第4位 「すいかの匂い」江国香織
【蘇るのは無邪気で残酷だった子供時代の感覚】
・あらすじ
母の出産のため叔母さんの家に預けられていた「わたし」だったが、ある日、ふとその家から脱走してしまう。
そして、ひたすら歩き続けた先にあった一軒の民家。
そこに住んでいた家族とは......。
表題作「すいかの匂い」を含め11篇を収録。
・短評
子供の頃って、無慈悲で残酷で、無意味に好き嫌いが激しかったりしましたよね。
小さな動物を殺すことさえ軽い気持ちで実行しまったり、嘘や盗みの癖があるのはむしろ子供だったりします。
それらの行為は倫理上好ましくないことですが、しかしながら、「人間はこうするべき、事物はこうあるべき」という規範を社会から押し付けられる前の方が、ありのままの感情で、生々しく、自然や人の声を感じていたりしていたのだと表現することもできるでしょう。
夏の草木の薫り、罪の歓び。
そして、まともではない、奇妙な大人たちにこそ魅力を感じていた。
その感覚を再び掘り起こし、甘くて淡くて苦いフォルムで見せつけてくださるのが本作です。
これといったストーリーがあるわけではないのですが、読者が人生というストーリーの中で感じたことのある、印象的だが忘れてしまいがちな物事を丹念に描き出した作品だといえるでしょう。
少し陰惨でじっとりと纏わりつくような、少女時代の記憶・感覚。
江國さんの瑞々しい筆致からは、まるでその日々の手触りや匂いまでもが伝わってくるようです。
王道の小説にはない、けれども突飛ではない魅力がこの作品にはあります。
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