本ブログで紹介したアニメ映画の中からベスト5を選んで掲載しております。
私の好みもあり、バトルやファンタジー、ハーレムというよりはヒューマンドラマをテーマとした作品が中心となっております。
第5位 「君の名は。」新海誠
【恋愛とSFを見事に融合させた平成最後の大ヒットアニメ映画】
・あらすじ
舞台は現代の東京と、岐阜県の奥地、糸守町。
ある日、東京に住む立花瀧と糸守町に住む宮水三葉の日常に異変が起こる。
なんと、二人の身体が時々入れ替わるようになってしまったのである。
突然の事態に戸惑う二人だったが、携帯電話に残したメッセージで意思疎通を図り、互いの日常に触れる中で次第に惹かれあっていく。
しかし、ひょんなことから瀧が三葉に電話をかけようとし、事態は急転する。
三葉への電話は決して繋がることなく、三葉の故郷、岐阜県を訪れた瀧は、そこで糸守町が三年前にティアマト彗星の衝突に遭い、住民ごと消滅してしまったという事実を知る。
打ちひしがれる瀧は糸守町の事件を調べ、何とかもう一度入れ替わって三葉の死を回避しようとするのだが......。
・短評
アニメ映画界にセンセーションを起こした、言わずと知れた大ヒット作です。
大都会東京と田舎町である岐阜県の飛騨地方に住む高校生男女の身体がある日突然入れ替わってしまうという事件を皮切りに、ドタバタコメディ調の恋愛劇が始まるのですが、またもある日突然に入れ替わりが起こらなくなってしまい、そのことによって、ヒロインである三葉を襲った悲劇について主人公の瀧くんが知ることになる。
その悲劇を回避する方法はないかと、瀧くんは再びの入れ替わりを模索する、という物語になっております。
映画の前半部はラブコメディを基調にしつつ、入れ替わりが起こらなくなったことをきっかけに、瀧くんが飛騨まで三葉を探しに行く冒険譚が始まり、しかし、そこでは三葉に会うことはできず落胆。
そうなると、あの入れ替わりは妄想だったのか、というとそんなことはなく、とある秘密が明らかになることで、時間移動と災害回避を巡る瀧くんの大立回りが中盤以降の展開に華を添え、最後は愛し合う二人による運命の再会という恋愛譚に回帰するという構成。
現代日本におけるアニメ界のエンタメ全てを1時間40分にぎゅっと濃縮したような映画となっております。
各キャラクターの立ち回りはいかにも「アニメ的」なものでリアリティがなく、また、SF的な設定もよく考えると矛盾があったりするらしいのですが、そういった欠点を遥かに上回る美点を多く備えた作品です。
特に着目したいのは、最後まで物語を牽引することになる、「瀧くんと三葉に結ばれて欲しい」という視聴者の感情を惹起させるための、瀧くんと三葉といういかにもアニメ的キャラクターに忍ばされた生々しい設定です。
瀧くんと三葉は当初、どちらも「普通の高校生」のような体裁で画面に登場しますが、二人の生活を取り巻く背景がさりげなく挿入されることで、二人への感情移入の程度が高まるよう工夫されています。
父子家庭育ちで進学費用を稼ぐためにアルバイトを行っており、自分の夢である建物やインテリアのデザインをおこなうための技術磨きにも努力を惜しまない瀧くんという男子高校生。
潔癖ではないのに好青年であるという親しみやすさも好感度を上げています。
都会と隔絶されたどうしようもない田舎に住み、父親は土建政治に明け暮れていて土建関係者以外からは評判も悪く、しかも世間の狭い環境なのでその被害は自分の評判にも降りかかってくるという生活を送っている三葉という女子高生。
因習に囚われがちな祖母のもとで育っており、自分自身も高校生にして地元の巫女としての役割を果たさなければならず、その中には「口噛み酒」という現代の衛生観念や羞恥心では乗り越えがたい仕事も含まれている。
そんな苦労人の二人が、そんな苦労を表に出さず明るく振舞っていて、入れ替わり生活の中でお互いの性格の良い面を深く知って惹かれ合っていく。
絶対に結ばれて欲しい、そんな二人を襲う悲劇、その悲劇を乗り越える冒険譚。
緻密な工夫と大胆な構成で王道を昇華した、ジブリやディズニー以外における現代アニメ映画の金字塔的作品です。
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