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「バカの壁」養老孟子 評価:2点|現代人が囚われている愚かさの監獄について老教授が語る【社会学】

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バカの壁
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第7章 教育の怪しさ

表題の通り、教育批判が主となっている章です。

自己理解ばかりが重視され、他者を理解することが軽視されている。

反面教師になってもいい、嫌われてもいい、という信念がない。

「おまえたち、俺を見習え」と言える教師がいない。

そんな居酒屋談義的な文章から始まってしまうのが残念な章ですが(こういった事象に対する深い分析や具体的な対案があるわけではない)、本章後半部における身体性の欠如についての話にはまずまず面白い部分があります。

ある東大生に二つの頭蓋骨を見せて違いを述べさせたところ、一方が大きく、他方が小さいことだけを指摘したので著者が落胆したというエピソードから身体性の話は始まります。

目の前にそれらがあれば誰にでもわかるような、何の洞察性もない「違い」についての回答。

そんな幼稚園生のような回答を恥ずかしげもなくするような東大生が出現してしまう理由を、彼らには「生々しい感覚」がないからだと著者は述べます。

(ちなみに、著者が期待していた回答は「状態から見て、こちらの方が古い」「こちらは若い男性で、こちらは女性だと思います」等)

現代の若者は野山を駆けて自分つまり人間の身体についての感覚を掴んでいく機会がなく、死体を見てその冷たく硬化していく様子に触れる機会もない。

だからこそ、明白な「正解」だけれど何も生み出すことのない回答を平然と述べる。

身体を動かし、外の世界や他者と関係していく教育こそが必要であるという主張が本章では示唆されます。

第8章 一元論を超えて

本章では所謂「合理化社会」批判が為されます。

金銭を信奉し欲にまみれた社会を改め、実際に存在している事物に焦点を当てて生きるべき、そして人類は違いを乗り越えて仲良くするべき、という理論やや抽象的かつ断片的に語られており、老教授のとりとめもない話という感は拭えませんが、2003年の出版物としてはなかなか先見の明がある指摘もいくつか見られます。

一つ目は、労働の合理化を推し進めていった先に出現する「余った人間」をどうするのかという問題。

二つ目は、実物資産の裏付けがない貨幣に対する信用の問題です。

前者については特に解決策が示されておらず、後者に対してはエネルギー(例えば石油)を裏付け資産にするべきなのではないか、というやや荒唐無稽な解決策が語られます。

とはいえ、AI化による失業に対する解決策としてベーシックインカムが取り沙汰されたり、貨幣の刷りすぎで資産や実物の価格が世界的に上昇している昨今の状況と通底する部分がある点には著者の見識を認めることができるでしょう。

まとめ

悪くはない内容ですが、ありきたりな中身の薄い新書の範疇に収まる程度の書籍であり、何百万部と売れてよいものには思えませんでした。

「バカの壁」というタイトル勝ちだとしか言いようがありません。

人々は自分がバカなのではないかと恐れ、同時に、自分より下等な「バカ」の特徴を知ることで彼らを蔑みたい欲望を持っているものですから、その欲望をうまく突いたということでしょう。

現代人の身体性欠如という問題や共同体崩壊に伴う社会の悪い変化については私も賛同するところですが、口述筆記であることも手伝ってか居酒屋談義的な愚痴の範囲を出ていない内容と語り口ばかりで、本書によって社会に対する理解が深まったり、見方を変えられるとは到底思えません。

全体的に、方向性としては社会全体が陥っている問題を的確にとらえており、2003年の書物としては先見性があるものの、それ以上の鋭さには欠ける著作という印象。

記録的な大ベストセラー作品はいったいどんなものか、という好奇心を満たすために手に取ったのですが、その欲求が「こんなものか」という感想とともに満たされただけでした。

評価は迷いなく2点(平均的な作品)です。それ以上でも以下でもないでしょう。

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