1. 人間の土地
郵便輸送機や偵察機のパイロットとして戦間期から第二次世界大戦にかけて活躍し、その傍らで自身の経験を元にした著作を多数発表した作家サン・テグジュペリの作品。彼の作品では「星の王子さま」「夜間飛行」の次に有名でしょう。新潮文庫版ではカバー絵及び解説を宮崎駿が担当するなど、各方面への影響の大きさが伺えます。「夜間飛行」のレビューはこちら。
評価としては「夜間飛行」に一歩劣るといった印象。飛行機乗りとしてサン・テグジュペリが経験した様々な出来事はどれも印象的で烈しいものですが、「物語」としての質を問われるとイマイチです。
2. あらすじ
ベンガジを発ったサン・テグジュペリ機は夜空に迷い、砂漠の上に不時着してしまう。機体は炎上し、サン・テグジュペリと同乗していたプレヴォーの二人は着の身着のままで砂上に放置された。
街の灯りも見えない砂漠の中、三日三晩彷徨い続ける二人の僚友。食料も水も尽き果て、幻覚が見えるようになる。生きることに挫けそうになりながらも立ち直り、生存への道筋を探していく。
「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」
極限状態に置かれた飛行士たちが背中で語る人間賛歌の物語。
3. 感想
サン・テグジュペリの経験を元にした8つの中短編から成っており、あらすじに記載したのは最も有名なエピソードである「砂漠の真ん中で」です。この他にも任務中に行方不明となり永遠に帰ってこなかった僚友のエピソードや、解放された黒人奴隷のエピソードがあり、時代背景や飛行士という職業の特殊性を感じさせます。
さて、「砂漠の真ん中で」を含め、それぞれのエピソードには確かに飛行士たちが立ち向かった厳しい現実が生々しく描かれており、その中で「生きることとは何か」ということが鋭く問われていることは分かります。だからこそ、あらすじに「」で示したような名言も本作では枚挙に暇がりません。実体験からきているためか、飛行中の空やサハラ砂漠の描写も鮮やかで真に迫ります。
ただ、物語としては起伏がなく、驚きがないという致命的な欠点があります。現実に起きたことが多少の脚色あるにせよ現実の時系列通りに書かれ、台詞やモノローグではサン・テグジュペリの率直な想いが述べられているからでしょう。しかし、そこには飛行士が発見した人間の本質であったり生きる意味であったりというものは存在しいても、フィクションや「物語」だからこそ生み出せる感動はありません。
全体的に、飛行機が安全からは程遠い存在だった頃に飛空士をしていた人物の手記にすぎません。「構成」や「人物造形」があり、心震わせるエンディングが用意されている物語である「夜間飛行」とは似て非なるものです。
4. 結論
エピソード一つ一つは興味深いもので、独自の経験から来る情景描写などは出色です。しかし、「面白い」「感動した」、という想いを抱く物語ではないのです。面白い物語に会いたいというのではなく、サン・テグジュペリという「人物」そのものに興味があれば読んでみても良いのではないでしょうか。
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