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「涼宮ハルヒの憂鬱」谷川流 評価:4点|独特な語り口と突飛な設定から生まれるエンタメの中に文学的テーマ性を潜ませたゼロ年代オタク界隈の金字塔作品【ライトノベル】

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涼宮ハルヒの憂鬱
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2000年代に少しでも「オタク界隈」に触れていた人で、本作のタイトルを知らない人はいないでしょう。

大ヒットしたアニメの効果もあり、シリーズ累計発行部数は2000万部超。

これを既刊12巻で割ると1巻あたり約167万部ですから、その凄まじさが分かるというもの。

均せば12巻連続でミリオンセラーなんて記録は、日本の文芸界において後にも先にも本作だけなのではないでしょうか。

ライトノベルが隆盛を極め、エンタメ文芸の本流に立つのではという評価さえあった時期に出現した、まさに「ライトノベル」というジャンルを代表する作品の一つである本作。

それでいて、「ライトノベル」といえば異世界ファンタジーか露骨なラブコメディが主流だった状況において、SF要素を加味したジュブナイル青春学園モノとして登場した異端作でもあります。

しかも、ライトノベル的なエンタメ要素を備えながらも、世の中や人生に対する洞察という文学的な側面も持ち合わせている作品としても評価されたという、純文学としても一般エンタメ小説としてもライトノベルとしても異端でありながら、そのテーマの普遍性と深さによって様々な界隈に考察と評論の嵐を巻き起こした文芸界の風雲児でもありました。

そんな本作が持つ魅力は散々インターネットで語り尽くされてきたわけで、本記事に記載する内容もいつか誰かが既に語り終えている事柄の集合になってしまうのでしょう。

それでも、あのゼロ年代を文学少年として駆け抜けた身としては、本作のレビュー記事を書かずにはいられないのです。

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あらすじ

主人公は「キョン」という綽名で呼ばれる高校一年生。

最寄駅を出てから長い坂を登った先にある「北高」が彼の通う高校である。

登校初日、ホームルームの時間は生徒による自己紹介というありきたりな流れに突入していた。

しかし、こに時間こそが全ての始まりとなる。

キョンが無難な自己紹介を終えた直後、キョンの後ろに座っていた女子生徒が立ち上がり、こう宣言したのである。

「東中出身、涼宮すずみやハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上。」

全員が呆然とするなか、それがさも当たり前であるという態度で着席した涼宮ハルヒという同級生。

こんな変わり者とは縁のない学園生活を送ることになるだろう。

キョンの予想兼願望は見事に外れ、キョンはハルヒが創設した謎の団体「SOS団」に加入することになってしまったのだ。

自分勝手に謎団体を立ち上げたって、お前を楽しませるような不思議事象が起こるはずもないんだよ。

そう「常識的に」考えるキョンだったが、SOS団に集結したのはなんと、本物の宇宙人、未来人、超能力者という面子で......。

非常識なことなんて起こりっこないし、そんなことが起こる人生なんて御免こうむる。

そんな「建前」をさも「本音」かのように語って生きてきた凡人読者に対して与えられる強烈な心理的一撃による衝撃と、青春の日々が生み出す喜びと切なさに飲まれること間違いなしの名作ライトノベル。

感想

本作を読み始めてまず驚くのは、独特の語り口でしょう。

いわゆる一人称単数視点で著されている小説なのですが、主人公であるキョンの一人称というのは口語をそのまま印字したような非常にくだけた語り口になっていて、いま読むと「いかにもライトノベル的だな」と思わされます。

しかし、何を隠そう、このくだけた口語一人称単数の始祖となったのが本作なのです。

というか、ライトノベルという括りにこだわらずとも、このくだけた一人称による語りという方法自体が日本の近現代文学には見受けられない手法であり、結果的に、本作が著名な作品としては初めてこの方法を採用した作品となったのではないでしょうか。

しかも、本作における語り口の特徴は単に「くだけている」のみに留まりません。

本作がこの「くだけた口語」という語り口を最大に生かしているのは、地の文において、キョンの心の中だけで語られた事柄と、キョンが実際に発言した事柄を故意に混合している点です。

それゆえ、キョン以外の登場人物がキョンの思考が滲み出た地の文に対して「」付きで返答をすることで、いまの地の文はキョンがその内容を発言したんだなと分かるようになっています。

一見、まどろっこしい手法に見えるのですが、「だから俺はこう言った『......』」の「だから俺はこう言った」という部分がごっそりと省略される効果によって劇的にテンポが良くなっているんですよね。

文章を過度に短くしたり、難解な表現を(それが必要と思われる場面でさえ)避けることによって、つまり小説としてのレベルを下げることによって強引に良テンポを達成しようとするのではなく、口語的な一人称が似合う作風(男子高校生主人公の学園青春譚)で口語的な一人称を採用し、そのうえで口語的な表現の良さをさらに拡張することで、何も犠牲にしないどころか本作独自のテンポ感と呼べるものさえ生み出しながら文章を圧縮しているのです。

まさに、「ライトノベル」という舞台に現れた新しい「文学」といって差し支えない美点が1ページ目の1行目から現れるそのインパクトには驚愕間違いないでしょう。

物語の内容面に視点を移しますと、本作は物語の始動が非常に早く、最序盤からワクワクさせられるような展開が続々とやってくるという点において、エンタメ小説の王道的面白さを備えた作品であり、読み始めるとすぐにSOS団員たちとキョンが織り成す波乱万丈の世界にのめり込んでいくことになります。

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