第1位 「SHIROBAKO」水島努
【働くこと、夢を追うこと、現実を生きること】
・あらすじ
短大を卒業し、アニメーション制作会社「武蔵野アニメーション」に就職した宮森あおい。
彼女の夢は「アニメに関わる仕事をする」ことであり、その夢が叶ったのだった。
しかし、現場はそんなに簡単ではない。
上がらない絵コンテ、慢性的な人手不足、職場内の不和、我儘な監督。
制作進行として奔走する宮森は、何度もくじけそうになりながらも、そのたびに周囲に支えられ、アニメを完成させていく。
高校時代、宮森と共にアニメーション同好会に入っていた、同じ夢を持つ4人の友人。
安原絵麻、坂木しずか、藤堂美沙、今井みどり。
彼女たちもそれぞれの役割でアニメ業界に関わるようになっていく。
いつか、五人で一緒にアニメを作る。
その夢が叶う日は来るだろうか.......。
・短評
アニメーション制作会社に就職した新入社員を主人公に、そしてアニメ業界で「働く」ことの苦労と達成感、そして社会人の悲哀と歓喜を描いた作品です。
一見すると「萌え」アニメのような印象を受けるビジュアルイメージですが、その内容は本格派の「お仕事ドラマ」。
社会人の青春とでも呼ぶべき胸の熱くなるような劇的な展開と、そのリアルさから来る社会派的な側面を併せ持った、完璧な品質を持ったアニメとなっております。
憧れの業界に就職してみたものの、そこに待っていたのは非常に「社会人」的な、不条理ばかりの仕事たち。
それをこなしていく中で見えてくる、デキる人もいればどうしようもない人もいる「社会」の実情、少年少女ばかりが活躍する一般的なアニメとは異なり、「経験」による実力が生々しいまでに反映される仕事観。
特に「若手の斬新な発想」とは真逆の手法で1クール目のどんでん返しを成し遂げる脚本構成は圧巻です。
そんな、アニメにしては珍しい、あまりにリアルな世界観の中で、主人公の前に立ち塞がる課題もまた現実的です。
納期遅れ、意思疎通の齟齬、人材不足、怠惰によるクオリティの低下、上司・取引先の気まぐれ。
この世界のおけるほとんどの職場が直面するこれらの課題に主人公もまた翻弄されます。
アニメ的な空虚さなどは一切なく、新米会社員の誰もがぶつかるような壁に主人公もぶつかり、もがきながらそれを乗り越えていく姿は全社会人にとって励みになるでしょう。
一人暮らしをする新卒会社員の殆どが直面する「貧しさ」についの描写も恐ろしいくらいに現実性があり、そのあたりを冗談めいた表現で誤魔化さないことに好感が持てます。
そして、本作で何より感動するのは、物語全体が訴えかけるアニメを制作する苦しさと楽しさです。
本作ではアニメ業界特有の極端にブラックな職場環境も描かれるのですが、その反面、登場人物たちが夢中でアニメをつくり、それぞれのこだわりを現実の作品に投影させていく「かっこよさ」も魅力的に描かれています。
そんな中でも注目したいのは、主人公のあおいが憧れとしているアニメが「山はりねずみアンデスチャッキー」という、世界名作劇場系の作品であること。
どの登場人物もそうなのですが、「萌え」描写で視聴者を誑かそうとか、「異世界転生」で現実の鬱憤を晴らさせてあげようとか、そういうことを絶対に言いません。
彼らが目指しているのは、あくまでも、愛と勇気と優しさをテーマとした作品であり、そういった普遍的な要素で人々を感動させるようなアニメをつくろうとしています。
作中で製作されるのは、さすがに世界名作劇場系の作品ではありませんし、「魔法少女もの」や「美少女×軍隊もの」など、いかにも現代的な深夜アニメです。
それでも、物語制作者として、低俗な部分で歓心を得ようとするだけでなく、何か普遍的なメッセ―ジを発して心の底から感動させようとしているのがいいですね。
「短評」があまりにも長くなってしまいましたが、それくらいお勧めの作品です。
感想記事では4記事に渡って本作の魅力を徹底分析しており、私としてはそれくらい強く推したい、素晴らしいアニメだと思っています。
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