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「昭和史 1926-1945」半藤一利 評価:4点|バランスの取れた筆致で激動の時代を描いた読みやすい通史の前編【日本史】

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昭和史 1926-1945
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文藝春秋社でジャーナリストとして長く勤めた半藤一利さんによる、名前もそのまま、昭和時代の歴史について通史的に著した書籍です。

半藤さんは1930年の生まれで、2021年に亡くなられています。

本作は2004年に出版されており、太平洋戦争を中心に昭和史を研究し続けた半藤さんの集大成的な作品だと言えるでしょう。

ずいぶん大きく出たタイトルであり、わたしも手に取る前は極論や決めつけだらけの俗物本であることを危惧していたのですが、実際に読んでみると、講義形式で語りかけてくるような文体でありながら内容は網羅的で深みもあり、主に政治と戦争の面から昭和という時代に何があったのかを学びたい際には最初の一冊として断然お薦めできる書籍でした。

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目次

はじめの章 昭和史の根底には“赤い夕陽の満州”があった―日露戦争に勝った意味
第一章 昭和は“陰謀”と“魔法の杖”で開幕した―張作霖爆殺と統帥権干犯
第二章 昭和がダメになったスタートの満州事変―関東軍の野望、満州国の建国
第三章 満州国は日本を“栄光ある孤立”に導いた―五・一五事件から国際連盟脱退まで
第四章 軍国主義への道はかく整備されていく―陸軍の派閥争い、天皇機関説
第五章 二・二六事件の眼目は「宮城占拠計画」にあった―大股で戦争体制へ
第六章 日中戦争・旗行列提灯行列の波は続いたが…―盧溝橋事件、南京事件
第七章 政府も軍部も強気一点張り、そしてノモンハン―軍縮脱退、国家総動員法
第八章 第二次大戦の勃発があらゆる問題を吹き飛ばした―米英との対立、ドイツへの接近
第九章 なぜ海軍は三国同盟をイエスと言ったか―ひた走る軍事国家への道
第十章 独ソの政略に振り回されるなか、南進論の大合唱―ドイツのソ連進攻
第十一章 四つの御前会議、かくて戦争は決断された―太平洋戦争開戦前夜
第十二章 栄光から悲惨へ、その逆転はあまりにも早かった―つかの間の「連勝」
第十三章 大日本帝国にもはや勝機がなくなって…―ガダルカナル、インパール、サイパンの悲劇から特攻隊出撃へ
第十四章 日本降伏を前に、駆け引きに狂奔する米国とソ連―ヤルタ会談、東京大空襲、沖縄本島決戦、そしてドイツ降伏
第十五章 「堪ヘ難キヲ堪ヘ、忍ビ難キヲ忍ビ…」―ポツダム宣言受諾、終戦
むすびの章三百十万の死者が語りかけてくれるものは?―昭和史二十年の教訓
こぼればなし ノモンハン事件から学ぶもの

感想

昭和の時代は1926年、第一次世界大戦時の好景気が終わり、不況の中で軍部が政治的に台頭するあたりから始まります。

その後の1930年代といえば日中戦争の拡大によって日本が泥沼の戦争へと足を踏み入れていく過程であり、無謀な対米英戦争へと突入していくきっかけとなった、まさに「軍靴の足音」が聞こえてくるような、反省すべき年代として扱われることの多い年代でしょう。

1940年代といえばもちろん太平洋戦争の時代であって、本書は昭和史の前半部分としてポツダム宣言受諾による無条件降伏までが扱われております。

この1926-1945年の政治的軍事的出来事を通史的に、ある程度コンパクトに述べようとするにあたって障害となるのは、なにより、イデオロギー的な対立を濃密に含む解釈の違いが人によって大きいことでしょう。

その点における本作の特徴は、ピックアップする出来事をその扱い方の濃淡としても凡そ高校の教科書的に近い形で選出しつつ、各出来事や出来事間の繋がりについて、なるほど、このあたりの歴史というのは「一般的に」このように解釈されてきたのだろうと思えるような、共通一次/センター試験/共通テストでそれなりの点数が要求され、かつ一定水準以上の学科の二次試験を課すような大学を出ている方々に読んでもらえれば概ね違和感なく理解・納得できるような、上手なバランス感覚で昭和史を著述しているところにあります。

保守的で右翼的な方々からすれば「自虐史観」であり、リベラルで左翼的な方々からすれば「加害者意識が足りない」となるのかもしれませんが、逆に言えば、右翼的な方々にも左翼的な方々にも「一般大衆は(「真実」を知っている自分たちとは違って)歴史をこう解釈してしまっているのであろうな」という想定があり、それよりも右寄り/左寄りであることが自分たちの「正しい歴史観」であると思っているはずで、その文脈におけるところの「こう解釈してしまっているであろうな」の考え方が載っている本だと言ってよいと思います。

誤解を恐れず単純化すれば、本書が歴史解釈のベースラインであり、これよりも保守的かリベラルかに分かれる、その丁度よい中間線を最初から最後までそれなりに走破できているという意味で稀有な書籍であるということです。

ここで「歴史解釈のベースライン」と表現したことにも意味がありまして、中間線を走破しているといえど「客観的著述に徹する」といったような腰の引けたことは決してしておらず、一つ一つの事件や事件間の繋がりについて、ある程度濃さのある「解釈」を入れているところに好感が持てますし、難しい試みに成功していると言えます。

着眼点も多様であり、政治(家)の動きや天皇とその側近の動き、そして軍部の動きのそれぞれの関係を多すぎでもなく少なすぎでもない分量で上手に説明しているように感じましたし、それよりは著述が薄いものの、経済やメディアの動向にも気が配られていて、米英独ソ中が日本と並行してどのような外交的活動を行っていたのかについても、「日本」の「昭和史」を語るというテーマ自体に資するカバー範囲や記述の厚みをよく理解しているようなメリハリのついた記述となっております。

それでいて、主要な軍事作戦など注目度の高いところでは戦闘の詳細記述も躊躇なく行われていて、中だるみをすることもなければ駆け足過ぎると感じることもなく、充実した読書時間を過ごしたなという感想を抱くのに丁度よい、見事なまでに過不足のない、素晴らしい通史の本になっています。

さて、ここからは昭和史の中身についての簡単な感想ですが、やはり、無謀な戦争を推し進める原因となった、軍部の強すぎる実質的権限を抑制するのは難しいのだなという月並みな感想を抱きました。

軍部の台頭を増長した要因としてよく挙げられるのが軍部大臣現役武官制(陸軍大臣と海軍大臣はそれぞれ陸海軍の現役将校でなければならないという決まり。この制度を逆手に取り、陸海軍は自分たちにとって不都合な内閣が出来そうになると「誰も陸軍/海軍大臣にしない」という手段で抵抗したり、現行内閣が自分たちにとって不都合な方針を持とうとすると「陸軍/海軍大臣を辞任させて後任を出さない」という方法で内閣を崩壊させた)ですが、仮にこれがなかったとすれば、軍部は二・二六事件のようなクーデタを起こして政権を掌握しようとしたでしょう。

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