だというのに、本作では「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズの本筋ともいえる「涼宮ハルヒによる世界改変をどう阻止するか」という本筋が全く動くことはなく、世界改変を阻止するための波乱万丈な展開や、そこで形成される友情、醸される葛藤もまるでありません。
だからこそ、読後の感想は「いったい何だったんだろう」だけになります。
しょっぱいクオリティのミステリもどきを読まされて、表面的な口調や態度ばかりは似せているけれど、その本質的な魅力を完全に抜かれてしまったような登場人物だけが出てきて、「涼宮ハルヒ」の世界にまつわる本質的な事件は何も起きないまま終わってしまう。
特段、「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズの設定や登場人物を使わなくたってつくることができる、これまで培ってきたストーリー展開などなくとも成立してしまう作品であり、「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズの続編として何らかの期待を持たせて出版したことに怒りさえ覚えるほどです。
しかも、「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズであることを除けば、どこに売れる要素があるのかと言いたくなるくらいの凡庸未満なミステリがその内容なので、恐らく、「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズにかこつけて世に送る以外の手段では出版は叶わなかったような作品でしょう。
中短編は「SOS団の日常」的な外伝エピソードだと捉えることもできたのですが、さすがに9年半ぶりの新刊に掲載された書き下ろし長編作品で「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズらしい感動がゼロだったことには憤りを感じます。
纏めてしまえば「つまらないミステリ小説(ただし登場人物は「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズの皮を被っている)」としか言いようがありません。
これが出版されざるを得ないという、出版業界・文芸業界の苦境だけが奇妙な感慨として残る作品です。
コメント