日本人の良いところは他人に優しくするところであり、お人好し過ぎる点が国際外交やビジネスの場面で仇になってしまうほど日本人は優しいのだ。
こうしたステレオタイプ的な日本人像は、特に日本人のあいだで長く語られてきた典型的日本人像であります。
(自分で自分たちのことを「優しい」と思っているなんて、個人的にはどうしようもなく気持ち悪いですが......)
東京オリンピックの招致やインバウンド需要取り込みのために近年では「おもてなし」の精神が強調される機会も多く、こうした日本人の自己像はますます強化されているのではないでしょうか。
そんな風潮に一石を投じた記事が「Yahoo!ニュース」に投じられたのは2019年10月のこと。
本書のプロローグもまた、この記事の紹介から始まります。
日本人は、本当のところ世界の中でも全然「優しくない」集団なのではないか。
そんな疑念を皮切りに、日本人の利他性/利己性を社会科学的に分析。
貧困問題とも絡めながら論じた著作となっております。
目次
プロローグ
序章 人にやさしくない、貧しい国ニッポン
第1章 他人を信頼しない日本人
第2章 そもそも、なぜ人は他人を助けるのか
第3章 日本人の社会参加
第4章 利己主義の社会的帰結
第5章 日本はベーシック・インカムを導入すべきか
感想
読み進めていく中で明らかになる本作のテーマは主に2つ。
表題にもなっている、日本人は他者に対して優しくないのではないかという点と、進行する日本の貧困化についてです。
前者については、上述した「世界人助け指数」以外の点でも、日本人の他者に対する冷たい心理的姿勢が近年統計上も明らかになってきていることが語られます。
まず第1章では、日本人が他者を心の底からは信頼していないこと、そして、他者との信頼関係構築を「ルール」に依拠した形でしか行えていないことが論じられます。
「たいていの人は信頼できると思いますか、それとも用心するにこしたことはないと思いますか?」という質問に対して、アメリカ人の47%が「たいていの人は信頼できる」と答えたのに対して、日本人でそう答えたのは僅か26%。
そんな日本社会が、それでも表面的平穏を保っているのはなぜか。
それは、相互監視的な仕組みを整え、逸脱者に制裁を科すようなシステムを確立していたり、あるいは、様々な「保証」をあいだに入れることで強引に信頼関係を構築しているからだと著者は説きます。
第2章と第3章では、日本人がどのような動機に基づいて他者を助けているのか、という点について論じられます。
第2章では「そもそも、なぜ人は他人を助けるのか」という章題の通り、人間が他者を無償で助けようとする動機一般と日本人との関係について分析が示されます。
そもそも他者を助けるための資源を持っている人が他者を助けるのだという「資源仮説」や、心理的共感を覚えたときに助けるのだという「共感仮説」、そして、信仰心の高低が影響するという「宗教仮説」といった仮説を挙げながら著者は検証を進めていくのですが、どれも日本人が他者に冷たい理由として完全にしっくりはこないよね、という論調で章は閉じられます。
(正確に申し上げると、「資源仮説」については「日本人は他国に比べてそれなりに豊かで『資源』を持っているが、近年は貧困化で『資源』がなくなってきている影響があるかもしれない」、「共感仮説」については「日本人は世界でも中位程度の共感力がある」、「宗教仮説」については「アメリカ人と比べれば宗教心は薄い」というそれぞれの結論が語られはします)
そして、第3章では、いわば「定住仮説」のような形で日本人の人助けの動機が論じられます。
第3章は「日本人の社会参加」という章題で、「社会参加」全般について分析される章なのですが、日本人はPTAや町内会のような地域組織への参加率が高く、学童の通学路パトロールといったボランティア活動が盛んで、子供が徒歩通学できる社会が構築されているという日本人の「人助け」や「協力」に対してポジティブな側面が示されます。
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