「承認欲求」があるからこそ利他的な行動が生まれるという考え方は否定しがたいものです。
しかし、承認欲求を満たすための行為を「他者の課題に介入する悪い行為」だと本書は断じます。
ある努力や決断の最終結果を引き受ける人物こそが、その努力や決断について考えて行動し、自己の課題として解決していくべきである。
本書はそう主張しながら、子供の勉強や進路に対して過度に介入しようとする親の例を挙げ、そんなことをするべきではないし、子供の方でも「親に承認されたい」という気持ちで自分の行動を選んではいけないと諭します。
仕事においても、上司に承認されようという感情は排すべきで、自分の課題だけに目を向け、それを自分自身がどう達成するかに身を捧げるべきだと説きます。
そんなことをすると人間関係が破綻するのではないか、という懸念に対する本書の反論は、「承認欲求」という見返りを期待する人間関係や対人行動のあり方こそ人間関係の破綻をもたらしているのだというものです。
他者に承認してもらうために、本当にやりたいことを我慢する。
他者に承認してもらうために、本当に言いたいことを言わない。
その代わり、心中では思ってもいない行動や発言をする。
これはつまり、他者に対して(そして自分に対しても)嘘をついていることになります。
その結果として他者が自分を承認してくれることもあれば、してくれないこともあるでしょう。
ひとたび承認されたとしても、承認を維持するためには嘘の行動や発言を継続しなければなりませんし、承認されなければ正当な「見返り」がなかったと相手を恨むことになります。
相手に対して示す感情や行動は嘘ばかりで、しかも、自分の感情や行動が相手の気持ち一つでコントロールされている。
そんな悲惨な状況が「承認欲求」ベースの人間関係から生まれているというわけです。
逆に、承認欲求という見返り要求を廃したとき、ようやく自分の正直な感情や行動で他者に接することができる。
その結果として他者に嫌われるかもしれないけれど、それを恐れていては、自分自身が自由に生きることはできないし、他者に対して自由に接することもできなくなる。
「嫌われる勇気」を持つことこそが重要だというわけです。
「承認」が欲しいために自己の課題(自分自身の進路など)を他者の課題にすり替えてしまったり、逆に、他者の課題に介入したりしようとする。
そのために、本心ではない行動や発言をあたかも本心のように偽って実行する。
それこそが自己中心的な態度であり、そこから脱却してこそ、自由で正直で他者と対等で真心のこもった人生が遅れるようになると本書は説きます。
第四夜 世界の中心はどこにあるか
さて、第三夜までは比較的具体的な理論や例が多かったのですが、第四夜からはやや抽象的な議論に入っていきます。
第三夜までが「アドラーの心理学実践法」とするならば、第四夜からは「アドラー心理学思想」ともいえる内容です。
そんな第四夜で語られる内容は「共同体感覚」です。
第三夜において「承認欲求」を捨てて他者の課題から自由になることを主張した本書ですが、第四夜では他者の課題から自由になった後における理想的人間関係として「共同体感覚」が示されます。
非常に抽象的な言葉ですが、第四夜で語られる断片的な内容を纏めると以下のような定義だと言えるでしょう。
「世界の中心は自分ではなく、世界は大きな共同体であり、その一部分として自分が存在している。その大きな共同体にとって自分が有益な存在で、自分には居場所があると感じられること」
このように表現できるのではないでしょうか。
1対1の関係、あるいは、教室や職場のような小規模共同体内における「承認」を求めて行動し続けても、それは場当たり的な承認欲求が満たされることによる自己満足を得るための、自己中心的な行動に過ぎません。
何より、自らの行動原理がその小さな共同体の価値観や利益に縛られてしまいます。
そこで、「共同体」の範囲を人類全体や宇宙にまで広げてみるとどうでしょうか。
その広大な共同体に対して自ら主体的に貢献しようとするとき、自分自身が善い行動をしていると心から感じられるのではないでしょうか。
誰かの承認を前提とせず、自分自身の主観において自分が有益な存在だと感じられるのでしょうか。
こんな内容が延々と記述されていきます。
さすがに抽象的すぎて、具体的にどうやってその感覚を掴むんだと突っ込みたくなってしまうのですが、本書は具体論が充実した自己啓発本という側面と、心理学の巨人アルフレッド・アドラーの思想に(上手く理解できなくとも)触れてみるための本という側面を同時に持っておりますので、この第四夜はなんとなくの理解で良いのではないかと思います。
それこそ、第三夜でも「承認欲求を拒否しろ」と言うだけで、どうやったら「承認欲求」を抑えられるのかという点については記述が薄いんですよね。
そういった部分が本書の数少ない欠点だと言えるかもしれません。
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