都知事などもそうでしょう。
しかし、議論の中で出てくるアイデアについて考えようとするとき、私たちはその前提になる知識をどれほどもっているでしょうか。
例えば、削るべき支出として挙げられることが多いのが、福祉、公共事業、そして職員給与などです。どれも効果が薄く、無駄な支出だと言われることが多いわけですが、実際に自治体の支出のうちどれくらいがそれらの分野に振り分けられているのでしょうか。
また、一括りに給与削減と言っても、一般職員への給与と警察官や教師への給与では異なるスタンスをとる人もいると思います。では、自治体はいったい、どんな人物にどれくらいの給与を支払っているのでしょうか。
収入の分野でも同じです。自治体はどんなところから財源を得ているのでしょう。国からの補助なのか、地方税なのか。補助といってもどのような条件でどれくらいもらっているのか。税といっても、所得にかかかるのか不動産にかかるのか。
こういった財源の性質を知らなければ、自治体の収入や支出をどう変化させることができ、どう変化させられないのかを考えることはできません。
また、政策立案についても同様です。なぜ、特定の政策が実行されたり、されなかったりするのか。
そこには、自治体の首長や職員の個人的能力や性格を超えた、あるいは、そういった個人的資質の発揮を後押しする/制約する制度があり、その制度が政策決定にどのように影響を与えているのかを考えなければなりません。
そういった「前提」となる知識が、この本には詰め込まれています。豊富なデータと、自治体内部の組織構造、自治体と中央政府の関係といったところまで扱っている範囲は幅広く、どれも近年のアカデミックの分析をしっかり反映しています。
様々な「アイデア」が載った本を読む前に、ぜひ、ご一読をお勧めします。
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