スポンサーリンク

「億男」川村元気 評価:1点|宝くじで三億円を当てた男が旅の末に気づく「お金」と「幸福」の関係性【マネーエンタメ小説】

スポンサーリンク
億男
スポンサーリンク

ただ、九十九の章で問題なのは、ただひたすらに九十九の変人ぶりが描きつけてあるだけで、そこにはやはり物語が存在しないということ。

最後の最後に九十九邸で行われたダンスパーティの最中に九十九が三億円を持ち逃げするという形でようやく物語が動くのですが、その展開はあまりにも唐突で、これが物語の冒頭ならまだしも、貧乏男が三億円を当てるという幕明けとしての事件のあとにまたも「きっかけ」のような事件を起こされても呆れるだけです。

全体的に、とにかく変人を出演させて奇妙な事件が起こればよいのだという雰囲気が色濃く、キャラクターの一人一人、起こる事件の一つ一つは印象的なのですが、それらが一つの小説内に一堂に会する必然性が薄く、この物語の中で次に何が起こるのかが楽しみという感情にならない小説です。

主人公の一男が九十九の次に会うことになる、九十九の前妻である十和子とわこの章もそうで、この章に至っては十和子の風変りな経歴を延々と聞かされるだけで特に大きな事件が起こるわけでもないというのが残念さに拍車をかけています。

九十九に三億円を持ち去られて以降、本書は一男が九十九の関係者を次々と訪ねていくという形で展開するのですが、それぞれの場所で発生するエピソード同士には繋がりがなく、最後にエピソード同士が結びつくことで新しい事実が判明して物語が動いたり、あるいは登場人物同士が邂逅して事件が起こるということがないのも残念なところ。

それらのエピソードに共通する唯一の特徴はお金に関する説教になっているという点なのですが、そんなもの聞いても面白くもなんともありません。

関西弁の博徒である百瀬ももせ、怪しいセミナーの主催者である千住せんじゅという、かつて事業家だった九十九を支えた二人の人物と会ったのち、一男は妻である万佐子まさことの馴れ初めを回想し、また、娘であるまどかとのカラオケという「安上がりな」遊びを楽しむことで「お金」に依らない人生の幸福に気付き、最後は大学生時代に九十九と袂を分かつことになったエピソードを思い出しつつ、九十九から三億円を返してもらって本書の物語(?)は幕を下ろします。

「お金」についてのエピソードや格言が多く挿入され、それでいて「お金」に依らない幸福こそが大事という結論に至る小説でありながら、特段「お金」についても「幸福」についても真新しい価値を提示することなくベタな「お金」と「幸福」論に終始し、一方で、単純に小説としての物語としても面白くないという地獄のような作品。

記事冒頭にも述べましたが、こんなものが売れてしまってよいのかと久々に驚嘆と失望を感じた小説でした。

スポンサーリンク

当ブログを訪問頂きありがとうございます

応援クリックお願いします!

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
このエントリーをはてなブックマークに追加

おすすめエンタメ小説ランキング

【エンタメ小説】おすすめエンタメ小説ランキングベスト10【オールタイムベスト】
本ブログで紹介したエンタメ小説の中からベスト10を選んで掲載しています。「エンタメ小説」の定義は難しいところでありますが、本記事では、肩の力を抜いて楽しめる作品でありながら、同時に深い感動も味わえる作品を選ぶという方針でランキングをつくりました。第10位 「時をかける少女」筒井康隆【学園SF時間移動ジャンルを生み出した読み継がれる古典】・あらすじある日、中学3年生の芳山よしやま和子かずこは、同級生の深町ふかまち一夫かずお・浅倉あさくら吾朗ごろうと一緒に理科室の掃除をしていた。掃除を終え、隣の理科実験室に用具をしまおうとすると、理科実験室から奇妙な物音が聞こえてくることに和子は気づく。恐る恐る理科実験室の扉を開ける和子。しかし、和子が明けた瞬間に中にいた人物は別の扉から逃亡したようで、残っていたのは液体の入った試験管だけ。しかも、試験管の一つは割れて液体が床にこぼれている。そして、液体から微かにラベンダーの香りがすることに気づいた瞬間、和子は失神してその場に倒れ込んでしまう。そんな不思議な体験をした和子は、その数日後、悲劇に襲われる。登校中、信号無視のトラックが和子に突っこんできたのだ。...

コメント