教養書 「現代日本の官僚制」 曽我謙悟 星4つ

現代日本の官僚制
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1. 現代日本の官僚制

日本を代表する行政学者の一人、曽我京大教授の著書です。

統計学的手法を駆使し、政治制度が官僚制に与える影響を分析するというあまりこれまでには見られなかった試みがなされております。

モデルやデータの取り方、相関関係をあまりに重視しすぎた論考には疑問点もありますが、このような手法で政治を分析するやり方はたいへん面白いと感じました。

2. 感想

本書では、第三章までで曽我教授の主張したい官僚制説明のモデル的考え方が示され、第五章、第六章では国際比較の中で、第六章以降では日本の官僚制を分析していく中でそのモデルの有効性が論証されていきます。

モデルを作成するにあたり、曽我教授はまず二つの概念に注目します。それは、「分立」と「統合」です。「分立」というのは、官僚制内でどれだけ専門分野が細分化されているかを表しており、この本では疑似的に省庁の数で示されています。

分立すればするほど官僚は各個別の政策・利益に着目するようになり、専門性も上がります。しかし、分立しすぎると省庁間で矛盾した政策をとらないような調整の労力が大きくなり、全体として政策遂行の効率性を下げてしまいます。

一方、「統合」というのは、執政長官(=大統領or首相)や内閣がその直属機関(日本だと内閣府・内閣官房)を通じて行う省庁間の調整のことで、この力が強ければ強いほど矛盾しない政策をパッケージとして効率よく遂行することができます。

この「分立」と「統合」の強さが、政治制度の組み合わせで決まる、つまり、「議院内閣制or大統領制」と「小選挙区制or比例代表制」の4パターンから決定されるというのが曽我教授の主張です。

例えば、「議院内閣制+比例代表制」を考えます。基本は連立政権になるので、各政党は二分の一以上の確率で与党になれます。しかし、首相ポストを得られる確率は常に二分の一未満です。そうなると、自党の利益を最大化するには、高確率で獲れる大臣ポストの権限強化が肝要です。必然的に、「分立」が弱め、「統合」も弱めになります。なぜなら、省庁数を減らせば大臣一人当たりの権限が広く強くなりますし、首相による調整をさせなければ、大臣にフリーハンドを与えられるからです。

また、曽我教授は「政治任用」と「技能投資」という官僚の行動も政治制度で決定されると主張します。

例として、「大統領制+小選挙区制」を挙げましょう。

大統領と議会は別個の選挙で選ばれるため、両者の選好が一致するとは限りません。官僚制はこの間に立って、自身の選好を追い求めることができます。しかし、官僚制の選好が議会の選好とあまりにも遠ければ、議会は官僚制の権限を小さくしようとします。とはいえ、議会も政策の質を気にしています。議会でなんでも決めた結果、政策の質が下がっては自分たちの次回選挙へ影響します。そして、小選挙区制の場合、議会は強力で、官僚への依存度が低いと言えます。なぜなら、単独の政党が過半数を獲得しており、意思や政策志向を統一し、自ら調査・研究して法律を立案・可決する能力が高いからです。ゆえに、官僚の能力がよほど高い(=とんでもない技能投資を行う)場合を除き、官僚の権限を小さくします。

一方、大統領の側の行動はどうでしょうか。

「大統領制+小選挙区制」下では「統合」が強めになることが予測されるため、大統領には政策(の統合・遂行)に対するアカウンタビリティが強く求められます。結果として、大統領は政治任用を多く行い、自らの選好に近い者を官僚制に送り込もうとします。この条件下にあっては、官僚は技能投資のインセンティブを失ってしまいます。頑張っても議会から権限を広げてもらえる可能性は低く、大統領は政治任用を好んでしまうからです。

このようなモデルが有用といえるか否か。

第四章から論証が始まります。

第四章では、各国の大臣数、省庁数、行政中枢の権限や職員数と政治制度に相関関係があることがデータで示されます。

第五章では、政治任用について同様の相関関係が示されます。

第六章からはついに日本の官僚制への着目が始まります。選挙制度が変わっていく中で、曽我教授のモデル通り、官僚制に変化があったのか否かが中心に論じられます。

省庁再編による「分立」の低下、内閣府・内閣官房強化による「統合」強化がモデル通りであり、また、日本の官僚が技能投資を積極的に行い、質を向上させることで政治任用を回避してきたという行動も過去のデータによって統計的に分析されていきます。

その結果が、質は高いものの、国民の代表性(ex女性の比率)に乏しい官僚制の完成というわけです。

感想としては、上述のモデルは説得力があり、膨大なデータセットからの分析はある程度説得力を持っていますが、広くカバーしようとしすぎたぶん、やや分析が雑になり説得力に欠けるところがあると思いました。

例えば、「分立」にしても、省庁の数だけでなくその中の「局」や「課」の配置や数が影響してくるでしょうし、官僚の代表性を「女性比率」だけで括ってしまうのは大雑把すぎるでしょう。

また、次官の交代周期が政治介入を阻むための動きだということも、因果関係の薄さとデータの少なさから疑問を持たざるをえませんでした。ただ、データの大雑把さや、分析する際のざっくり感は曽我教授も本著内で認めているところではあります。

極めて革新的で、しかし、この本を土台にしたより細かい分野ごとでの分析が待たれるような、そんな本でした。

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