2022年5月13日に公開された邦画で、主演は広瀬すずと松坂桃李。
脇役も横浜流星や多部未華子といった著名な俳優で固められており、力の入っている作品だといえるでしょう。
原作は凪良ゆうさんの同名小説であり、第17回本屋大賞受賞作にして累計発行部数80万部突破の人気作。
かつて誘拐犯と誘拐された少女という立場だった二人が十五年後に再開を果たし、友情とも恋情とも違った関係をあの頃と同じように取り結んでいくという不思議な物語の大枠自体は原作準拠のようです。
そんな本作ですが、少なくとも映画の方はイマイチな出来だったと言わざるを得ないのではないでしょうか。
いわゆる「盛り上がる」ような題材の作品ではなく、たおやかな雰囲気にならざるを得ない作風とはいえ、さすがに映画鑑賞体験として「盛り上がり」を感じられる場面が皆無に近く、だからといって「ぐっとくる」ような場面もなかったというのが正直なところです。
一般的には理解を得づらいはずの二人の関係を、いかに「あり得る」魅力的な関係として描き出すかというのが本作の肝となり得るはずですが、そこの説得力には欠けるばかりで、誰が本作に共感するんだろうと思ってしまいました。
もっと登場人物の内心を掘り下げ、それぞれの抱える想いを赤裸々にすることで「あり得ない」関係への共感を巧妙に誘うか、それができないのであれば、一般的なヒット作がそうであるように何らかの「見せ場」をつくるべきだったと感じました。
あらすじ
小学生の家内更紗は従兄にあたる人物から性的虐待を受けており、家に帰りたくないため放課後はいつも公園で過ごしていた。
両親を失って身寄りがない更紗は伯母の家に引き取られている身分であり、伯母の息子である従兄の蛮行にも抵抗できない立場にある。
ある日、雨が降りしきる中、公園で過ごす更紗は濡れた身体のまま佇むことしかできない。
そんな更紗に声をかけたのは、佐伯文という青年。
文の家に身を寄せることになった更紗はそこで幸福な日々を過ごすのだが、世間から見れば単なる誘拐事件であり、ついに文は逮捕され、更紗は戻りたくないあの家へと戻ることになってしまう。
事件から十五年後、社会人となった更紗は中瀬亮という同世代の青年と同棲をしつつ、アルバイトで生計を立てていた。
しかし、亮との結婚も現実的になり始めた頃合で、更紗は文と再開を果してしまう。
地味な建物の二階でひっそりと営業されているカフェのマスター。
そんな人物として目の前に現れた文のことを、更紗は意識せずにはいられない。
亮との関係、世間の視線、それでもなお想いあう二人を待ち受ける運命とは......。
感想
設定は面白い一方で、そこから派生する物語に魅力が感じられなかった作品です。
性的虐待が行われる場所でしかない帰るべき家と、自分に優しくしてくれる青年が迎えてくれる、帰るべきでない家。
少女がどちらに居つきたいかといえば、それはもちろん後者でしょう。
世間の見方と少女の感情に相克があり、法律や犯罪という抗いがたい「社会」による制裁が二人を引き離す。
ここまでは物語の始点としてなかなか良いなと思いました。
そして、十五年後の更紗が登場し、現在の彼女に纏わる設定が明かされていく局面もまだ楽しめます。
彼氏と同棲しながらアルバイトで生計を立てているという生き方にはなかなかリアリティがありますし、その彼氏がイケメンだけれどDV気質であるというのも興があります。
どこまでも「厄介な男」から逃れられない、そういう男を引き寄せてしまう女性っていますよね。
ただ、ここからの展開があまりに凡庸過ぎて萎えました。
更紗がカフェに通うようになり、マスターである男目当てだと見抜いた彼氏の亮は激高する。
そして、亮は二人の恋路を妨害するべく、文の過去を暴露しつつ現在の居場所を明るみに出すような投稿をSNS上で行う。
亮の工作によって更紗と文は追い込まれてゆくものの、二人を結ぶ特別な絆は変わらず、紆余曲折を経て。二人は街を出ることを決意する。
なんというか、観客は文と更紗が主役だということを知らされたうえで映画を観ているのですから、最後はなんだかんだこの二人が「くっつく」だろうと思っているわけです。
そうなれば、亮が更紗の浮気に対して怒り狂い、それがきっかけで更紗と亮が別れるという展開は意外でも何でもなく、誰だって既定路線だと感じるでしょう。
文と更紗が追い込まれていく過程も、また性懲りもなく文が小さな女の子を預かる(更紗のアルバイト先の同僚がその彼氏と蒸発し、残された娘を引き取る)というもので、更紗を「誘拐」して最終的に逮捕された過程と同じ過程を踏むだけという展開。
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