筆者的には、あるいは当時的には、終盤の3つの事件、つまり、乃里子の憧れだった保坂先輩が強姦で捕まる場面、岩永と祐子の交際が発覚する場面、乃里子が岩永と再会を果たしてコンプレックスを克服する場面で「どんでん返し」や「価値の逆転」を見せているつもりなのでしょうが、どれもあまりにも唐突で、「とりあえず衝撃的な事件を起こしてみました」に留まっています。
現実とは違い、フィクションは何でも書けてしまえるのですから、最終盤で脈絡のない大事件が起こったところで、「ふーん」となるか悪い意味で唖然とするだけです。
確かに、保坂先輩の事件は想い人の(あるいは「男性」の)別側面を見て乃里子の価値観がアップデートされるという点で読者の共感を得られる青春あるあるを表現できているとは思います。
岩永と祐子の交際も、「最も(自分より格下に見るという意味で)信頼していた親友の裏切り」と「口では派手な美人が好きと言いつつ内心は楚々とした女の子が好きなのが男というもの」という世間あるあるを乃里子が身をもって体験するという意味で、多くの読者にも自分が青臭かった時代への郷愁を感じられるものになっているのだと思います。
そして、岩永との再会は、コンプレックスでがんじがらめだった十代から脱却した乃里子の成熟が「よかったね、よかったね」という言葉に表れるという点で読者へのサプライズにはなっています。
けれども、それらの事件を物語の中にどう位置付けるのかが重要なのであって、単発かつ散発な事件で読者を感動させようとしても、その感動は「展開」や「構成」が存在する現代の小説からもたらされる感動よりも薄くならざるを得ません。
エッセイ的な語り口の巧妙さと軽妙さでなんとか終盤まで一定の質を保ち続ける小説ですが、その表皮を剥がしてしまえば、「平坦な展開から突拍子もない事件が起きてあっけなく終幕する小説」というなんとも商業レベルではない作品になってしまいます。
4. 結論
「昭和」「田舎」「進学校」「青春(地味な女子高生のやきもきという意味で)」という4点セットの雰囲気を楽しめる小説ですが、それ以上の魅力はありません。
物語の質という意味だけなら星1つでもよいですが、そういった雰囲気の醸し出し方の上手さを加点して星2つとします。
コメント