読者の多くが美人でない以上、エンタメ的には美人を不幸にして欲しいはずですからね。
少年漫画の凡人主人公がイケメンライバルに勝つ構図に近いのかもしれません。
それでも、真山に対して積極的にアプローチをする山田には女性登場人物の中で唯一好感が持てます。
繰り返し述べている通り、本作は原則として徹底的に女性が何もしないんですよね。
強いてやっていることを言うならば、いつも精神的に傷ついてくよくよだけしています。
概して芸術の才能には恵まれているのですが、良い芸術作品を作れるという面以外には魅力がなく、特に人間的側面において素敵さのかけらもありません。
非常にハイスペックな異性(花本修司・真山巧・野宮匠)に依存しきって生きることが最後まで肯定的に描かれているのが特徴で、本作唯一の、それでいて決定的な欠点ではあります。
ここを乗り越えれば(それこそ、女性側がそういった自分の生き方を見つめ直す描写や邪険に扱われて何かを思い直す描写があれば)、評価は5点だったのにと思います。
9. 結論
最後の方は唯一の欠点に対する愚痴ばかりになってしまい、とても評価4点の作品に対する感想に見えなくなってしまったかもしれませんが、それでも総合評価ではかなり高いレベルにある作品です
とにかく演出が上手くて、読んでいる間は細かい点があまり気にならないんですよね。
生き方のわからなさ、自分という存在のわからなさ、恋する気持ちに向きあう辛さ。
そういった感情が非常に良いテンポと突き上げてくるような迫真性で描かれていて、よく見れば典型的な少女漫画的展開であっても、描き方でこんなにも違って感じられるんだなと思ってしまいます。
個人的には特に、真山が中途半端に山田に優しくして山田の葛藤が深くなるシーンが好きですね。
酔いつぶれた山田が真山に背負われながら河川敷を歩くシーンなんて、興奮で過呼吸になるかと思いました。
羽海野チカさんが得意とする、縦読みのコマをぶった切って横書きのモノローグが入る演出もドキドキさせます。
この手法を開発した羽海野チカさんは天才としか言いようがありません。
叶わない恋への儚い思いや、夢を追うことの爽快感と挫折感といった、青春と恋愛の王道漫画を読みたいという方はまず手に取るべき作品でしょう。
読後の余韻に浸ったあと、再度冷静に読み返してみて、そのときに本稿で述べたことを思い出して頂くくらいがちょうどよいのではないでしょうか。
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