【波乱の法廷サスペンス】小説「推定無罪」スコット・トゥロー 評価:3点【海外ミステリ】

推定無罪

現役弁護士にして元検事補、作家としても活躍するスコット・トゥローの代表作。

ニューヨーク・タイムズの年間ベストセラーリストでは1987年の7位に入り、映画も2億ドル以上の興行収入を得るなど、当時の大ヒット作となった小説です。

殺人事件の捜査をしている主席検事補の主人公が、なんとその殺人事件の容疑者として起訴されてしまうという物語。

真犯人は誰なのか、というミステリ的な側面はもちろんのこと、米国独特の司法制度のもとで行われる劇的な裁判の展開や、汚職や不倫といったドロドロ要素溢れるサスペンスが興奮をそそります。

スコット・トゥロー (著), 上田 公子 (翻訳)
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あらすじ

舞台はアメリカの田舎町であるキンドル郡。

地方検事局のトップを務める地方検事を決める選挙の真っ最中であり、現職のレイモンド・ホーガンと新人の二コ・デラ・ガーディアとの選挙戦は大接戦となっている。

そんな折、キンドル郡及び郡地方検事局を揺るがす殺人事件が発生してしまう。

キャロリン・ポルヒーマス検事補が何者かに殺害されてしまったのだ。

この事件を見事解決に導いて得点稼ぎをしたいレイモンドは、腹心の部下であるラスティ・サビッチ主席検事補を捜査の担当とする。

意気揚々と捜査に当たるラスティだが、あまりに難解な事件であり、解決の糸口さえ見いだせない。

そのまま選挙戦が終わり、二コの当選が決まった直後、ラスティに重々しい宣告がなされる。

二コ率いる新生検事局が、ラスティを被告として起訴するというのだ……。

感想

大人のサスペンス小説といった雰囲気の作品で、良質なドラマを観ているように惹き込まれていきました。

地方検事の座を巡る選挙に自分の庇護者が出馬しており、そのサポートをせざるを得ない主人公のサビッチ。

そして、庇護者が敗れた瞬間に勝者側から起訴されるという、あまりにも人間臭い展開から物語の端緒は開きます。

そんな序盤の成り行きからも分かるとおり、愛憎乱れる人間関係の捻じれこそが本書の魅力。。

殺されたキャロリンが「下半身」を使って出世した人物であり、様々な人物と関係を持っていたこと。

公明正大だと評判で、サビッチも尊敬の眼差しで見ていたラレン・リトル判事の黒歴史的な過去。

腐敗と不手際、乱れた性愛が蔓延し、その機能低下が著しい地方検事局の生々しい実態。

大人の世界における現実的な設定の数々が巧妙に絡み合い、裁判の行方が二転三転していく光景にはドキドキが止まりません。

また、想像以上にインタラクティブでダイナミックなアメリカ式裁判も新鮮な驚きをもたらしてくれます。

陪審員を選ぶ際、まず陪審員候補を判事が尋問し、不適格な候補を検察側と弁護側がそれぞれ数名ずつ弾くことができるなど、制度がもたらす心理的駆け引きが裁判の興奮を引き立てます。

最終的には陪審員たちの一存で裁判結果が決まるため、弁護側も検察側も、まるで政治家のような立ち振る舞いで陪審員たちの説得を試みます。

その描写は想像以上に情熱的で、意外性があります。

裁判と言えば、もっと淡々としているものを想像していましたから。

特に、敏腕として描かれるスターン弁護士が巧みな弁舌と精緻な論理を用いながら劣勢を逆転していく過程にはワクワクを抑えられません。

陪審員の心情が移り変わっていく様子や、検察側の狼狽もその描写が上手く、まさに名手が書いた小説だと言えるでしょう。

原著を読んだことがないので確たることは言えませんが、翻訳も見事なのだと思います。

また、エリートである主席検事補という立場から一転、殺人容疑者に仕立て上げられてしまった主人公サビッチの心理描写も巧妙で、純文学作品の様相すらあります。

街の人々の冷たい視線、肩身の狭い生活、ぎくしゃくする夫婦関係、それでも自分を信じてくれる息子への愛情。

「背負ってきたもの」を持つ人物として描かれる主人公、社会的立場を一瞬にして失った中年男性という絶望。

どちらかというと青春小説優位と思われる日本の小説界隈ではあまり描かれることのない(日本の小説では中年男性が主人公であっても青春小説風味に書かれることが多いですよね)、渋くて痛切な描写も本作の魅力です。

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