「ショートショートの神様」として知られる星新一さんの作品集。
ショートショートを精力的に発表し続けた異端の作家であり、1957年デビューでありながら現在においてもその作品群は根強い人気を誇っております。
日本経済新聞社が毎年開催している小説新人賞「星新一賞」に名前を冠していることもその証左だと言えるでしょう。
文学賞の受賞こそ2度(日本推理作家協会賞・日本SF大賞特別賞)と少ないですが、刊行された作品集の数は膨大で、漫画化やドラマ化されたメディアミックス作品も枚挙に暇がありません。
そんな星新一さんの作品集の中でも、本作は2007年に角川文庫から発売された比較的新しい作品集です。
SF色の濃い表題作から、ミステリ仕立ての作品、あるいはヒューマンドラマに重きを置いた作品など、バラエティ豊かな内容となっておりました。
あらすじ
・地球から来た男
産業スパイとして活躍していた男だが、ある日、潜入先で産業スパイであることが暴かれてしまう。
口封じのため、特殊な装置を使って遥か遠くの惑星に飛ばされてしまった男。
しかし、男の眼前には「地球」そっくりの光景が広がっていて……。
・包み
五十歳を超えても貧乏画家である男の家に、ある日、若い客人が現れる。
若い客人から「包み」を一時的に預かって欲しいと依頼され、承諾した画家の男。
その「包み」を見ていると、男の脳裏には素晴らしい絵のアイデアが次々と浮かんできて……。
感想
まぁまぁ面白くはあるけれども、決定的なインパクトには欠ける話が多いなという印象でした。
「ショートショート」とは得てしてそんなものなのかもしれませんが、濃厚な読書体験を求める身としては物足りなかったというのが正直な感想です。
それでも、いくつか印象に残った話はありましたので、全17編から3編の感想を簡単に記したいと思います。
1つ目のお話は「あらすじ」にも記載した「包み」。
「包み」から得られる発想をもとに画家として大成していく男の奇妙なサクセスストーリーへの感動と、いつまでも「包み」を取りに来ない青年への不思議な感情が交錯する作品です。
私も趣味で小説執筆を行っているのですが、なんでもないものを見ているときだったり(街やオフィスの風景、山や川など)、なんでもないことをしているとき(散歩中や料理中、就寝直前など)にこそ良いアイデアが浮かぶことありますので、その点では共感できる話でした。
本作に出てくる「包み」は主人公の画家にとって真に「なんでもないもの」であるというのが本作の妙味であり、日常の個人的感情から完全に脱却した存在と一緒に過ごしているときこそ良いアイデアが浮かぶよね、ということを星新一さんも言いたかったのかもしれません。
2つ目のお話は「戦士」というタイトル。
とある大企業の課長が、地球を防衛するための地下組織に勧誘され「戦士」になるというお話です。
最終的には「地球防衛軍の『戦士』として死ぬ」という設定の安楽死が実行されただけということが明かされるというブラックなオチなのですが、まるでVR時代の到来を予測していたような作品で少しどきりとさせられます。
どのような最期を迎えるのが幸せなのかという議論が盛んな昨今だからこそ「幸福の中で死んでいくこと」を風刺した作品として魅力が再発見されるべき作品だと感じました。
3つ目のお話は「向上」というタイトル。
発作が起こると三歩のあいだに死んでしまう奇病「三歩病」が流行し始めた世界。
ところが、この「三歩病」は人為的に起こされている病気であり、法では裁けない悪人を殺すために行われているのだ、というデスノート風の話です。
これをデスノートよりも早い段階で書いているですから素晴らしい作家なのだと思わさせられます。
「正義のためなら何でもやっていい」が過激化していって、手段が目的化していく、というありきたりなオチではあるのですが、これを大げさな話にせず抑制的な筆致でテンポよく物語を進ませて、ショートショートの分量に収めてしまうところは星新一作品の面目躍如といったところでしょうか。
結論
大感動があるわけではありませんが、換言すればあっさりとしたショートショート集ですので、隙間時間や通勤電車で読むにはうってつけかもしれません。
故人となった星新一という大作家の作品をエッセンス的に楽しみたいという需要にも応えられるでしょう。
本記事で紹介したような佳作的作品もある一方、「うーん」と思える作品もありましたので、評価は2点(平均的な作品)としますが、星新一の作品集を一つくらい読んでおこうというときには選んでも良い商品だと思います。
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