加えて、ヴァイオレットの言動に見られる「軍隊式」はそれこそギャグやコメディの世界で描かれるステレオタイプな「軍隊式」であり、昭和の芸人でもここまではやらないだろうという露骨さに満ちています。
軍隊には厳しい規律もあるでしょうが、ある程度フランクな「日常」もあるはずですし、行進や敬礼に留まらない奇妙な慣習のようなものもあるはずです。
そうした「軍隊」の現実的生々しさをヴァイオレットが表現することはなく、そのことが、戦場しか知らない少女という物語の根幹を成す要素のリアリティを大幅に削ってしまっています。
また、彼女を取り巻く登場人物たちもアニメ的なステレオタイプに満ち溢れています。
ヴァイオレットの上司であるカトレア・ボードレールは元踊り子であり現在は指名が絶えない実力派の自動手記人形という設定。
褐色の肌でグラマラスな容姿、奔放な性格だが頼れるお姉さんでもある、なんて、いかにもアニメ的な登場人物でしかありません。
同僚のエリカ・ブラウンは自信がなくおとなしい性格の文学少女で、もう一人の同僚であるアイリス・カナリーは田舎出身、幼馴染に振られたショックから都会に出てきたというキャラクター。
20世紀前半風のヨーロッパが舞台なのに、キャラクターの肉付けが現代的すぎますよね。
加えて、ヴァイオレットに執筆依頼をする面々も、リアルというよりファンタジーな面子ばかり。
最初の依頼者である、戦場から帰ってきたあと不貞腐れている兄に手紙を書きたい妹はともかく、小国の王女が政略結婚の相手に対して出す手紙の代筆を依頼するだとか、高名な戯曲家が新作の代筆を依頼するだとか、あるいは、天文台に派遣されて写本業務に勤しむだとか、どれも現実的な近代ヨーロッパではあり得ないことばかりで、所詮ファンタジー世界の話なのか、と冷めてしまいます。
特殊能力や魔法のようなものが存在していたり、ヴァンパイアやエルフがの存在が前提となっている物語ならばともかく、戦場帰りの少女が人間らしさを獲得していくというリアル寄りのテーマでこんなファンタジーを展開されてしまうと、ヴァイオレットが抱える心理的な問題もあまりシリアスには感じられなくなってしまいます。
自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)という尊称が与えられるくらい代筆業が尊敬されている世界観、という部分まではまだ理解できるのですが、だからといって、街の郵便屋風情に王族が当たり前のように依頼を出したり、あまつさえ、終盤の展開では戦争をしていた両国の和平条約の代筆にまで駆り出されるなど、あまりにも何でもありすぎて、本当にギャグ漫画の世界です。
それなのに、リアルで生々しい感動がここにありますという風体で話が進んでいくのですから、心情的には置いてきぼりになります。
さらには、こちらも物語の根幹となるはずの、戦争や戦闘の描き方もファンタジー色に溢れています。
ヴァイオレットがきらきらの金髪を靡かせながら戦場を駆けるシーンや、ギルベルト少佐とヴァイオレットの関係が階級の割に近すぎるという点はまだ、少女兵が存在するという前提や、二人の愛の物語であるという前提に則って甘んじて受け入れるとしましょう。
(魔法が出てくる物語で魔法にリアリティがないなどと言わないのと同じです)
しかしながら、近代的な装備を纏っている兵士たちの中で、ヴァイオレットがやたらに白兵戦で活躍したり、列車の上で飛び跳ねたりと、非現実的な身体能力を見せるのはやり過ぎで、スーパーヒーローのような挙動からは決して戦争の悲惨さや残酷さが伝わってきません。
悲惨さや残酷さという観点では、近代ヨーロッパかつ大きな戦争が終わった直後にしては人々の生活水準が豊か過ぎて、悲しみや苦しみといった感情をテーマにしているわりにはどうしても悲壮感が伝わってこない感もあります。
全体的に絵柄や背景が綺麗で映像美は見飽きませんし、結局、どうやって「愛してる」の意味を知るのか、という点は気になるので見続けてはしまうのですが、失望や退屈、悪い意味での「そんなのありかよ」を頻繁に感じてしまう作品です。
確かに、数ある深夜アニメの中では相対的に一般的なドラマ性があり、感動できる、泣ける作品として推されるのも分からなくはないですが、本作をもって一般層がアニメに対しての評価を変えることはないでしょう。
金曜ロードショウの視聴率も6%台と低調だったようで、さもありなんといったところ。
日本発の実写映画やドラマで世界を獲得するのは難しくても、アニメならばより普遍的で多数の人々に感動を与えられる作品ができるのではないかと期待している身としてはやや肩透かしでしたね。
期待の裏返しで結構辛辣な論調となってしまいましたが、普通に放送されている深夜アニメの中ではまだまだ鑑賞に堪える作品であることは間違いなく、途中で視聴をやめてしまうほど酷いわけではありません。
というわけで、評価としては2点(平均的な作品)といたします。
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