本書で示される例は全てアメリカの例なので、日本への適用性について要検討なのですが、支払う学費に対して将来の稼得が大きいのは大学の専攻でいえばコンピュータ・エンジニアリングや会計であるということがPOTスコアという著者独自の計算方法によって算出されます。
ちなみに、POTスコアが傑出している職業の一つとして配管工を挙げられており、こういった必要な学費が極端に少ない選択肢も著者は推薦しています。
逆に、美術やライティングといった専攻はあまりにコスパが悪すぎ、それを大学の専攻としても経済的自立が遠のいてしまうので、FIREという観点からはお勧めできないとのこと。
そんなこと言っていたら、いつ自分の情熱を傾けられるような事柄に邁進すればよいのか、という質問に対しては、著者は当然こう答えます。
それはFIREした後で行うべきであり、いま、FIREした著者が作家業を行っているように、あなたが金銭的な自由を手に入れてから情熱に従えばいいというわけです。
職業を選択して稼得手段を確保したならば、次は節制による資産運用の元手づくりが始まるわけでして、第4章から第7章は節制についての解説章となっております。
利息のかかる消費者ローンは絶対に使ってはいけない、モノの所有は物欲の中毒症状を生んでしまうので、同じだけのお金を使うのであれば旅行やスキルの獲得といった経験に使うべきである、使っていないサブスクの解約等を通じて固定費削減に着手するべきだ、マイホームの購入及び維持には想像以上のお金がかかるので賃貸との厳密な比較(本書では比較方法として「150の法則」が紹介されています)を通じて慎重に検討するべきだ。
要約するとこんなところですが、どれも近年の「節約本」ではよく言及されている論点であり、節約がしっかりできていて、毎月それなりに貯金ができているという人は自然に達成できている事象でしょう。
FIRE入門&実践本としてのオーソドックスな内容であると感じられました、
第8章からはついに資産運用の話が始まり、第11章まで続きます。
上述の通り、新規で新奇な概念であるFIREの勘所はこの資産運用にあると言っても過言ではないでしょう。
著者はまず、資産運用の方法としてインデックス投資を推薦します。
インデックスとは日本語に訳すと「指数」であり、株式投資の世界においては、個別企業の株式価格ではなく、一定の条件のもとで集められた銘柄群全体の価格推移を示す「指数」のことを意味します。
日本では東京証券取引所プライム市場に上場している銘柄のうち代表的な225銘柄の株価を平均した「日経平均株価」が最も有名な指数でしょう。
世界最大の株式市場を擁するアメリカにおいては、代表的な上場株式500種の株価を時価総額で加重平均した「S&P500」という指数が最も有名であるようです。
このような「指数」に連動して価格が動くような投資商品が近年では流行しており、著者もそういった商品に投資することを勧めております。
なぜなら、そういった「指数」に連動する商品はファンド・マネージャーが銘柄を選定して運用する投資商品よりも手数料が格段に安いうえ、あろうことか、「指数」に連動する商品の方がファンド・マネージャーが運用する商品よりも歴史的にパフォーマンスが高いことが統計によって明らかになっているからというわけです。
しかし、いくらパフォーマンスが良いからといって、株式の集合体なのだから暴落することだってあるだろう、という疑問に対して著者は「現代ポートフォリオ理論」を用いて答えます。
これはざっくりと言ってしまえば、性質の異なる二つ以上の投資商品に対して同時に投資することで、投資によるリターンを上昇させつつリスクを低減させることができるという理論です。
本書では株式と債券の組み合わせが論じられ、両者の比率を適切にコントロールすることで、資産全体における日々の価格変動幅を抑えつつ、長期的にはそれなりに高いリターンは得られることが説かれます。
著者は夫とともにポートフォリオ(金融商品の組み合わせ)を検討し、最終的には株式が6割に対して債券が4割、その株式もアメリカ・カナダ・EAFE(Europe/Australia/Far East)に均等に投資するという道を選んだとのことで、こうしたポートフォリオ構築が功を奏して2008年の世界金融危機を上手く乗り切れた様子が本書では描かれます。
さて、本書の記載に対して忠実に行動したとするならば、ここで労働・節制・資産運用というFIRE三種の神器を揃えることに成功したわけですが、肝心なことは、いつFIREできるのか、3種の神器のうち「労働」をいつ捨て去ることができるのかということでしょう。
そこで著者が持ち出すのは、FIRE界隈においてもはや常識となった用語「4%ルール」です。
これはアメリカのトリニティ大学が発表した論文を起源とする規則であり、その論文とは、退職時にどの程度の資産を持っていれば経済的に破綻しないのかということを研究した論文となっております。
その結論としては、資産をアメリカの株式市場に投じている場合、引き出し率が4%未満であれば、つまり、年間の生活費が資産の4%未満であれば、過去のどの時点で退職したとしても100人のうち95人は死ぬまで資産が尽きなかったということになります。
本書の言葉を借りてより正確に言えば「ポートフォリオの4%の資金で1年間の生活費を賄えれば、貯蓄が30年以上持続する可能性が95パーセント」というわけです。
裏を返せば、生活費の25倍の資金を貯めて株式市場に投じれば理論上引退できるわけで、日々の生活費と貯蓄金額の比率、つまり貯蓄率によっては、かなり早期に退職(Retire Early)できるのではないかという気づきがここにあるのです。
しかしながら、このトリニティ大学論文を信じて25倍の資金を貯めたとしてもまだ5%の一文無しリスクがありますので、ここに対処しなければなりません。
退職直後に大暴落が市場を襲い、目減りした資産を取り崩さなければならなくなったとき、FIRE計画は破綻するのです。
コメント