漫画 「ピンポン」 松本大洋 星2つ

ピンポン
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1. ピンポン

1996年から1997年までビッグコミックスピリッツで連載された卓球漫画です。長年にわたり根強い人気を誇る作品で、メディアミックスでは2002年に実写映画化、2014年にアニメ化、書籍としても2002年に新装版が発売、2012年に文庫版が発売、そして2014年にアニメ化記念の大判が発売されるなど、近年においてもその勢いは衰えておりません。著者の松本大洋さんも漫画好きのあいだでは知られた存在で、本作のほかに「鉄コン筋クリート」が代表作として挙げられることが多いです。

そんな作品なのですが、個人的には巷の高評価ほどの作品には感じられませんでした。確かに、独特な絵のタッチが醸し出す迫力のある試合風景は良いと感じましたが、なんといっても物語がいまいちなうえ、極端すぎるキャラクター造形がせっかくのリアリティ的良さを削いでいます。

2. あらすじ

主人公は"スマイル"こと月本誠(つきもと まこと)と"ペコ"こと星野裕(ほしの ゆたか)。二人は幼馴染であり、県立片瀬高校の1年生として同じ卓球部に所属している。しかし、練習嫌いのペコは部活をサボって遊んでいることが多く、スマイルも持ち前の無気力さから練習に熱が入っておらず、相手の気持ちを慮るあまり闘争心にも欠けている。

そんなある日、二人は卓球専門誌であるニュースを見つける。県内の古豪、辻堂学院が強化策として卓球強豪国である中国の上海ジュニアから留学生を招いたというのだ。興味をそそられたペコがスマイルを誘い、二人は辻堂学院の体育館に忍び込む。しかし、辻堂学院卓球部の部員たちはランニング中で体育館を空けており、噂の中国人留学生の姿も見当たらない。仕方なく空いている卓球台で試合を始める二人だが、その音を体育館の外で聞いている者がいた。彼こそ上海ジュニアからの留学生である孔文革(コウ ウェンガ)。

「カットマンはわざと負けてるな」

速攻を得意とするペコとカット主体のスマイルの試合はペコ優勢で進んでいたが、孔はスマイルがペコにわざと勝利を譲っていることを見抜いたのだった。

その後、体育館へと現れた孔はスマイルに試合を申し込もうとするのだが、成り行きでペコと対戦することになり、ペコは1点も獲れずに完封されてしまう。

スマイルの才能に着目しているのは孔ばかりではない。片瀬高校卓球部顧問の小泉丈(こいずみ じょう)、県下一の実力校である海王学園主将の風間竜(かざま りゅう)など、実力者たちはこぞってスマイルの才能を褒めたたえるのだった。

しかし、当の月本はいっこうにやる気を見せない。そんな月本に対し、小泉はなんとかしてハードな練習をして欲しいと考えるのだが......。

3. 感想

独特の画風に最初はコマを追いにくいなと思いましたが、目が慣れてくるとむしろ登場人物たちの動きが普通の漫画よりも生々しく伝わってくるようになります。迫力のある卓球の試合を描く、という行為は素人目に見ても難しいものに思いますが、その点は非常によく描けており、特に最終巻のインターハイ予選の試合は全てが見ごたえのある描写になっております。

しかしながら、それ以外の点にはかなり不満が残りました。

スマイルとペコという、才能に溢れているがやる気に欠ける二人がそれぞれのきっかけを得て卓球に対して情熱的に取り組むようになり、猛特訓によりその才能を開花させてライバルたちを倒していく、というのがメインストーリーなのですが、なにより「才能に溢れているがやる気に欠ける」なんていう気障ったらしい設定はあまり多くの人の共感を得ないでしょう。元々、素晴らしい才能を持っているというだけでも一般人からかけ離れているというのに、それでいて遊び人系や無気力系なんて、俗に言う「中二病」設定に近いものがあります。

もちろん、二人が強敵を倒せるようになるのは自分の甘さや敗北の悔しさをきっかけとした数か月の猛特訓によるものであり、特訓描写も非常に勢いはあります。しかし、それだけに単純すぎるというか、ひたすらハードな練習をすれば才能が勝手に補助して強くなってくれるという描写になっていて、そこにあっと思わせるような工夫だったり、壁を打ち破れない自分への葛藤(スポーツにおける実力停滞期)のようなエピソードがないために主人公二人からは人間性が消えてしまい、まるでロボットのように見えてしまいます。汗臭いのは画風だけで、心が汗をかいている様子が伺えないのです。さすがに1990年代後半の作品なのですから、猛特訓したら強くなりました、で終わられてしまうのは困ります。フィクション作品のキャラクターに思考停止の努力をさせることは簡単なのです。それ以上の何か、現実を生きる人間の心を掴む物語の要素としての努力になっていなければ感動は生まれません。

加えて、キャラクターもやや性格造形が極端すぎますし、高校生の物語であるはずなのに、一人称が"私"や"儂"の人物が出てきたり、やたらに古風な口調で話すなど、「キャラ付け」があまりにも昭和です。ギャグマンガぽく見えてしまって、リアリティがなく感情移入できないのはもちろんのこと、真剣勝負が見どころである本作の魅力を削いでしまっています。まるで本当に目の前にその人物がいるように感じさせるような、それくらいのリアリティがあってこそ、生々しい描写を特徴とする画風は意味があるのです。

4. 結論

画力で誤魔化せている部分はありますが、それでも物語構成と人物造形の稚拙さは否めません。物語的には星1つですが、試合そのものの迫力を考慮して星2つとします。

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