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【戦場と友情】映画 「戦場のメリークリスマス」 監督:大島渚 星4つ

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戦場のメリークリスマス
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1. 戦場のメリークリスマス

第2次世界大戦下の日本軍俘虜収容所を舞台に、日本軍の士官・下士官と俘虜となっている英軍士官との奇妙な友情を描いた作品。

1983年公開で、カンヌ国際映画祭のパルム・ドール最有力という下馬評ながら受賞を逃してしまったエピソードでも有名です。

それでも、海外では英国アカデミー賞の作曲賞を受賞。

国内でも毎日映画コンクールや日本アカデミー賞といった賞を獲得しており、いまなお名作日本映画として記憶されている作品の一つです。

戦時下の太平洋という舞台の特殊性から日英豪NZ合作となっていることもさることながら、本作の特徴といえばまずもってその特殊なキャスティングにあるでしょう。

主演格の4人のうち3人が本職の役者ではないのです。

その3人というのが、当時ミュージシャンとして有名だったデヴィッド・ボウイ、イエローマジックオーケストラというバンドのメンバーとして活躍していた坂本龍一、ツービートという漫才コンビの片割れとして活躍していたビートたけし。

その名前を見るだけでも極めて異色の配役であることが理解できます。

他にも、ロックシンガーとして有名な内田裕也、フォークシンガーとして有名なジョニー大倉も出演しており、音楽界隈からの起用が多くなっております。

テーマ曲であり劇中BGMとして使われる「戦場のメリークリスマス」は坂本龍一の作曲で、まさに面目躍如といったところでしょう。

更に、大島渚も映画通のあいだでは有名な監督です。

「青春残酷物語」「愛のコリーダ」などの実験的で過激な作風で知られており、本作にもその特徴的な「愛憎劇」の手法が効果的に用いられております。

そんな、あらゆる面で特異だと言える本作。

その異形さが光る感動的な作品でした。

デヴィッド・ボウイ (出演), トム・コンティ (出演), 大島渚 (監督)

2. あらすじ

日本統治下にある太平洋のとある島。

そこには俘虜収容所が設けられ、日本軍の俘虜となった連合国の軍人たちが収容されていた。

そんな俘虜収容所に設けられた裁判所では、英国軍人ジャック・セリアズ少佐を被告とした軍事裁判が行われている。

国際法は遵守されず、弁護人による弁護もないまま、死刑を言い渡されるセリアズ少佐。

裁判官の一人として参加していたヨノイ大尉はセリアズの真摯な態度に惹かれて裁判長に再考を促すものの、ヨノイの申し出は受け入れられない。

しかし、どうしてもセリアズを助けたいヨノイは死刑執行に伴いある行動に出る。

そんな軍事裁判の一方で、収容所内では別の事件も発生していた。

軍属朝鮮人のカネモトが捕虜のオランダ軍兵士であるデ・ヨンを犯したのだという。

事態を聞きつけてやって来たのは粗暴野卑な振る舞いで知られるハラ軍曹と収容所で通訳を担っているジョン・ローレンス中佐。

カネモトへの切腹を迫るハラをローレンスは止めようとするのだが……。

敵と味方、西洋と東洋、強者と弱者。

異なる立場・異なる文化が交わる濃密な空間で繰り広げられる鮮烈な友情の物語。

3. 感想

久しぶりに素晴らしい映画を観ました。

本作は2つの友情が軸となって物語が進行します。

1つはセリアズ少佐とヨノイ大尉の友情。

もう一つはローレンス中佐とハラ軍曹の友情です。

セリアズ少佐とヨノイ大尉の友情はなんといっても、セリアズ少佐が体現する「西洋・キリスト教・騎士道」の精神に惹かれ葛藤するヨノイ大尉の苦悩が見どころでしょう。

不正な裁判でも死を恐れず堂々と振舞い、真実を話し、卑劣な裁判のやり方を批難するセリアズの姿に感服を受けたヨノイは、空砲による死刑執行をもってセリアズの命を助けます。

しかし、そんなことがあったからといってセリアズはヨノイに対して慇懃になったりはしません。

デ・ヨンの死に際しては花を摘んでそのベッドに撒き、鎮魂歌の合唱を主導するなど、日本軍が押し付けようとする抑圧的な秩序に対して常に人間性を重んじた反抗を続けます。

ヨノイはセリアズのそんな姿を目の当たりにして動揺しますが、自らの日本人としての芯を失うまいとして「行」や「気合」で乗り切ろうとするのです。

そんな中で訪れるのが本作を代表する名シーン。

俘虜の代表であるヒックスリー俘虜長に対して俘虜の中で兵器の知識に長けた者をリストアップするようヨノイが再三命じていることが物語冒頭から描かれるのですが、それがいつまでたっても履行されないためにヨノイは激昂し、全捕虜を広場に呼び出すようヒックスリーに命じます。傷病人については断ろうとするヒックスリーに対して無理強いして傷病人までもを呼び出させ、結果、広場で一人が倒れて死んでしまいます。

そして、抗議するヒックスリーを切り捨てようとするヨノイの前にセリアズが立ち、ヨノイにキスすると、ヨノイは失神してしまうのです。

それはまさに、セリアズがこれまでヨノイに対して見せてきた振る舞いの集大成。

そこにほとばしる温かな人間性を受け止めきれず、ヨノイは気を失ってしまったのでしょう。

現代よりも厳格な倫理観を求められていた時代において、人一倍日本人として厳格であろうとし続けてきたヨノイにとって、公衆の面前でキスをされるということの衝撃は凄まじいものに違いありません。

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