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「昭和史 1926-1945」半藤一利 評価:4点|バランスの取れた筆致で激動の時代を描いた読みやすい通史の前編【日本史】

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昭和史 1926-1945
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現在でも一部の発展途上国はクーデタによって政治が掌握された軍事政権であることも多いですし、民主制に戻りかけてもまたクーデタで軍政に戻るということが繰り返されている国も多いです。

特に戦前の日本のような、政治経済社会における軍事の占めるウェイトが異様なほど高い国においては、軍部の権力の高まりをそれに対抗する暴力装置を持たない丸裸の政治家たちが抑えるなんてことはなかなか難しかったのかなと思ってしまいます。

また、明確な展望(特に終わらせ方や負け方の展望)を持たないまま、ご都合主義的で場当たり的な発想によってなし崩し的に戦線を拡大して劣勢になりはじめてもずるずると決断できないまま被害ばかりをいたずらに増やしていく旧日本軍や日本政治の気質というものは現代日本と通じるものも多く感じまして、現代経済における「失われた30年」というのは、「負け始めると止まらない/止められない」という日本の欠点が露呈してしまっているのかもしれないと感じた次第です。

そう思いますと、やはりアメリカやイギリスといった国はたいしたもので、最初は負けていても冷静に戦力を立て直して反抗していけるような、そうした柔軟性(最近はレジリエンスとでも呼ぶのかもしれませんが)はどこからくるのかと羨望込みの不可思議な感覚を抱いてしまいます。

日本人は我慢強くて粘り強いとよく言われますが、それは明確に間違っていて、社会全体という視点から見れば、雪崩をうったように負けていってその勢いを(原爆投下でもなければ)止められないのが日本であり、土俵際の粘り腰や忍耐力、諦めない心なんてものはアングロサクソンの方がよっぽど持っているのではないかと思います。

(もちろん、単なる精神論的な視点に留まらず、そういった粘り腰と柔軟性のある軍事機構・官僚機構を建設して維持していくソフト面での卓越した技術力を持っているという視点において、アングロサクソンが優れているなと感じるという意味です)

総合的には非常に勉強になった書籍であり、評価は5点(人生で何度も読み返したくなる名作中の名作)でもいいかなと思ったのですが、目から鱗が落ちるような価値観の転換がもたらされたというレベルではないので、やはり5点はそういった書籍に対して温存しておきたいですね。

よって、評価は4点(概ねどの要素をとっても魅力的な、名作・名著に値する作品)といたします。

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