加えて、コネを駆使しながら水面下で真犯人探しをするラスティの活動が探偵小説&冒険小説的な面白さを提供してくれます。
場末のバーやレストランでの食事描写だったり、治安の悪い無法地帯の中にあるアパートへと突入する際のアクション描写だったりと、本作1冊で(上下巻ですが)様々なジャンルのいいとこ取りができている作品でもあります。
合計で700ページ以上の分量を誇る長編小説なのですが、読み応えは抜群ですね。
さて、ここまで褒めちぎっておいて評価は3点(平均以上の作品・佳作)ということで、4点や5点ではない理由を以下に述べていきます。
まず、面白い展開に差し掛かるまでがやや長過ぎます。
主人公が起訴され、裁判が始まってから本格的に物語は展開していくのですが、なんと裁判が始まるのは上巻の249ページから。
それまでは選挙戦やラスティによる捜査の描写がされながら登場人物たちが紹介されていくという、いわば「序章」的な扱いのエピソードが続くので、どうしてもダレてしまいます。
冒頭から「世界設定」を延々と述べるのは小説の典型的な悪手であり、一行目から物語を大胆に展開させて読者の関心を得るのが面白い小説の王道ですが、本作が行っていることはまるで逆なのです。
法廷ミステリでありリーガル・サスペンスであると文庫裏表紙の紹介文にも記載されているのですが、さすがに200ページ以上も非法廷非サスペンスな文章を見せつけられては堪らないという読者もいるでしょう。
なんとなくですが、この小説がいま編集会議にかけられたら出版できないのではないかと思います。
スマホゲームや動画投稿サイトと競合するようになった現代においては、中盤以降がどれほど面白かろうと、序盤で読者の心を掴めない小説はすぐに閉じられてしまうからです。
アクセスできるコンテンツ数が少なく、1作1作の発表を読書好きたちが心待ちにしていて、じっくりと作品に対峙していた時代の小説だとも言えます。
「理解してください、読んでください」と小説が読者に媚びるのではなく「理解してみろ、読んでみろ」と小説が読者に挑戦していた時代の作品なのです。
もう一つの要因としては、純文学風味な側面がありながらも基本的にはエンタメ作品として書かれており、読者の人生や価値観を変えるような、普遍的な価値観に訴えかける点に欠けるところでしょう。
文学性とエンタメ性が両立できている小説は滅多にないのですが、そういった小説だけが名作・傑作になり得ると考えています。
とはいえ、エンタメ小説としてはかなり面白い部類の作品。
愛憎乱れる大人のサスペンス小説を読みたい人にはお薦めです。
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