小説 「きみはいい子」 中脇初枝 星1つ

きみはいい子
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1. きみはいい子

「世界の果てのこどもたち」で2016年本屋大賞3位を獲得した、いまを時めく中脇初枝さんの中編集です。

本作も坪田譲二文学賞や本屋大賞4位など華々しい受賞歴を持っており、題材の社会性や深刻さなどは理解できるのですが、どうにも小説としての魅力には欠けるように思われました。

2. あらすじ

親子関係や教育を題材にした中編集。

・.サンタさんの来ない家
若手小学校教師、岡野匡は二年連続でクラスを学級崩壊させてしまっていた 。ある日、休日出勤していた岡野はうさぎ小屋の前で立ちすくむ生徒、神田さんを見つける。神田さんは給食費を払っておらず、クラスでもそのことでいじめに遭っていた。休日なのにうさぎ小屋の前にいる神田さんを問いただすと、父親に5時まで帰ってくるなと言われ、日常的に暴力を振るわれているようだった。神田さんを家まで送っていった岡野はその父親に出会うのだが......。

・べっぴんさん
「あたし」はよく公園に娘のあやねを遊びに連れていく。そこに集まるママ友たちはいつもニコニコしているが、裏では「わたし」同様子供をぶったり叩いたりしているに違いない。そんなママたちの中で異色の存在がはなちゃんママである。野暮ったいはなちゃんママに「あたし」は内心イライラしていたが、笑顔を取り繕っていた。そんなある日、「あたし」とあやねは、はなちゃんママ宅を訪れることになる。カップを割ってしまったあやねは反射的に頭をかばって泣き出す。狼狽した「あたし」に、はなちゃんママは言う。「虐待されてたんでしょ? 辛かったね。あたしもだよ」

その他、虐待、障がいなどをテーマにした3篇を収録。

3. 感想

一つ一つの話はたしかに「ありそう」でしかも深刻で、やりきれない話ではあります。もし、ノンフィクションとして出版されていたのなら(そういったルポタージュは多くあります)、社会問題を知るうえで重要な著作になっていたでしょう。

しかし、その点で本作に高い点数を与えることはできません。小説はあくまで、全部「ウソ」なのです。そのうえで、もしくは、だからこそ、「ウソ」であることを活かして人間の心理や社会の問題のこみいったところを切り取らなければなりません。

例えば、「ドラえもん」は良い例です。ドラえもんがのび太くんに供給する道具は、どんなに科学が進歩しても発明できないんじゃないかと思えるくらい、明らかに現実には存在しえない代物ばかりです。

当然、その効果は非常に大きく、のび太くんは毎回つかのまの万能感や征服欲の充足に浸ります。しかし、欲望のままにその道具を使っていくことが意外な結果を生み出し、最終的にはのび太くんにしっぺ返しを食らわせるのです。

反面、映画やスペシャル回において、のび太くんが自分の頭で考え道具を私欲ではなく他人の利益のため(正義のため)に使ったときその結果はのび太くんをも幸福にします。

また、何らかの事情で道具が使えない事態に陥ったとき、のび太くんやその仲間たちは協力し、智慧を絞ります。その結果は、道具を使った時よりも何倍も良かったりします。「便利で何でもできるひみつ道具」というウソを使うことで、人間心理の奇妙だが魅力的な側面を掘り出したり、現実に存在する知恵や友情、義侠心の価値を効果的に強調しているのです。

この、「ウソ」という欠点を補って有り余る楽しさがあるか、もしくは、「ウソ」を活かした作品であるか、そのどちらかでなければ、小説とはおよそ呼べないと思います。つまり、「ウソ」だと割り切ってもなお面白いのが普通以上の小説であり、「ウソ」だからこそ面白いのが良い小説であると言えるでしょう。

その点、本作はただありそうな虐待等の事例をそれっぽく並べ立てただけです。登場人物たちの心理変化も終始平凡なもので、あっと驚く、心の間隙を衝かれるような展開はまるでありません。これを買うくらいなら、虐待や障がい、介護を現実の社会問題として取り上げている書籍を買った方が良いでしょう。

そういった書籍に記載されていることは少なくとも、ただ事実であるということでこの小説の全てを上回っています。それくらい、「創った」意味のない小説です。

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