漫画 「聲の形」 大今良時 星3つ

聲の形
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1. 聲の形

2013年から2014年にかけて週刊少年マガジンで連載されていた作品。

小学校における聴覚障がい者への苛烈ないじめ描写から一時は読み切りすら掲載見送りとなりかけたものの、日本ろうあ協会の許可を経て読み切り掲載に漕ぎつけ、それが大反響を生んで連載へと辿り着いた作品となっています。

さらに、2016年に京都アニメーションによって製作されたアニメ映画が大ヒットし、本作のさらなる躍進に結びつきます。全七巻の社会派漫画としては異例の総発行部数300万部超となり、漫画史にその名前を残す作品となりました。アニメ映画版は本ブログでレビュー済みです。

個人的にも、いじめた側といじめられた側の再生物語として良作だと感じました。少年漫画の王道展開を敢えて避け、世の中の都合よくいかない側面、人間の嫌な部分を描き出そうとしている側面も高評価です。

2. あらすじ

主人公の石田将也(いしだ しょうや)は小学六年生。親友の島田一旗(しまだ かずき)や広瀬啓祐(ひろせ けいすけ)と一緒に悪ふざけをして過ごすことで活発な小学校生活を送っていた。

しかし、小学六年生というのはそんな「子供っぽいこと」から離れていく時期でもある。島田や広瀬が徐々に将也の悪ふざけ遊びから離れていくと、将也は日々に退屈を感じるようになっていく。

そんなある日、将也たちが所属するクラスに転校生がやって来た。彼女の名前は西宮硝子(にしみや しょうこ)。聴覚障がい者である硝子は筆談を使ってクラスメイトと意思疎通を図ろうとするも、耳が聞こえないことによって生み出される様々な「不都合」がクラスに不和を起こし、硝子へのいじめが始まってしまうことになる。

いじめの中心人物としてその刺激的な日々を楽しんでいた将也だったが、彼にもついに転落のときが訪れる。硝子へのいじめをテーマに学級会が開かれ、そこで、将也たちが壊したり隠したりした硝子の補聴器の金額が108万円に達することが告げられたのだ、

深刻な雰囲気のなか、担任教師とクラスメイトたちはいじめの責任を将也に押し付けていく。完全に立場が逆転し、翌日からいじめの対象になってしまった将也。

自らが犯した罪への罪悪感を背負いながら自らへ向けられたいじめの矛先を将也は甘受する。

そして、そんな過去を持ちながら高校生になった将也はアルバイト漬けの生活を送っていた。

ある日、将也はアルバイトを辞め、まとまったお金を引き出し、持ち物を売り、そのお金を実家に置いてある場所へと向かう。

将也がアルバイトを辞めてしまった理由とは、そして、将也が向かった場所、そこで出会う人物とは......。

3. 感想

映画版の感想でも描きましたが、第1巻をほぼ全巻使って描かれる苛烈ないじめ描写のリアリティが作品に深みを与えていますね。苦笑いするしかない硝子の、その苦笑いの奥にある痛みがひしひしと伝わってくるような表情の描き方が素晴らしいです。

また、将也の転落も現実味を持った劇的さで演出されています。

いままでしらなかった屈辱を感じて、そこで初めていじめられる側の気持ちが分かる将也。しかも将也の場合、いじめられる原因は本当に自分でつくりだしてしまったものなのですからいたたまれません。

そして、ここで感じるようになった劣等感と罪悪感が彼の人生を変えていくという展開が本作のポイントです。

特徴的な「過去」がある人物の生き方や性格を形成していくという描写は漫画全般でありがちですが、こういったいじめ描写が丁寧に描かれていることでとって付けた感がなく、生々しさを感じさせるのが本作に惹きこまれる理由でしょう。

そして、高校生になった将也と硝子が出会い、そこから関係性の再構築が行われ、かつての級友たちとも再会して絆を再構築していく過程が本作のとなっております。

かつて硝子を救おうとしたものの、その行動がきっかけとなり不登校にまで追い詰められた佐原みよこ、将也に気持ちを寄せていたにもかかわらず小学生のときには将也へのいじめを傍観していたことを悔いている植野直花(うえの なおか)、何事も自分に都合よく捉えて自分を騙し続けることで自尊心を保とうとする川井みき。

いじめという行為に向き合うとき、わたしたちの心の醜さが噴出するものです。加担してしまい、それでいて自分はやっていなかったと誤魔化そうとする人もいるでしょうし、真っ当に罪悪感を覚えながらも傍観してしまう人もいるでしょうし、いじめられている人物を助けようとして挫けてしまう人もいるでしょう。

そんな人物たちの葛藤や開き直りを上手く描き、完璧な人間も全てがダメな人間も出さないようにバランスを取りながら、そんな人々が一緒に過ごしていく中で衝突し、それでも折り合いをつけていくという人間ドラマの絶妙な均衡が面白いところです。

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